ガソリンスタンド[ショートストリー]

「ガソリンスタンド寄ってから 向かってもいい?」
今日は彼氏と海へ行く予定。
着く時間を決めていたわけじゃ無いから、
のんびり向かうつもりだったのだろう。
「別にいいよ」
彼はそれを聞くと、海へ向かう方向とは違う方へウインカーだした。

独特のガソリンのにおい。
従業員の声。
洗車の音。
そして、無言の彼。

いつからだろう、この無言の時間が重苦しく感じる様になったのは。

付き合いたての時は、この無言の時間が気まずくて、一生懸命に何か言葉を探したっけ。
そのうち 無言の時間が居心地良くなって、自然だった。

そして今は 苦しい。

お互い何か言葉を探っている。
この空気感。

まるでこのガソリンのにおいが、私の心みたいに。
従業員の声が、2人の無言を助けてくれるかのように。
洗車のマシンの無機質に繰り返される音が、時間を遅くしているかのように。

......この空気は好きじゃ無い。

大丈夫。私は感情的になっていない。

早く このガソリンのにおいから解放されたい。

「ありがとうございました!」

いつの間にか給油は終わっていたらしい。

「海へ向かおうか?」
そう言って車は道路へ出た。

車内は ガソリンのにおいがしたままだった....。

「私 この空気 嫌い....」

彼は 窓を全開に開けてくれた。
彼は無言のままだった。

匂いが消えない。
もうガソリンスタンドから離れてるのに
消えない。

大丈夫。まだ大丈夫なはずだ。
彼は悪くない。

においに耐えながら 窓を見てると
海が見えた。

広い海。
彼氏と一緒に見たかった、海。

ああ、私が悪かったんだ。
一生懸命自分に言い訳して 
冷めてしまった心に気づかないふりをしていたんだ。

私は、海の匂いに気づいた。

[ガソリンスタンド][客観的]

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