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【つの版】ユダヤの謎12・終末黙示

ドーモ、三宅つのです。前回の続きです。

西暦70年、エルサレムの第二神殿はローマ軍の攻撃で焼け落ちました。ローマは神殿再建を許さず、ユダヤ教ファリサイ派はヤムニアに中心地を遷してユダヤ人を管轄しました。ユダヤ教から派生したキリスト教はこの頃に福音書を編纂しています。そして1世紀末頃、『ヨハネの黙示録』が現れます。

◆黙◆

◆示◆

約翰文書

新約聖書に含まれる諸文書のうち、『ヨハネによる福音書(ヨハネ伝)』と三通の『ヨハネの手紙』、及び『ヨハネの黙示録』を「ヨハネ文書」と総称します。これらは十二使徒ヨハネ(ゼベダイの子、ヤコブの弟)の著作とされますが、近代以後の聖書学では文体や内容からして1世紀末、ないし2世紀頃の成立と考えられています。これらの著者は「ヨハネ教団/ヨハネ派」とでも呼ぶべき思想集団に属していたようで、使徒ヨハネを「イエスの愛しておられた弟子」と呼び、イエスの磔刑の時には十字架の下にマリアと共にいたとして持ち上げ、逆にペテロをやや貶める傾向が見られます。

彼らは世代的にペテロらより若く、キリスト教の教義を神学的考察により深め、イエスを「始めに神と共にあった言葉、光」という神秘的存在として描いています。ナザレのイエスはメシア(キリスト)、死から復活した者と高められ、ついに「神に近い者」「神に等しい者」とされ始めたのです。ヤハウェ以外の神を認めないユダヤ教からすれば完全に異端ですが、ユダヤ教でも大天使ミカエル(「誰が神の如くであるか」の意)という神めいた存在がいますし、多神教では神が何柱いようと構いません。

ともあれ、『ヨハネの黙示録(Apocalypsis、覆いをとって明らかにする、啓示)』はこのようなヨハネ派によって書かれたもので、イエスは極めて神秘的な、神に等しい存在として描かれます。また未来に起きるとされる世界の終末、神と悪魔の最終戦争、最後の審判や千年王国について詳しく書き綴られています。同様の黙示録は外典偽典(正典とされなかったもの)にも多くありますが、キリスト教の正典に含まれるのはこれだけです。

七大災厄

『ヨハネの黙示録』において、イエスは「地上の諸王の支配者」「初めであり終わりである者」と呼ばれ、太陽のように光り輝く存在としてヨハネの前に現れます。彼は(エルサレムやアンティオキアやローマではなく)小アジアにある七つの教会に「最初の愛から離れた」「誤った教えに走った」「目を覚ませ」「なまぬるい」などのメッセージを送ります。ヨハネ派がこれらの教会を拠点としていたのでしょう。

4章では、ヨハネが天に昇って神の玉座を見せられます。玉座には碧玉や赤瑪瑙のような存在(神)がおり、虹めいた後光を放っています。その周囲に(十二支族・十二使徒を2倍した)24人の長老がおり、玉座の前には(至聖所の前の燭台に)神の7つの霊が燃え、水晶か琉璃のような海(天空)が広がり、側近くには獅子・雄牛・人・鷲の姿をした4つの生き物(天使)がいます。彼らには6つの翼があり、全身に目があり、絶え間なく神を讃えていたといい、エゼキエル書のケルビム(守護天使)、イザヤ書のセラフィム(燃え上がる天使)とそっくりです。

次いで神が七つの封印で閉じた巻物が「ユダ族の獅子、ダビデの若枝」なる「屠られた子羊(イエス)」に手渡され、封印が解かれます。子羊イエスは神の霊を表す七つの角と七つの目を持っていたといい、完全に化け物です。

封印が解かれると、4つの生き物の呼びかけに答え、白・赤・黒・緑(蒼)の馬に乗った超自然的存在が次々に出現します。それらは勝利(支配)、戦争、飢饉、死をもたらすとされます。第5の封印が解かれると殉教者の霊が血の復讐を求め、白い衣を授けられます。第6の封印が解かれると天変地異が起き、太陽は黒く月は赤くなり、星々は落下し、天は巻物のように巻かれて消え去ります。またイスラエル十二支族(ダン族を抜かしてレビ族が入っていますが)から1万2000人ずつが選ばれ(合計14万4000人)、殉教者らが神を讃えます。

第7の封印が解かれると、7人の天使がラッパを吹き鳴らします。すると地上の草木が燃え上がり、海が血になり、川が苦くなり、日月星辰が暗くなり(さっき落ちたはずですが)、地獄の底からサソリめいた尾を持つ蝗の大群が現れて人類を苦しめ、ユーフラテス川のほとり(パルティア)から2億人の超自然的な騎兵が現れ、4人の天使(先程の4騎士か?)に率いられて人類を殺戮します。しかし人類は悔い改めず、偶像崇拝を続けました。

ヨハネは天使から巻物を授かって食べさせられ、測り竿で神殿や礼拝者を測れと命じられます。また「異邦人は42ヶ月(1260日、3年半)の間聖なる都を踏み躙る」「2人の預言者が現れて様々な奇跡を行った後、地獄から現れる獣(ローマ?)に殺されるが、3日半の後に神によって蘇生させられ、昇天する。その時に大地震が起きる」と予言されます。

そして第7のラッパが吹き鳴らされると、神とキリストによる地上の支配が宣言され、天の至聖所の幕が開けて「契約の箱」が現れ、稲妻と雷鳴と地震が起きて雹が降り注ぎます。

赤龍悪獣

12章からは話が変わり、太陽を身に纏い月を踏み、十二の星の冠を戴く妊婦(エルサレム、イスラエル、教会、聖母マリア)と、七つの頭と十本の角を持つ赤い龍(サタン、七つの丘と10人の皇帝、ローマ帝国)が天に現れます。龍は妊婦が子を産んだら食い尽くそうとしていましたが、子(イエス)は神の座に引き上げられ、母親は荒野へ逃げます。

この龍とその軍勢は、大天使ミカエル率いる天使たちと戦って天から投げ落とされ、地上にやって来ました。そしてあの男子の母親を追いかけますが、彼女は神に翼を与えられて荒野へ飛んでいき、1260日=3年半を神によって養われます。龍は怒り狂い、彼女の子らである「神の戒めを守り、イエスの証を持つ者たち(キリスト教徒)」に戦いを挑むために出て行きました。

わたしは恨みをおく、おまえと女とのあいだに、おまえのすえと女のすえとの間に。彼はおまえのかしらを砕き、おまえは彼のかかとを砕くであろう。(創世記3:15

龍が海辺に立っていると、やはり七つの頭と十本の角を持つ獣が海から現れます。それは豹に似ており、足は熊のごとく、口は獅子に似ていました(ダニエル書の4つの獣をミックスしたわけです)。また十本の角には各々冠があり、頭には神を汚す名(ローマ皇帝の名)があったといいます。龍はこの獣に自らの権威を与え、人々は獣を拝みました。獣には42ヶ月(1260日)の間活動する権威が(神に)与えられ、聖徒(ユダヤ人)を打倒し、神を冒涜してその聖所(エルサレム神殿)を汚しました。

さらに別の獣が地から現れ、子羊(キリスト)のような2つの角があって龍(サタン)のような物言いをし、様々な奇跡を行って人々を惑わし、先の獣(ローマ皇帝)の偶像を造って拝ませました。また天下万民の手や額に刻印を押させ、この刻印がない者は物を売り買いできなくさせました。それは獣の名であり、数字で表せば666で、ある人間を指しています。

これはヘブライ文字のアルファベットに数字を割り振る「ゲマトリア」という暗号で、NRWN KSR、ギリシア語Neron Kaisar、すなわち「皇帝ネロ」を意味すると解釈されています。ネロは西暦68年に自殺していますが、民衆には割と人気があり、生きて東方に逃れたという伝説がありました。

これに対し、先程の選ばれた民は額に「子羊とその父の名」が刻まれていました。天使らは「バビロン(ローマ)は倒れた」「獣とその偶像を拝む者は神の怒りを受けて地獄へ落ちるであろう」と著者の意見を代弁します。

淫婦覆滅

ヨハネは天使らの忠告を書き留めた後、天から鋭い鎌が地上に投げ込まれ、地の葡萄の房(罪深い人類)を刈り取る幻を見ます。それらは神の怒りの酒槽に投げ込まれ、都の外で踏みにじられて血が溢れかえったといい、ヤハウェの怒りの凄まじさを表します。

神はさらに怒りに満ちた七つの鉢を天使らに授け、地上へぶちまけます。すると悪人どもは腫物のできる疫病に罹り、海も淡水も血に変わり、太陽が火で悪人を焼き、獣の国(ローマ)は闇に覆われて苦痛を受けます。それでも悪人どもは悔い改めません。第6の鉢がユーフラテス川に傾けられると、川は涸れ、「日の出る方から来る王たち(パルティア)」に対し道を備えます。また龍と獣と偽預言者(二匹目の獣?)の口から蛙のような汚れた霊が出て全世界の王たちを招集し、ハルマゲドン(メギドの丘)に軍勢を集めます。

七つの封印、七つのラッパ、七つの鉢と、やたら七つの災いが繰り返されます。それぞれ重複する災いもありますから、終末に起きることとしていろいろな伝承があったのを全部まとめたのでしょう。川が血になったり疫病や蝗や暗闇の災いが起きたりするのは出エジプトの時の十の災いそのままです。ただしローマ帝国を懲らしめ滅ぼすため、ユーフラテスの彼方のパルティアが攻めてくるという予言が付け加わっています。ユダヤ人とペルシア帝国は縁が深く、パルティアはしばしば反ローマ運動の支援を行っています。彼らがメギドで激突するというのは、ユダ王ヨシヤの故事にちなんでいます。

第七の鉢が傾けられると大地震が起き、大いなる都(ローマ)は3つに割れて島も山も見えなくなり、巨大な雹が降り注いで人類を苦しめます。

この都は「大淫婦バビロン」と呼ばれ、多くの水(諸国民)の上、七頭十角の赤い獣の上に座っています。彼女は豪奢な衣服と装身具で身を飾り、汚れで満ちた金の杯を持っており、全世界と姦淫(交易)を行って富み栄えていましたが、神の怒りで滅ぶ(あるいは獣に食い殺される)といいます。国や都を女性として擬人化するのは、旧約聖書でもイスラエルやエルサレムに対して行われています。

天使はヨハネに教えてこういいます。「この獣は、昔はいたが今はおらず、やがて底しれぬところ(地獄)から上ってきて滅びに至る。七つの頭は彼女の座る七つの山(ローマの七丘)、また七人の王(皇帝)である。五人(アウグストゥス、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロ)は倒れ、ひとりは今おり(ウェスパシアヌス)、もうひとりはまだ来ておらず、しばらく在位する(ティトゥス)。その後に来る第八のもの(ドミティアヌス)は、前にいた七人のひとり(ネロの再来)である。

十の角は十人の王で、その獣と共に王の権威を受け、自分たちの力と権威を獣に与える。彼らは子羊(イエス)に戦いを挑むが、子羊は彼らに打ち勝って、子羊に従う者にも勝利を与える」…というのです。要するに小アジアでドミティアヌスがキリスト教徒を迫害したため、信者たちを励ますためにこの黙示録が書かれたようなのです。今いる王がウェスパシアヌスなのは、使徒ヨハネがドミティアヌスの時には死んでいたのでしょうか。

ドミティアヌスに権威を与える十人の王は誰か知りませんが、元老院でなければダニエル書の第四の獣の角を流用したのでしょう。赤い龍が獣に権威を与えたというのは、セレウコス朝の後をローマ帝国が引き継いだような感じもありますね。ドミティアヌスの死後もローマは滅んでいませんが。

千年王国

悪の都ローマが滅ぶと、子羊(イエス)は天上で花嫁(教会)を娶り、白馬に乗って地上に降臨します。地上の王たちは獣に率いられ彼と戦いますが、彼は口から剣(言葉)を吐き出して敵を皆殺しにし、獣と偽預言者を捕縛して火と硫黄の池(地獄)へ投げ込みます。また天使が世界中の鳥を呼び集めて、殺された者たちの肉を食らわせ、赤い龍(サタン)を捕らえて底しれぬところへ投げ込み、千年の間封印します。

すると殉教者たちがみな復活し、14万4000人の選ばれた民たちと共に、再臨したイエスのもとで千年の間地上を治めます。これが「千年王国」です。

千年が経過すると、サタンは封印を解かれて地上に再び現れ、地上の四方の民、ゴグとマゴグを惑わして(エゼキエル書ではマゴグの地のゴグ)戦いのために集め、聖なる都を攻め囲みます。しかし彼らは天からの火で滅ぼされてしまい、サタンは改めて火と硫黄の池へ投げ込まれ、永遠に苦しみます。

これらの後、天も地も消え去って跡形もなくなり、全ての死者が復活して神の裁き(最後の審判)を受けます。彼らは生前の行いに応じて裁かれ、命の書に名が記されていない者は火と硫黄の池へ投げ込まれますが、そうでない者は永遠の生命を受けます。新しい天と新しい地が現れ、天からは巨大な立方体の形をした「新しいエルサレム」が降臨し、永遠の都となるのです。

◆黙◆

旧約聖書からのパクリやら繰り返しが多いですが、なかなか壮大な終末論ですね。しかし、なぜサタンが最初に滅ぼされず、千年王国を挟んだのでしょうか。そもサタンはなぜ存在し、全知全能の神に逆らうのでしょうか。

こうした終末論は、古代イスラエル人の宗教にはもともと存在しませんでした。エジプトでは個々人の死後の審判はあったものの、霊魂が来世に行くか消滅するかの二択で、全世界が滅んでしまうことはありません。悪神セトや悪蛇アペプはいても、世界に必要な存在として抹消はされません。メソポタミアやカナアン、ギリシアやローマの神話では、死者の霊魂は不毛で陰鬱な冥界へ赴き、冥府の神の支配下で永遠に暮らすと信じられ、死後の天国や地獄も特別な善人や悪人を除けば用意されていませんでした。これらの概念はユダヤ人がゾロアスター教から借用したのです。

【続く】

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