ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)
予備知識ゼロで手に取った、王安憶の長編『長恨歌』。白居易の『長恨歌』と同じ名前の現代小説なんて、一体どんなだろうと読み始めたのですが、独特な文体にあっという間に引き込まれました。彼女の文体は、中国で「評論叙事文体」と名付けられたそうです。
凝った表現や、美麗な修辞でもなくて、一文、一文はシンプルで短いのに、それが一つ、また一つと連ねられると、他の誰とも違う雰囲気を醸し出す不思議。例えば、冒頭はこんな感じに始まります。
本書は、1945年の上海という都市の複雑に入り組んだ町