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夕遊の言の葉

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言葉や外国語、海外生活に関する記事をまとめてみました。
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記事一覧

かなりとがった戦略本。『天才による凡人のための短歌教室』木下龍也

私が現代的な短歌を知ったのは、学生時代、俵万智さんの『サラダ記念日』とかがベストセラーになってからでしょうか。短歌自体にそれほど興味はなかったものの、俵万智さんの『短歌をよむ』は、短歌の歴史や短歌をどう読むか、詠むか、短歌界がどうなっているのか、短歌の表現についてわかりやすく書かれていたのでおもしろかったです。 とはいえ、短歌に疎い私。この本を手に取ったのは本当に偶然なのですが、予想に反して、尖っていたので驚きました。まず、タイトルからして叙述トリック。「天才による凡人のた

パターンがわかると楽しくなる。『英語の思考法』井上逸兵

日本語も英語も、コミュニケーションには独特のお約束があります。井上先生によれば、ざっくり「個」、「つながり」、「対等」の3つに分けることができるとか。それを、みんながよく知るジブリの映画の英語翻訳なんかを使って、わかりやすく説明してくれます。サブタイトルの通り、話すためのレッスン。会話なので、例文も基本1行なのがうれしい。 「個」というのは、相手の意思を尊重して、そこには踏み込まない会話のこと。例えば、映画『千と千尋の神隠し』の中で、主人公の千尋が「私、釜爺のとこいかなきゃ

ココロとカラダのあいだを行き来する。『自分疲れ』頭木弘樹

以前なら、ちょっと無理しても大丈夫だったのに、今は休みながらでないと仕事が続かない。うっかりすると、すぐ身体のどこかを痛めてしまう。天気が悪いと辛いときがある。怪我したわけでもないのに、指が動かなくなる……ヨガやピラティスに一年以上通ううち、ようやく「そういう年齢になったんだ」と理解できました。遅すぎです。 この本は、何となくしんどいときにも、さらっと読めます。片手サイズで軽くて、ページはめくりやすい程よい厚さと手触り。文字のフォントも行間もいい感じで、文章は個包装だから、

フランス人としてパリオリンピック開会式を分析してみた 🇫🇷

2024年パリ・オリンピックの開会式のスクショや画像を見て、「一体なにが起きてるのか」と思ったかもしれない。確かに他国の開会式を観ていると、なぜこの人が注目されているのか、なぜこの音楽が選ばれたのかを理解するのは難しい。フランス人として、この記事で説明したい。 残念ながら今回はフランスのメディアの動画は地域制限がかかっているため、記事には公開できないのでスクリーンショットしか載せられない。ご理解の程よろしくお願いいたします! ・開会式の始まりフランスで最も人気のあるコメデ

今年必読の1冊。『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』渡辺将人

今年は台湾の選挙イヤー。そのおかげか、昨年、一昨年と台湾関連の良書がたくさん出版されて、うれしい悲鳴の日々。読むのが追いつかなくて仕事を放棄したくなるくらい。でも、まさかそんな大豊作の中で、予想もしないような読み応えある本が出てくるとは。学問の可能性は、どこまでも果てしない。うれしい。 これまで日本で出版されてきた、どんな台湾の歴史の本とも、全く違う渡辺先生の本。アメリカで政治活動を実際にやったことがある、渡辺先生ならではの視点から台湾のデモクラシーについて書かれています。

新しい世界は闇から始まる。『闇の中国語入門』楊駿驍

「歌は世につれ、世は歌につれ」。それは歌だけでなく、言葉も同じ。新しい言葉ができたり、海外から入ってきたり。そして、それがその国独特の言葉に変化していきます。もともとネガティブな言葉が普通になって、さらにポジティブな意味も加わったり。言葉をめぐるおもしろさは、単純なコミュニケーションの道具というだけじゃなく、世の中の変化を定点観察できる部分にもあります。 楊先生の文章は、noteの記事をもとに書かれたそうですが、1冊の本として読むと、その構成力や深みのある洞察、なにより、1

スリリングでミステリーでおいしい小説は反則『炒飯狙撃手』張國立(玉田誠訳)

狙撃手(スナイパー)のイメージといえば、孤高。人付き合い苦手。無駄なことしない。無口。ストイック。百発百中の仕事人。なのに、本書のタイトルは「炒飯」+「狙撃手」。炒飯ですよ、チャーハン!!! この矛盾率高過ぎな言葉の並びだけで、中華好き&言語好きの10人中7.3人は本を手にとってしまうはず。 主人公の狙撃手「小艾(シャオアイ:艾礼)」は、組織の指示通り、ローマで東洋人のターゲットを射殺しました。あちこちにある防犯カメラを想定して、変装と移動を繰り返し、完璧な仕事をしたはずな

平安時代、最大の対外危機『刀伊の入寇』関幸彦

今年の大河ドラマは、私の好きな清少納言が出るというので、楽しみにしていました。見る時間はないけれど、SNSでいろんな感想やら解説があふれてくるのを見つつ、全体像を想像するのが毎週楽しいです。 平安知識があんまりないので、清少納言が使える中宮定子が、父親を亡くして、兄弟の藤原伊周と隆家がやらかしたせいで、どんどんつらい立場に立たされて、しかも叔父の藤原道長が権力者になって、彼の娘彰子が入内したから、悲しい最後を遂げた……くらいしか知りません。 もちろん、道長だって最初から権

中国国家レベルのプロジェクト「全球漢籍合璧工程(世界漢籍統合プロジェクト)」に協力した時のこと

 ナカシャクリエイテブが取り組んでいる文化財関連の業務は、文化財のデジタルアーカイブやレプリカ作成、アプリ・WEBサイトの開発、博物館展示支援など様々ですが、資料の整理や学術調査のサポートもおこなっています。  お客様としては日本国内の博物館や図書館、自治体様が多いのですが、実は海外のお客様とお仕事をさせていただくこともあるんです(海外に出張することもしばしば…)。そこで今後、NOTEでは海外との業務や海外の博物館事情などもご紹介していきます。  それは2018年のこと。

ファンタジーと歴史とSFと。ケン・リュウ『母の記憶に』古沢嘉通他訳

有名すぎるくらい有名なケン・リュウの小説。これまで、なかなか時間とタイミングがなかったですが、とうとう読めてよかったです。短編集なので、ビギナーにもやさしいですし、いろんな物語がまとめられているので、タイトルを確認しつつ、好きなから読めるのもいいです。 ケン・リュウは、中国出身の作家さんでアメリカに住んでいて、たくさんの作品を書いているうえに、英訳した『三体』を各方面に宣伝して世界的大ヒットにしただけじゃなくて、各地の作家さんの作品が国境を国境を超えて読まれ、メディア化され

奈良と鹿と初夏の散策。『空海―密教のルーツとマンダラ世界』奈良国立博物館

友だちと久しぶりの奈良デート。行先はもちろん奈良博。空海展ということで、混んでいることを予想。早起きして、開館前に到着するように待ち合わせ。奈良公園では、鹿たちがすでに、せんべい屋さんの前でスタンバイ。どちらも気合充分です。 さて、「空海」展ですが、すごくよかったです。ほとんど撮影不可だったので、詳しい内容を知りたい方は、公式サイトをどうぞ。平安時代(9世紀)の五智如来蔵とか、十二天像、不動明王坐像などなど、大きくて迫力ありました。 珍しくておもしろかったのは、インドネシ

南の島の生命力と詞の世界。『雨の島』呉明益(及川茜訳)

台湾の呉明益さんの小説は、日本語訳がいくつかあります。現実とフィクション、現在と過去が行き来する独特の文体と世界観で、私が好きなのは『自転車泥棒』。台湾原住民の言い伝えと、日本植民地時代の銀輪部隊の歴史、現代台湾の自転車王国状況が入り混じった、不思議な小説です。 『雨の島』は事前情報がなくて、時間があれば……という程度で読み始めたら止まらなくなりました。なんせ、台湾の自然描写がすごい。木や植物、動物の野性的な生命力と、その源泉の太陽の強さとまぶしさ、圧倒的な水分の多い筆力が

耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭さんのインタビューが掲載されていた『すばる』2003年6月号もすごかったですから、当然といえば当然なのかも。 さて、周密さんの『BLと中国』は、日本でいわゆる「BL」とされる物語が、中国では「耽美」(Danmei)と呼ばれている、その語源からたどります。日本が新しいもの=外来語を使って新しさや付加価値つけて表現し、そ

(ある時代の、ある身分の)女性の名前のこと

初対面の人とあえば、○○ですと互いに自分の名前から自己紹介をはじめる。そんなとき、僕は頭の中で、この人の名前をどう書くんだろうと自分のなかの音訓の知識を駆使してあてようと試みるが、これがなかなか難しい。 それは現代の人々の名前で用いられる漢字と、常用の漢字とでは訓が(ときには音も)かけ離れていることが往々にしてあるためである。 しかし、それはなにも今にはじまったことではなく、古来、日本において名前に用いられる漢字の読み方は尋常の読みとは異なっていたらしい。近世の考証随筆を見て