【歳時記と落語】雨水、旅券の日
2021年2月18日は二十四節気の「雨水」でした。さて、この「雨水」は、雪が雨に変わる、という目安です。
今年は、たまたま七草とかぶったんで、先にそっちを投稿しましたが、実際にはなかなか温かくなりません。寒いと出歩こうという気にもなりまへんわな。
というわけで、出歩くと言うと、20日は「旅券の日」やそうで、こっちの話をさせていただきたいと思います。明治11(1878)年のこの日に「海外旅券規則」が制定され「旅券」つまり「パスポートというものが正式にできたんです。
パスポートのようなもんは昔からありました。「手形」やとか「切手」というやつです。
「通行手形(往来手形)」は、主に菩提寺で発行されたもんです。昔は寺の記録が戸籍みたいなもんでしたから、こういうこともしたんですな。どこの誰であるかという身元証明書と、どこに行くのかという旅行許可証を兼ねたもんやそうです。
もう一つ、関所手形とうのがあります。これは町役人や大家が発行したもんで、関所ごとに必要でした。
「通行手形」は身分証明をかねていますから、一人一通必要ですが、関所手形はグループで一通でよかったんやそうです。
旅の話は色々ありますが、今回は、季節はちょっと合わんのですが、「鯉津栄之助」という珍しい噺をご紹介しましょう。
ここにおりました喜六・清八という大阪の若いもん二人、伊勢参りの途中で、伊賀の名張へやってましりました。
おりしも所の領主・鯉津氏にご嫡男「栄之助」様がご誕生なさった。そこで、ご嫡男の名前に通じる「こいつぁええ」という言葉を禁じる旨お触れが出ております。
さて、二人が関所へやってまいりますと手形をもとめられますが、生憎この関の手形は用意しておりまへん。ところが、吉事もあったことですので、関所のほうでも、
「おめでたい御代故、芸を見せれば通してやる」
という按配です。
都々逸やらを疲労して、通してもらいまして、煮売り屋で一杯やっていると、裏の方から三味線の音がする。見るときれいどころが三人寄って三味線を弾いている。
「一杯飲みながら三味線の音を聞く。こいつぁええなあ」
途端に役人なだれ込んできて、喜六が捕らえられてしまう。
清八が言い訳を始めます。
「違いますがな。裏手で三味線の音色が聞こえまして。見ますと、綺麗な娘はん三人が三味線を弾いております。そのお着物の見事なこと。右が縞、真ん中が花柄で、左が濃い茶色でございます。三人の中で、左端のお嬢さんの三味線が一番うまいと思いましてね、濃い茶のがええなぁ、濃い茶ぁええなあと、こう申した次第で」
それを聞いたお役人、なかなかうまい言い訳をすると、膝を叩きます。
「こいつぁええ」
長く滅んでいたのを、二代目露の五郎兵衛が復活したもんで、原話は、『聞童子』(1775年)所収の「はやり」です。」
殿様目付衆を御よびなされ、「ちか頃家中にて武士のあるましきはやり詞とやらを申す。此間も近習の左織が、こいつはよいというた、さりとはいやしい詞じや。近習にはつかはれまい」と、御機嫌さんざん。御目付承り、「左織事御しかり御尤に奉存候。しかしながら、其せつ左織が小袖の染色の義に付、こびちやはよいと申しましたを、御前には御ききちがい」と申せば、殿様「フウこいつはゑゑ」。
色々味付けがされて今の形になっていますが、サゲが着物の話だという言い訳につられて……というのは変わっていません。
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