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【絶鬼パロ】銭$ソング

きり丸は、少女に声をかけそびれた。奇妙な町の中にいたはずが、霧に包まれたと思った瞬間、山の中にいたのだ。少女も消えていた。足跡もない。あやかしに化かされたとしか思えなかった。地獄だからそういうこともあるのだろう。あたりを見回すと、『焼場』と書かれた看板が見つかった。

焼場。火葬場のことだ。死体がそこらじゅうにあった室町末期、庶民は基本的に土葬である。野晒しにすると疫病が流行る。火葬されるのは公家や高僧、上級武家など身分の高い人に限られていた。生活必需品たる薪を大量に使い、勿体無いからだ。ということは、近くにそこそこ大きな寺があるのだろうか?

「……いや、地獄に焼場ってのも変だな。全体的に亡者焼く場所だし。それに地獄に寺って、お地蔵様はいるだろうけど……」

取り留めも無い考えに耽るきり丸の耳に―――――金属音が届いた。

<前回

島の南端部、氷川村の『沖木島診療所』。
民家を出た賈詡と椎名翼は、周囲に注意を払いつつ、医薬品の宝庫であろうこの場所に潜入していた。翼の背には赤子。どうも賈詡には懐かず、この赤子を拾った本人が背負うことになった。

「むう……何を持ち出したものか、これは迷う」
「薬品棚の中とか漁るか……鍵はガラス壊せばいいとして……警報装置は……電気来てないか。まあいいや、俺が見繕うから、ちょっとここで待っててくれ。見張り頼む」
「うむ」

賈詡は思う。見たこともないものばかりだ。文明度が全然違う。しかし、あまり戸惑っていると翼に侮られる。ただでさえ耄碌爺か狂人を見る目だ。泰然としていよう。戦闘となれば剣を振るわなくもないが、逃げるにしかずだ。周囲に罠を仕掛けておくのもよかろう。

窓から外を見張る。透明で巨大な琉璃(ガラス)で窓や扉を作るとは、なんと贅沢な。いずれ夢の中か幽冥界のような場所、現実とも思えぬが、さりとて死ぬわけにもいかぬ。

「ふー……あの赤子が、鬼でなければよいが……む?」

チャリン、と銭の落ちる音。机の上にあった銭を、無意識のうちに払い落としてしまったようだ。屈んで拾うと、確かに円銭だが、穴が空いておらぬ。銀色だ。西域の銀銭によく似ているが、国主の顔や鬼神の図像はない。円の中に3つの華。その周囲に小さく文字が……ええい、暗くてよう見えぬ。老眼ではないぞ。裏にも何か紋様が……。

 シュ バ バ バ バ バババババ

「おおッ!?」

 獣の如き影が、突如屋内に飛び込んで来た! 襲って来る! 咄嗟に剣を抜く!

「銭! 銭! 銭! 銭! 銭の! 音ーーーッ!」

「……三国志じじいの次は、忍者少年かよ……勘弁してくれよ……」

翼は顔に縦線を走らせ、額を掌で抑える。ちょっと頭痛がして来た。なんだこのメンバーは。

突然押し入り、剣を抜いた老人を押し倒して百円玉を奪い取った、小学生らしき少年は、なぜか忍者のコスプレをしていた。自ら名乗るところでは「摂津のきり丸」。本名を聞いたが、怪訝な顔で「本名です」と返すだけだ。
敵意はないようだ。一応、こちらも自己紹介はした。

「ふむ、忍者のう。間者のたぐいなら、俺も使っておったぞ。よく働くなら使ってやろう」
「げへへ、ぜひ雇って下さい! 銭は急げ! 銭ある時は鬼をも使う! 銭さえ下されば犬馬の労を厭いません!」
「いや、ロールプレイに乗らなくていいからさ……」

翼が弱々しくツッコむが、賈詡もきり丸も本気で正気だ。きり丸は百円玉一枚を貰って喜んでいる。
「ぐへへ、銭だ銭だ! 見たことない銭だけど、銀じゃないな。錫の多い白銅かなあ」
「うむ、鏡などに使われておるな。しかしなかなか精巧なものよの。もうちょっと落ちておらぬかな」
そう言われて、きり丸は机の下をゴキブリめいて這い回る。翼は訝しむ。

「……あんたら、百円玉見たことないのか?」

「……百円? それ、永楽銭でいうといくらですか? 百文?」
「なんじゃ、永楽銭とは。五銖銭なら知っておるが、董卓以後は随分粗雑になってのう……」

三人がきょとんとした顔で、しばし見つめ合う。
……翼の顔が青ざめる。マジか。こいつら、マジで三国時代の武将と、戦国時代の忍者か。

「あ、翼さん。その赤ん坊、俺が世話しましょうか。よくバイトで子守りやってたんですよ。オシメも換えられますよ」

いや、戦国時代の忍者がバイトとか言うかよ。やっぱロールプレイ過多な現代人だろ。翼は苦笑いし、赤ん坊を彼に預けた。それから賈詡と共に、きり丸と情報共有を行い始める。

きり丸に背負われ、赤ん坊『マニッシュ・ボーイ』はホッと安堵する。少し眠くなってきた。

フー、やれやれ……なんだか知らんが、子守り出来るヤツが来たのは良かったぜ。男だが……。じじいの持ってた情報によれば、鬼ごっこは24時間も続く。ってことは、いずれ仮眠を取るヤツは必ず出て来る。その時にゆっくりおれの情報を伝えりゃいいんだ。なるべく複数人に同時に伝えた方が、信じてもらいやすいだろう。特にあのじじいは疑り深いから、早めに伝えておいて誤解を解いたがいいな。ガキどもは後でいい。

【I-07(診療所)/00時45分】
【賈詡@蒼天航路】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:作務衣(民家から拝借)、直剣(私物)
[道具]:デイパック(確認済みの不明支給品2、漢服)
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。他人が死のうと、最終的に自分が生き残ればそれでよい。
1:多くの親や子と早めに提携し、情報を集める。場合によっては鬼や主催者とも交渉する。
2:民家や診療所から使えそうなものを持ち出す。翼やきり丸は有能そうなので活用する。
3:赤子(マニッシュ・ボーイ)に牙があるのを見たため、鬼ではないかと疑っているが確証は持てない。
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。
【椎名翼@ホイッスル!】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:サッカーバッグ(水筒や包帯入り)、サッカーボール
[道具]:式札、財布(小遣い若干)
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。主催者を殴れたら殴る。子や親の犠牲はなるべく出したくない。
1:多くの親や子と早めに提携し、情報を集める。民家や診療所から使えそうなものを持ち出す。
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。自分の役を子であると推測。
賈詡のことは(日本語も通じるし)ただの変なじじいと思っている。きり丸についても現代人だと認識している。
【マニッシュボーイ@ジョジョの奇妙な冒険】
[役]:子
[状態]:健康、眠気 きり丸に背負われている
[装備]:死神13
[道具]:式札(オムツの中)
[思考・行動]
基本方針:生き残る。普通の赤ん坊のように振る舞い、自分を保護させる。
1:誰かが仮眠をとったら、自分の正体と能力を夢の中で伝える。
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。自分の役を鬼か子(たぶん子)であると推測。
【摂津のきり丸@落第忍者乱太郎/忍たま乱太郎】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:忍者装束、忍具一式、マニッシュ・ボーイ(おぶっている)
[道具]:水晶、百円玉
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。
1:多くの親や子と早めに提携し、情報を集める。ついでに銭になりそうなものを収集する。
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。自分の役を子であると推測。

時代錯誤な連中を合流させてみた。きり丸が冒頭で少女を探しているのは、おれ以外の書き手が彼を参加者の誰かとニアミスさせたためだ。そしていきなり転移しているのは、2種類の地図を書き手たちが取り違えていたという事件が起きたためだ。結局は前に示した地図に収束したが、なんか面白いので名残を残しておく。この世界は舞台すらふわふわしているのだ。

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