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【歳時記と落語】七草

2021年2月18日は旧暦の1月7日です。五節句のひとつ「人日」にあたります。「人日」というのは妙な名前ですが、中国の古い書物には「一雞、二狗、三豬、四羊、五牛、六馬、七人、八穀」とあり、1月1日に鶏、2日に犬、3日に豚、4日に羊、5日に牛、6日に馬、7日に人、八日に穀物が生まれたという神話があるんやそうです

古代中国では、この日に七菜羹や七菜粥、及第粥を食べたといいます。それが日本に伝わって、七草粥になったんです。

私は、旧暦に合わせて七草粥を毎年作るんで、フリーズドライの七草を買うておいてあります。

七草粥を作るときの囃し声というのが昔はありました。

家の主が七草を刻みながら、「七草なずな、唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、トントンぱたりトンぱたり」と言うと、家中のモンが「おてててて」と合いの手を挟むんですな。なんや訳が分からんような文句ですが、昔はもろこし、今で言う中国あたりから、正月七日ごろになると、鳥の羽根について「ハンミョウ」という虫がやってくる、それが病の元やと考えてたんです。その虫を払うようにと、こんなまじないみたいな文句を唱えたんやそうです。

今になって見ますと、12月から2月くらいというのはインフルエンザが流行しますが、これがやってくるんは大陸からですから、ウイルスという考え方はなかったんですが、実体としてはあたってるような気もしますな。

さて、落語にその名の通り「七草」という噺があります。その中に先ほどのまじないも出てまいりますが、話の本筋は、花魁・七越太夫です。太夫ともなりますと、傾城てなことを言うくらいで、それはもう美貌であることは言うまでもありませんが、芸事にも優れんと、そのくらいははれません。七越もそれは申し分ないんですが、たった一つの傷というのが、つまみ食いの癖。

あるお座敷に上がったときに、お膳に「ホウボウ」の塩焼きが乗っておりました。よせばいいのに、悪い癖を出した七越太夫、客の目を盗んで一口二口と口に放り込んだ。ホウボウというのは小骨の多い魚ですから、それが喉に刺さった。
助けてやろうと、客が象牙の撥で背中を摩りながら、
「七越泣くな、ホウボウの骨が刺さらぬ先に、トントンぱたりトンぱたり」
すると、七越花魁が
「イテテッテッテッテ・・・」

今は、「象牙の箸」でやることも多いようですが、古い型では「象牙の撥」やったと聴いたことがあります。
「象牙の箸」でさすると刺さった骨がとれるという迷信があったようなんですが、何ぼなんでも遊郭に「象牙の箸」なんてもんがそうそうあるもんやない。しかし、三味線の撥、あれは昔、結構象牙のもんがあったんで、それで代用したというわけですな。


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