見出し画像

【歳時記と落語】えべっさん

阪神では、1月9日から11日までは戎祭りです。9日が宵戎、10日は十日戎、11日は残り福ですな。堀川戎、今宮戎、西宮戎あたりがえらい人出です。

画像1

大阪というと何というても今宮戎です。

画像2

この大阪を代表する戎さん、耳が遠いという話があります。それで、願い事をする人は社殿の裏をどんどんと叩いたというんですな。何でこんな話になったかというと、戎さんは大阪に背中をむけてはる。本殿はそもそも南向きなんで、別に他意があるわけやないんですが、それがこちらを向いてくれヘンということで、「聞こえん人」やと言うた。それが耳が聞こえんと言うことになったというんです。

この十日戎が舞台になっているが、「蜆売り」です。大阪ではあんまりやる人はありませんが。桂福團治師匠や林家染二師が持ちネタにしてはります。ちょっとしんみりとする噺です。

寒い中、まだ幼さの残る男の子が蜆を売っております。ある家の前へ行って声をかけますが、中にいる若い衆は買うてはくれません。そこへ親方が戻って参りまして、すっくり買うてくれる。そしてなんで蜆を売っているのかと尋ねますと、男の子が語ります。
父親はおらんで、母親は目が見えん。姉は旦那と商売をしておったんやが、上手いこといかんと借金がかさみ、謝金取りが毎日やってくる。いよいよ戎橋の上から身を投げようとしたとき、偶々通りかかった人が、金を渡してくれたんでたすかったんやが、近所に泥棒が入ったことがあって、急に金回りがようなったのがおかしいというので旦那さんは引っ立てられていって姉さんは病気になって寝込んでしもうた。それで、男の子が蜆を売って暮らしているというんです。
固持する男の子に親方は、母親と姉さんの治療代やというて過分なお金を渡します。
深々と頭をさげて、男の子はて天秤棒を担いで帰ります。
親方が感心していると、若いもんがが腹が立ってきたと言います。
「どうしたんじゃ」
「いや、その戎橋の橋の上でお金をやった人、何で名前を名乗ってやらなんだんかいな、と思いましてな。親方、その年の十二月の十五日でしたか、確か集金に行った帰りがけ、戎橋にさしかかった時でしたかなぁ、若い男女が飛び込もとしてましたがな。うしろからそうっと行って助けて、ぎょうさんお金をやって、名前も名乗らんと帰った。親方、あんたでっせ」
親方も思い出しました。よかれと思ったことが裏目にでてしもうた。そしてその弟にまた恵んでやった。
「あの時に助けてやったんが、俺としてはあの子に甲斐があったというものかなあ? あの子に対して、甲斐があったんかいなあ?」
「何を言うてんねん親方、甲斐(貝)があるさかいシジミ売れてまんねや」

四代目桂文我師匠の「復活珍品上方落語選集」では、この親方は、大阪の南堀江の中川清之助という土地の顔役になっております。十手をを預かる一方で、やくざな稼業もしている。しかし悪い人ではのうて、金が余っているようなところから取り立てて、恵まれない人に施しているという人です。まあ「侠客」と言われるようなお方ですな。由来はちょっとわかりません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?