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飲食店をつくりたい人へ、まず最初にすべきこと

【長く愛される飲食店のつくり方 #1】 お店の軸づくり

レストラン一軒を開けるのは結構大変で、とても多くのことを考えて決める必要があります。その際に自分が大事だと思う店づくりのポイントについて、様々な実例を挙げながら解説していきます。第1回は、つくる前にすべきアタマの体操から。そこでの準備がお店の成功を左右します!

T.Y.HARBORからはじまった「ケーススタディ」では店舗ごとの歴史やストーリーを書いていますが、このシリーズでは立地探しやインテリアにオープニングなど、店づくりに大事なポイントをテーマごとに取り上げていきます。大切なノウハウだし有料化も考えましたが、良いお店をつくりたいと思う方たちの参考になったり、食べに行く方たちも裏側を知ることで飲食店をより楽しむきっかけとなるのであれば本望です!

さて、第1回はお店づくりをはじめるにあたってのアタマの体操からです。飲食業の経験がある・ないに関わらず、どんなお店をつくりたいのかという軸をもっていないと、店づくりは途中でブレます。お店をつくるとはどういうことか、どういう視点を持つべきか… そしてタイソンズの軸となる考え方や大切にしているポイントを解説します。

■目次
1.お店をつくる、という仕事の意味
2.自分が大切にする、店づくりの視点
3.タイソンズが考える、店づくりの軸
4.マーケットインか、プロダクトアウトか
5.立地ファーストか、コンセプトファーストか
6.まとめ

1.お店をつくる、という仕事の意味

自分は、オーナーシェフでもなければ伝説のサービスマンでもありません。というか、いまだに料理もサービスもできません。世の中には色々なオーナーがいて仕事のやり方もそれぞれですが、メニューづくりもできず皿も持てない自分の仕事は、店を通して「場をつくり、育てること」だと考えています。そんな表現をする人は多くないかも?

では、場をつくり、育てるとはどういうことでしょうか。

まず「つくる」とは、店そのものを物理的につくるという意味ではありません。できた店に人が集まり、よい時間を過ごす場を生み出すまでを意味しています。立地探しやコンセプトづくりから始まり、デザイナーと空間を考え、お客様が楽しく過ごせスタッフが輝く場をつくり出します。

またつくったら終わりではなく、できたお店にずっと命を吹き込んでいくこともオーナーの役割です。それにより、スタッフも顧客もお店も育っていきます。そうして長くつづくお店を「育てる」のも自分の仕事です。

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IVY PLACEはまさにそんな場として育ちました… このスタッフは2011年の開業以来お店を支えてくれているレジェンドです

そういう意味では、役者や裏方が輝く舞台をつくり、お客を楽しませる演劇の総合プロデューサーのような存在なのかもしれません。だから、お店にいって活き活きとしたスタッフや楽しそうなお客さんの顔を見ると安心します。またコンセプトをコピーせず1つ1つつくり込むので、自分にとっては店そのものが作品という意識もあります。(breadworksは同じ名前を使いますがそれぞれに個性があります)

その舞台では決められたストーリーが演じられるわけではなく、日々アドリブのなかで生き物のように変化していくので、店を育てるというのはさらに別の言い方をすれば子育てのような感覚なのかもしれません。(経験はありませんが…)

「どのお店が一番好きなんですか?」

たまにそう聞かれることがあるので、こう答えます。

「え、じゃああなたに子供が何人かいて、どの子供が一番好きかって聞かれたら答えられますか?」

理想論っぽく聞こえてしまうかもしれませんが、つまりみんな違うし、みんな好き。総合プロデューサーであり、作品を生むクリエイターであり、子育てする親でもある自分としては、この一言に気持ちが集約されます。

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タイソンズの店たち… 1つ1つ店をつくっているうちにマルチブランドカンパニー化してきました…といえば聞こえはいいですが、クリエイティブや運営では非常に非効率… でも効率では測れない世界が広がっています

2.自分が大切にする、店づくりの視点

さて、そんな自分が店づくりに際して常に大事にしているのは、やはり顧客としての視点です。素人としてこの業界に飛び込み、現場のことは何もできないなかで他に選択肢もなく、自然な流れだったのかと思います。

だから自分の店でよく食べます。営業時間に席に座り、周囲の状況や顧客の楽しみ方を感じ、試食用ではなく忙しい時間に出てくる料理を食べる。そして会計金額を肌で感じるためにも、仕事関係は除いてちゃんと支払います。(ただ、社割というスタッフ全員が持つ権利は行使します!)

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客としてCICADAのハムスを18年、T.Y.HARBORのチキンウイングにいたっては24年食べつづけています… 飽きない味をつくってくれたデービッドに感謝

ただ、顧客視点だけでは難しいのも事実です。オーナーシェフ系のお店に行くともう少し顧客目線が…と思うこともありますが、ただ一方で未経験の人が開ける店や、プロでないオーナーが口を出しすぎる場合など、もう少しプロ目線があった方が…と感じることもあります。

なので自分は、プロ視点を組み込みつつ、顧客視点を優先してバランスを保った店づくりをしようと努力しています。自分が恵まれていたのは、デービッドのように料理やサービスの両方に詳しく、かつしっかりした考え方を持つプロフェッショナルがすぐ近くにいたことです。彼から学び、また現場を見て少しでも理解できるよう努力しながら、プロとして顧客としての目を磨くことができました。

3.タイソンズが考える、店づくりの軸

その上で自分が目指しているのは、すべての面でバランスを保ちながら、さらにプラスアルファの価値観をもつお店です。

バランスが保たれた店というのは、立地・空間・料理・ホスピタリティなどすべての面で高いレベルを持つ店です。コンセプトの水準での話なので、決して高級という意味ではありません。小さいお店やカジュアルな店ほど、何かが秀でていれば他を補ってくれますが、大きな店舗になるほどこのバランスは必須です。それができて初めて、フードだけではない顧客体験が生まれ、「美味しかった」だけではなく「楽しかった」と言われる店になります。

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うちの新人オリエンテーション資料より… 顧客体験を創ることは時間を生み出すこと。ITなどのように世界は変えられないけど、多くの人の人生にとって大切な時間をつくることができる・・・場を創ってきた自分なりにミッションに込めた想いです。この英語フレーズ、大好きです。

そして、さらに+αの存在であるべく、以下の3つの要素を大切にしています。

(1)ライフスタイル提案 
自分ならこんな店に行きたい、とか、こんな時間って素敵だなという世界を実現することです。一軒目のT.Y.HARBORが東京の水辺で楽しむビールというずば抜けた世界観を持っていたので、2軒目のシカダから自分の中ではずっとテーマです。シカダではイタリア系アメリカ人であるデービッドが「自分が毎日でも食べたくなるような、地中海での食のスタイルをお客にも提案したい」というところからスタートしました。

(2)地域のOnly 1 & No.1であること
これもT.Y.HARBORがスタートだったからこそ、なのですが、特に大型店については地域のランドマーク的な存在でもあり、顧客とスタッフでコミュニティが生まれるような店を目指しています。代官山のIVY PLACEなどは典型的なケースですね。まあ大型店の時代は徐々に終わりつつある気もするので、今後はランドマークとまではいかない店も増えるかもしれませんが… あの店に行きたいなあと思われるお店はつくっていきたいと思います。

(3)長くつづき、愛される店舗
長くつづくことも大きなゴールです。店に想い入れが強い分だけそう思うのかもしれません。話題性で行列させる店は得意ではなく、長距離型のスロースターターですし、高級に走らず都会の人たちの日常に寄り添う使いやすい店や、地元の人たちにもちょっとした機会で安心して使ってもらえるような店を目指しています。

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TYは来年3月で開業25年となります… この3条件をまさに体現しています

3.マーケットインか、プロダクトアウトか

じゃあ実際にどこで、どんな店を開けるのか。飲食店をつくるには立地とコンセプトが必要ですが、その発想のアプローチをまずマーケティング的に言えば、タイトルのような2つの考え方があります。

マーケットインとは、大手がやるように顧客のニーズを調査し、そこに存在するマーケットにあわせて商品を開発する手法。一方でプロダクトアウトとは、こんな製品がほしいと思って作ったプロダクトを世に問うような世界です。開発者本人が信じるマーケットを実現するという意味では、より個人のセンスが問われるとともにリスクも上がります。

飲食店はメーカーではないため微妙に置き換えにくいのですが、例えばすでに流行っている商品や人の多い立地などニーズが見えているマーケットから入っていくのか、あるいはオリジナルティの高いプロダクトや店舗、人のいない街を開拓したりといったような2つに分かれるでしょうか。

タイソンズは?というと、うちはプロダクトアウトだと考えています。

そもそもマーケットを冷静に見ていたら、地ビールの行方もまだ見えないなか、夜になると人がいない24年前の天王洲アイルで、T.Y.HARBORのような巨大店をあけることなど正気の沙汰ではありません(笑) 時間をかけて苦労をしながらも、東京にもこんな空間があり、水際でこんな時間の過ごし方ができればよいな、という提案をして、わざわざ来るお店=業界用語でいえば「目的来店型」の店づくりをしてきたことが自分のベースにあります。

プロダクトアウトがうまくいかなかったら自分のセンスが悪かったのだと潔く諦めようと思いますが、このあたりはまさに店舗ごとにストーリーがあるので、また個別のケーススタディで説明していきます!

4.立地ファーストか、コンセプトファーストか

「ファースト」と連呼するとなんか都知事みたいですが、さあいざ開業しようと思うと、飲食店で必要なのは立地とコンセプト。場所があるから何か飲食店をやりたい、みたいな話だと立地ファーストということになるし、オーナーシェフみたく料理はある程度決まっているからそれにあわせて出店場所を探す場合はコンセプトファーストになります。

飲食店の開業は色々なパターンがありますが、タイソンズの店はその両方があります。例えばコンセプトありきで出店場所を探したのは、広尾時代のCICADAや、渋谷の雷庵。それぞれで提案したいスタイルに合うのはどこだろうと思うなかで出会った物件に開けました。

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雷庵では、蕎麦の店とは思えない空間をつくれる、都会の好立地が見つかりました

また立地ファーストでは、例えばキャットストリート。飲食店がほぼなくて面白いなと思った場所で、横にあるラルフローレンの(今はなき)DENIM & SUPPLYという店舗に合わせてBBQとサードウェーブコーヒーの店をつくりました。麹町でも家主からの、地域にこんなお店がほしいというリクエストに対してベーカリーカフェのNo.4をつくっています。

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デニムアンドサプライは荒々しい感じのコンセプトだったので寄せました

ただ、どちらのパターンもあるとはいえ立地かコンセプトどちらが先かと問われれば、自分は物件を気に入るかが非常に重要なので、躊躇なく立地と答えましょう。

それはなぜかというと、2で書いたお店の軸があるからです。自分が考える飲食店のあり方、つまりライフスタイル提案ができて、地域のコミュニティになれて、長く愛されつづくお店。この軸を実現できる立地しか出店を考えません。

そして立地が見つかれば、その地域の人たちや生活スタイルを肌感覚でつかみ、そこにあったコンセプトをつくります。コンセプトはそのたびに考えるよりも、デービッドと話すなかで出てきたものや、海外視察などで得たアイディアやインスピレーションを引き出しにしまってあるので、その立地に合いそうなものを引っ張り出します。

その柔軟性がタイソンズの強みですが、ただその分だけ出店場所へのこだわりが強い自分がいます。立地に関する詳しい考え方は、また次々回の記事で、個別の選んだポイントなどを書く予定ですのでお楽しみに!

6.まとめ

簡単に言えば、やりたいお店の方向性がハッキリしていて、それにあった立地を見つけ、そこにあったコンセプトをつくり、高いレベルでお店を回そうとするのだから、タイソンズはあまり踏み外すことがありません。

ただ、そこで自分が一番大事だと思っているのは、その方向性、つまり立地やコンセプトの前にある「軸」です。飲食店の開業をしようとする人の状況はそれぞれ異なり、立地もコンセプトも色々なパターンがありますが、ただそれ以前に飲食店を通じて何を実現したいのか、その軸があるとブレずにビジネス展開できます。

自分は、その軸をもった世界を実現してくことを「お店をつくり、育てる」ことだと考え、プロフィールには経営だけではなくそういう場を生み出す「クリエイター」と書きました。

実はそうした考え方に気づかせてくれたのは、なんと税理士の先生でした。非常に頭が切れて堅そうに見える方なのですが、以前食事の場で、学生時代に社交ダンスでチャンピオンをとっていまも踊っていると聞き、驚いたことがあります。そのとき先生が何気なくこう言ったのです。

「社交ダンスは、自分にとっての自己表現なんですよ」

衝撃が走りました。ああそうだ!お店は自分にとっての自己表現なんだ!・・・顧客として自分が考える理想の飲食店の姿があり、それを表現できる場所を探して、そこにあった作品という形で表現する。そんなクリエイターとしての立ち位置に気づいた瞬間でした。

だからこそ、noteに書く理由も、書く内容も一杯あります。その場を与えてくれたnoteさんには感謝です。またあらためて、これから店を開けようとする方たちの頭の整理に役立てれば幸せですし、お店を使う側にいる皆さんも、それぞれのお店のオーナーがどんな自己表現をしているかを感じてもらいながらたべると楽しみも増えると思います!さあ、立ち直るぞ飲食業界!

次号予告:
【ケーススタディ #3】 CICADA
2003年にオープン、9年後には表参道に拡大移転したシカダ。立地探しに悩みながら、よく2回もこんな店をつくれたなあ… と我ながら感心するレストランのストーリーです(7月上旬予定)
次々号予告:
【長く愛される飲食店のつくり方 #2】飲食店の立地探し
シカダのストーリーを踏まえ、自分が考える好立地のポイントを解説します!(7月下旬予定)




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