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【歳時記と落語】大暑

2020年は7月22日が「大暑」。夏の土用の頃で、そろそろ梅雨明けになります。一番暑い頃という意味なんですが、日本では実際に暑さのピークはもうちょっと遅れて、暦の上では残暑の頃にやってきます。

大阪では、この時期はなんというても、鱧と天神祭りです。
鱧は京都も同じで、これがないと夏という気がしません。
大阪湾では鱧が取れますが、この暑い中を京まで運んでもまだ生きてるというくらい生命力が強いんやそうで、貴重な食材やというのと、「精がつく」というので食べるようになったらしい。

しかし、他所、特に東の方ではとんと食べまへん。小骨が多いんで骨きりをせなならんというのが面倒なんでしょうな。しかし、昨今シラスが不漁で鰻がえろう高なってますから、同じように精がつき、蒲焼も美味い鱧を全国的に食べるようにしたらどないでしょうな。

天神祭りは7月24日が宵宮、25日が本宮で、偉い人で賑わいます。始まりは天暦5年(951年)といいますから、もう千年以上続いている勘定になります。勿論昔は旧暦でやってました。
今年はあきまへんが。

祭りの盛り上がりでも分かるように、大阪の人間は天神さんが好きなんですな。古い洒落にこんなんがあります。

「天神さんの賽銭は、硬貨の方がええそうな」
「なんでや」
「天神さんはシヘイが嫌いや」

菅原道真さんは藤原時平との対立に敗れて太宰府へ流されました。その「時平(シヘイ)公」と「紙幣」の洒落ですな。

落語でも「狸の賽」のサゲが天神さんですし、「質屋蔵」もそうです。

ある質屋の蔵に怪があるという噂がたって、このままでは商売に関わるというので、番頭に命じて確かめさせようとします。心細いもんですから助っ人に出入りの熊五郎を呼びます。ところが、いざとなってみると、二人とも腰を抜かしてしまう。旦那がやってきて蔵を開けてみると、小柳繻子の帯と竜紋の羽織が相撲をとっている。と、隅の方にあった箱が勝手に開いて、中から掛け軸が一本転げ出ますというと、壁へさして這い上がり、それへ勝手にス~ッと掛かりました。
「おっ、あれ? あれあれ? あれは角の四平(しへぇ)さんから預かってる天神さんの絵像やないかいな」
呆気に取られております主の目の前へ、絵像が抜け出ます。

東風吹かば、匂い興せよ梅の花。主無しとて春な忘れそ

「そちゃ当家の主なるか」
「へえ」
「質置きし主に、とく利上げせよと伝えかし。どうやらまた、流されそうじゃ」

さて、この暑い時期に昔、大阪の新町では大夫の道中があったらしいんですな。
あれは大概花時にやるもんですが、どういうわけか天保時分に変わって明治になってまた元に戻ったんやそうで、そんなわけで幕末の一時期は、夏に道中があった。
「冬の遊び」がちょうど、その時分の噺です。

大夫さんのことを吉原では「おいらん」と言うた。「おいらの大夫さん」ということやそうで。これが京の島原では「こったいさん」になるんですが、これも「こちの大夫さん」ということやそうで、意味は同じなんですな。

その大夫の道中というやつはどこでもそうですが偉い金がかかる。大阪でそんなもんに大きな金を出したんは堂島の直(じき)、米相場の相場師です。

ある茶屋へ、堂島の直が友だちを連れてやってきまして、馴染みの栴檀大夫を呼べといいます。ところが、大夫は道中の最中、しかも傘止めです。
「そんな無茶おっしゃらんと。今、知盛で道中したはりまんねんで」
「せやから、その知盛の金はどっから出てんねん、ちゅうねん」
新町の道中は芝居の扮装やらしてたらしい。その金を出してるのに挨拶がなかったんで、嫌がらせをしてるんですな。
堂島の機嫌を損ねたんでは商売にならんというんで、栴檀太夫を連れて戻ります。
やってきた栴檀太夫、知盛の扮装ですから綿入れを八枚ほど着てますが、汗一つかいてない。
すると直、
「恐れ入った。栴大への心中立てじゃ。皆、冬の着物に着替え」
と、綿入れに着替えるは、火鉢は持って来さすは、一転して我慢大会の様相になります。
米相場というのは一晩でびっくりするように儲かることもあれば、一転一文無しになるようなこともある。そうしたことから、他の大阪商人とは違うカラっとした気質が生まれたんやそうで。「堂島気質」というやつですな。
みんな冬の格好してるとこへ遅れてやって来た幇間の一八、調子のええことを言いいますが、踊らされるは懐に懐炉は入れられるはで、たまらんようになって着物を脱ぎ捨てると庭へ飛び降ります。
井戸のそばへ行くと頭から水をかぶった。
「一八、何じゃい、その真似は?」
「へぇ、寒行の真似をしとぉります」


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