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【絶鬼パロ】アイド・エクスペクト・ア・ロット・モア

死体を発見した。……蛙のだ。踏み潰され、干からびている。

壁を背にし、周囲に注意を払いつつ、無人の街を進む。地獄と言われても信じられそうな、この異常な状況。標識などによれば、ここは『平瀬村』というらしい。聞いたことはないが、日本のどこか、なのか。それを模して再現したか。廃村でもなさそうだが、人の気配は……感じられない。疫病とかなら死人がいるはずだが、それもない。

「ドーモ」

通りの向こう、店の中から低い声。敵意はないが、ドスのきいた男性の声だ。挨拶をしてきたということは、鬼ではないのか。あるいは余裕か、こちらを油断させるためか。

店から出て来たのは……ダークスーツ、サングラス、角刈りのごつい男。どう見てもヤクザだ。顔色は悪く無表情、某州知事を思わせる顔つき。武器は持っていないが、武装していておかしくない。自分にこんな機関銃を持たせるような連中だ。子ではなかろうが、鬼や、危険な親である可能性もある。慎重に距離を取り、こちらも挨拶を返す。

「……どうも。……すみませんが、先にあなたの役と、お名前を、お願いするであります」

街中を探索し、ようやく人に出会えた。胸部の豊満な成人女性、であろう。子か、親か。あるいは鬼か。サイバーサングラスで観察する。

比較的鍛えられた筋肉。機関銃で武装重点。眉根を寄せ、緊張ゆえか汗をかいているが、呼吸は激しくはない。多少は荒事に慣れたアトモスフィアから、ニュービー・バトルオイランの類か。こちらは一人で武装は貧弱、刺激してはまずい。

「ドーモ」

距離を取り、アイサツする。油断なく、チャカ・ガンはいつでも抜けるように。相手はやや困惑したようだったが、こちらに殺気がないと分かると、距離を保ったままアイサツを返した。

「……どうも。……すみませんが、先にあなたの役と、お名前を、お願いするであります」

役と、名前。こちらを攻撃する気がないということは、ほぼ確実に鬼ではない。親か。子なら保護重点だが、親であってもうら若き女性、保護対象とすべきか。あるいは武装を交換するか。

ネオサイタマの治安が悪いストリートであんな女性が歩いていれば、多少武装していても確実にファック&サヨナラだ。護衛任務のテストなら、自分や彼女に発信機が仕掛けられていて、モニタリングしているかも知れない。とすれば、こうした女性は保護すべきだ。特に殺害命令も出ていない。

「ドーモ。私の役は『親』です。名前は……」

と、気づく。自分には『名前』がまだ設定されていない。まさか『自分はクローンヤクザY-12型です』と名乗るわけにもいかない。我々の存在は闇社会ですら広まり始めたばかりで、一般市民には知られていないし、知られてはならない。不注意な機密漏洩はヨロシサンの株価に影響する、と研修された。それは絶対に避けねばならない。

個体識別番号自体は、首筋にバーコード化して刻印されている。自分の番号はY-12の○○○○○○○だ。当然、これも明かせない。闇社会とはいえ社会に出て活動する以上、一般市民から名前を聞かれたら名乗らねば、シツレイだし不自然だ。ゆえに雇い主が適当に名前を割り振る事もある。例えばモリタ・イチロー、ジロ、サブロ……ジュウニロ、といったように。ダース単位やグロス単位で取引されるため、名字があればいい。

だが生憎、今の雇い主からは何も名前が与えられていない。名刺も持っていない。自分で自分に名前をつけるほどの自主性や機転は、クローンヤクザにはない。仮であっても、『名付け』は自我を与えるほどの重大事。どうすべきか。

「……名前は、ありません。……仮に『Y-12』と呼んで下さい」

これでいい。嘘はついていない。こう名乗るしかない。この場に他のクローンヤクザがいれば互いの型番や識別番号で名乗りあえばいい。しかし相手は一般市民だ。クローンヤクザであること、ヨロシサンの製品であること、今の雇い主のことは隠した。クローンヤクザにしてはなんたる機転であろう。

「わ……ワイジューニ、殿?」

鬼ではない、子でもない。敵ではない。油断はならないが。しかし『Y-12』とは。名前がないとは、コードネームか。明らかにカタギの存在ではないから、暗殺者とかそういう人なのかも知れない。仲間になってくれれば頼もしそうではある。

「……ええと……じ、自分は『親』の役で、名前は『大和亜季』であります。よろしく!」

ひとまず、自分の役と名前を小声で答える。互いに敵意はないが、いつ何時誰と殺し合いになるかわからない。味方が多くて悪いことはなかろう。機関銃を提げ、右手を挙げてゆっくり近づく。あちらも同じように近づく。道の真ん中で互いの掌をあわせ、敵意がないことを改めて確認する。

「ドーモ、ヤマト・アキ=サン」
Y-12殿が改めてお辞儀した。礼儀正しい人物のようだ。こちらもお辞儀を返す。
「ど、どうも。Y-12殿」

無人の民家に身を潜め、休息を取り、互いに情報を交換する。互いの支給品、デイパックの中身も確認した。電気は来ていないが、飲食物や医療品等はある。つい先程まで人間が生活していたかのように。少し回収し、持っておく。

「た……助かりました。突然何者かに拉致されて、こんな妙な場所に落下傘で投下され、銃火器を配布されるなど……。これは、犯罪ではないでありますか? わ、Y-12殿は、どうお考えですか?」

クローンヤクザ以外の人間をも親としてバラ撒くとは、ヨロシサンはいつもどおりだ。とは言え、彼女にヨロシサンの名をバラすわけには当然いかない。

「ワカリマセン。……何者かが、我々を試している可能性があります。ヤマト=サン」

法に照らせば犯罪だろうが、ヨロシサンを犯罪者呼ばわりは出来ない。仮にヨロシサンでなければ、何らかの非合法組織の仕業だろう。あるいは両方か。殺すつもりなら、こんなゲームを仕掛ける前にいくらでも殺せたはず。ならば、殺し合いを愉しむ連中による、よくあるデスゲームということになる。クローンヤクザから死への恐怖は除去されているが、こういう場合なるべく生き残るためにあがいたほうがいい。連中はそれを見ているのだから。

「生き残りましょう。今はそうとしか言えません」
「は……はい!」

彼女に悪意はない。演技をしている様子もない。純粋に巻き込まれただけだろう。鍛えているようではあるが、彼女に機関銃は重そうだ。自分が装備した方が良いのではないか。そう言おうとした時。

BLAM!

「……!」

窓の外から銃声が一発。殺し合いが始まったのか。警告か、陽動か、おびき寄せる罠か。一発だけなら誤射か。思わず、傍らのY-12殿を見やる。ここを出ては危険だが、とどまるのもどうか。助けを求める子や親がいるかも知れない。どちらがリーダーというわけでもないが、荒事に慣れているのは多分、彼の方だ。自分よりは年上であろうし。

「どうするで、ありますか……?」

【チーム・コマンドー】
【F-02/01時01分】
【大和亜季@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:M60機関銃@現実
[道具]:デイパック(不明支給品1、確認済み)、飲食物・医療品少し
[思考・行動]
基本方針:帰還する。親や子と合流し、情報を集め協力する。
1:Y-12殿をひとまずは信用する。
2:鬼と遭遇したら…この機関銃を撃っていいものか?
3:窓の外の銃声に、どう対応するか? Y-12殿の判断を仰ぐ。
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。
【クローンヤクザY-12型@ニンジャスレイヤー】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:埋込式サイバーサングラス、ドス・ダガー、チャカ・ガン、ヤクザスーツ
[道具]:デイパック(不明支給品2、確認済み)、飲食物・医療品少し
[思考・行動]
基本方針:子を探し、守る。親とは協力する。鬼と遭遇したら排除するか、子を連れて逃走する。
1:自分の身を守れそうにない親も一応守る。今はヤマト=サンをとりあえず護衛する。
2:ヤマト=サンの機関銃を自分が装備した方がいいのではないか、と言い出そうとした。
3:窓の外の銃声に、どう対応するか? 判断を仰がれている。
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。個人名がないため、仮に「Y-12」と名乗る。
このゲームを「ヨロシサンによる自分の機能テストか、非合法組織による殺人ゲーム、あるいはその両方」と認識。
生き残るつもりだが、ヨロシサンの株価が下がりそうな行い(自分の正体をバラすなど)は基本的にしない。

一応参加者が揃ったので、ゲーム開始だ。いきなり一時間経っているが、実は開始から一時間経過までに随分いろいろなことが起きた。タイトルは音楽ではなく、確か書き手が少なかったので「もっと(書き手を)期待します」という意味だったと思う。アットウィキ海みたいに登場人物ごとの追跡表とかも作ればいいが、面倒なのでしない。ここはおれの単なるアーカイブ空間に過ぎない。落選者も何名かいたが、やや危険なのでアーカイブしない。

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