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飲食店開業、運命を決める物件探しのポイントとは!

【長く愛される飲食店のつくり方 #2】 物件の探し方

飲食店を開けようとする人がまず最初に向き合う試練の1つが、出店場所を見つけること。家と違って本当にダメだったら引っ越すということができず、多くの人がプレッシャーを感じながら勇気をもって決断しています。

どんなエリアでどんな環境の物件を選ぶかは、お店の運命を大きく左右します。そこでタイソンズが大切にしているポイントを解説!

さて#1では「お店の軸づくり」というテーマのもと、自分の店はライフスタイル提案ができ地域に溶け込んで長く愛される店をめざすので、それを実現する立地しか選ばないと書きました。今回はそんな場所探しについて、もう少し踏み込んだ話です。

飲食店の経営というのは難しくて、食事が美味しいとかサービスがちゃんとしていることは何よりも大切なのですが、ではそれならばどんな場所でも混んで長続きできるかというと、個人店なら比較的ハードルは下がるものの、より大きくなるほど単純な話ではなくなってきます。

出店でなかなか外さないといわれるタイソンズですが、そこでは物件選びという要素が非常に大きな比重を占めています。これまで相当な数の不動産を見てきて、最終的に自分がすべて決めてきました。どうやら物件を見ているときは集中しすぎているようで写真があまりなかったのですが、どうやって決めているかを文章中心でお楽しみ下さい!

■目次
1.エリアのポテンシャル
2.ハコのポテンシャル
3.自分が必ずすること
4.物件の落とし穴

1.エリアのポテンシャル

タイソンズのお店は、ティー・ワイ・ハーバーを除くと基本的には皇居の西側、渋谷区や港区を中心としたエリアに集中しています。別な言い方をすれば、自分自身の生活圏で土地勘があるところばかりに出店しています。

これまでも銀座や東側のエリアで出店を打診されたことはありますが、自分自身がそちらへ食事に行くことがほとんどないためよくわからないし、またお店を見たがりな自分や本社のマネジメントチームが効率よく店を回れるので、基本的には上記のエリアで出店をすることを好みます。

その際に自分が大事にしているポイントはいくつかあります。

【週7マーケットであること】

うちは週7日営業したい会社なので、ビジネスもあり住宅街や繁華街でもあるところが大好きです。最近は色々と環境が変わってきたのであくまで一般的な話ですが、オフィス街だと平日5日、住宅街は週末2日を中心とした営業になりがちなものの、両方が存在する立地だと平日も週末も昼も夜もずっと人がいることになり、同じ家賃でもより良いビジネスができます。

逆にいえば、家賃の額面のみで高いか安いかをジャッジしてはいけなくて、やや乱暴な比較ですが週7日動く繁華街マーケットの坪35,000円と、実質週5日しか稼働しないオフィス街での坪25,000円は、週1日あたり5,000円で同じ賃料水準ということになります。オフィス街の物件で担当者が、繁華街より頑張って賃料下げました!と言うものの、いやいやそれ週7マーケットと比べたらむしろ高いじゃんということもありました。

繁華街でありながら住民もいるエリアを選んできたことは、結果として震災後やコロナ禍における被害も軽くしてくれました。特にうちの店もある表参道近辺は、ビジネス関係や住民も多い上に買い物客や観光客までいて、街として華があり集まりの場としても最適。家賃が高くてなかなか店をつづけられる場所が少なく、ちょっと外れるとガラッと雰囲気が変わったりするので気をつける必要がありますが、でも本当に永遠のマーケットだと思います。

【街の潜在力】

そのように色々な人がいる場所であれば、あとはいまそのエリアがアツいかどうか、などはあまり気にしません。何しろ天王洲という都心から離れた場所で商売をしてきて、潜在的に人がいれば良い店には人が来るし、さらに他にない環境もあれば遠方からも来るということを経験してきたので、そこに店があったら自分なら行くかどうかを重視します。

たとえば代官山IVY PLACEのケース。それまでは恵比寿・中目黒・渋谷という大繁華街に囲まれて夜になると人が極端に減る場所でしたが、富裕層の住民もいれば個人オフィスなども多い立地だったので、よい環境さえあれば自分も行くし人が集まるという自信はありました。そんな街でCCCさんが前から気になっていた場所に「森」をつくるという企画を立てたので、それならばと思って参加し、人の流れは変わりました。

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代官山のボスの本です。T-SITEとIVY PLACEができる前、そこは緑あふれる外国企業の社宅で、その後開発が始まる前はCCCがひまわり畑をつくりました。写真の樹は今もIVYの前にそびえる、江戸時代からのケヤキです。

またNo.4がある麹町も、それまで飲食業ではあまり目指されるマーケットではなく、自分も選択肢として考えたことがありませんでした。でも出店依頼を受けてよく観察してみると、週7マーケットでうちには最適な環境がそろっていたため出店を決め、No.4は今では街の重要な一部になりました。

2.ハコのポテンシャル

じゃあそういう場所ならどこでもやれるか、というと、そうしたエリア的特性以外に、物件そのものの空間的特性ももちろん重要な要素です。表現者である自分としては、世界観を表現できるかということが大事なポイントに。

【街場 or 商業施設】

タイソンズはよくデベロッパーさんからオファーをいただくのですが、商業施設に出ないことでは有名です。お声掛けいただけるのは非常にありがたいのですが、出ない理由はシンプルです。たとえば様々なしばりがあってお店としての個性が出しにくかったり、どうしても顧客をしっかり育てるより一見客をさばく方向に向いてしまったり、などはわかりやすいところです。

また家賃はもちろん、それ以外に工事費や水道光熱費、クレジットカードのフィーなどデベロッパー経由になるコストが高すぎたり、街場ではかからない様々なコスト負担を求められたりするケースが多くあります。その割に契約年数も短かったりして、そもそも商業施設の集客力に頼るつもりがなく長く店を育てたいタイソンズとは、根本的に考えが合わない部分があったりするのです。

以前もあるデベロッパーがキーテナントだと考えているからぜひに、というので話を聞いてみたら、そこまでキーな場所でもないのにあまりに高額な家賃が書類に書いてあり、話の途中で不機嫌になってしまったこともありました(大人として反省です…)。先方の商売的なキーテナントだったかと思い悲しくなりました。

【1F or その他のフロア】

1Fが大好きです。道を歩いてそのまま店に入っていくストーリーは顧客体験の一部だと思っています。そこには、エレベーターを降りたらもう店内とか、デートからの帰りに明るいエレベーターで興ざめ、みたいなシナリオはありません。

また外とつながれる空間が大好きです。できればテラス席、あるいはガラスを開けて外とつながれる開放感は常に大事にしています。ティー・ワイ・ハーバーが原点だからかもしれませんが、自然の移り変わりを感じられるスペースで食事を楽しむこと、は自分にとって必要不可欠な要素です。

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雷庵もテラス席はつくれなかったのですが、ガラスを全部開けられるようにして東京の蕎麦屋としてはあまり見ない開放感を感じられるようにしました。

だから窓をつくれず自然光が入らなかったり、空気がこもりがちな地下のような環境には興味がないし、逆に2Fでも道から直接アクセスできたりテラスがあったり、そんなスペースなら検討します。

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キャットストリートのスモークハウスはタイソンズで唯一の2F店舗ですが、斜面にあるため正面からみると2Fでも、裏通りの入口から入ってくると路面店みたいです。

【物件が持つパワー】

街場の1Fという条件はわかりやすいと思いますが、もう1つ重要なことがあります。物件を見たときにその場所が持つパワーを感じ、人が集うシーンを想像できるか。そしてそれは時間の過ごし方の想像にもつながり、店のコンセプトと空間づくりに結びつきます。なかなか説明しづらいのですが、個人の感性や直感力の世界です。

不動産を多く見ていると、陰と陽みたいなものを感じるようになります。同じエリアでも道一本隔てただけでガラッと人が来なくなる場所があったり、いつも店が入れ替わるような場所があったり…そこはきちんと見極めねばなりません。

タイソンズは大型の店が多いですが、特にその場合は物件に「華」があることが大事です。たとえば天王洲や表参道のCICADA、代官山のIVY PLACEなどうちの大箱群を想像していただければわかりやすいかも? 天王洲は場所によってはまったく人が寄りつかないし、一方で代官山のT-SITEは東京のなかでも抜群に上質の「気」を持っていると思っています。

3.自分が必ずすること

物件を見てここならと興味を持つと、今度はそのエリアで色々な時間を過ごすようにします。平日や週末、昼と夜、近辺の店に行って食べてみたり、物件前のガードレールに腰掛けて道行く人々を眺めたりしながら、ここには何があったら自然なのか、どんな店があったらマッチするのか、そんなことをグルグルと考えつつ、街の空気や人々の過ごし方を感じて過ごします。

うちの場合は決まったコンセプトにあう物件を探すことよりも、出てきた物件にあわせてコンセプトをつくるケースが多いので、その上でその立地に何があるべきかを考えてそこにコンセプトを当てはめていきます。キャットストリートに当時アメリカで流行りはじめていたサードウェーブコーヒーやバーベキューの店をつくったり、麹町という街の特性にあわせてNo.4の基本コンセプトをつくったことなどがその典型的なケース。

潜在的な消費力がある街、その中でも気がよい場所に、自分の世界観を表現できるハコで、その土地にあったコンセプトの店をつくるのだから、基本的に外すことがありません。それがタイソンズの店づくりの秘訣でしょうか。逆にその分だけ、物件探しにかけるエネルギーは大きくなるし、量より質という方針になってきます。

4.物件探しの落とし穴

ただ、「ここだ!」と恋に落ちても、競合がいたり家賃があわなかったり、はたまた設備の制約や近隣との諸問題などなど、簡単にゴールにはたどりつけません。

賃料については、単純に坪あたり賃料が高いか安いかではなく、総合的な判断が必要です。高いには高い理由があるし、安いには安い理由がある。前に書いたように週7できる場所は週5の場所より高くてもペイするし、いくら賃料が安くても人が来にくい場所につくってしまえば後で苦労します。

それ以外にもトリッキーな落とし穴はあります。

昨年、ある人から相談を持ちかけられたのが「居抜き」の物件。居抜きとは内装を前テナントから引き継いで営業することで、初期費用が抑えられるため初めて開業する人がやることも多いケースです。相談された人は飲食経験がないのですが、ある名の知れた飲食企業の奥様から繁華街の地下にある超大箱レストランをタダであげると言われ、自分ならできるんじゃないかとその気になっていたのですが、やめた方がいいとお伝えしました。

なぜなら、飲食店って実はかなりの撤退費用がかかります。そこは店を閉めるのにおそらく1億円ぐらいはかかりそうな物件だったので、そもそも店が失敗したら立ち直れないような追い打ちになるし、うまくいっていても最終的にはそれまでの儲けが吹き飛びかねない金額です。その飲食企業にしてみればコロナで苦しいなか撤退費用が浮いて救われるわけですが、その負担を素人の個人に負わせるのはちょっと…

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広尾のCICADAも居抜き物件でした。その視察時の自分。厨房など水周りや設備関係は重要なチェックポイント、悪い状態のものを引き取ると後で苦労します…

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そんなこともあり、さあ初めて場所を探そうという方にはやっぱり難しい物件探し… こればかりは人生のパートナー探しと同様、タイミングと縁、そして覚悟が必要です。

自分も最初にCICADAの場所を探した時は、不動産会社に100件以上の物件を紹介してもらいました。なかなか決めないのであきれられながらも諦めずに探した結果、理想の箱にたどりつけ、そこからタイソンズは飛躍しました。

実はそれ以降は、幸運なことに物件を持ち込まれるケースが増え、そうしたなかから自分の感性に響く場所でお店をやるケースが多くなってきています。シェフではない自分には、やはりコンセプトに合う場所を探すよりも場所にあうコンセプトを考えた方が楽です。

オファーを受けるケースでは比較的良い条件で入居できますが、できれば家主とウィンウィンな関係を築くことが理想です。最近のタイソンズではオーナーと色々な取り組みをすることが多いですが、これはある程度展開してからでないと難しいのでここでは省きましょう。

また家主だけではなく周囲への影響を考えると、表参道にシカダが出店したあと、付近で賃料が倍になった物件がありました。シカダを運営する方は利益率の低い業界で苦労してやっと稼ぎますが、今後は不動産業的な視点をもち、周囲の家主さんたちだけではなく自分たちも店を運営することによる付加価値的なメリットがとることも必要だなと思っています。

まあ色々と書きましたが、結局はケースバイケースで正解のない物件探し。正解を探すよりも、選んだ物件を正解にする努力が必要なのかもしれませんね! とはいえ、すべての道はここから始まります… ぜひ長く一緒にできる素敵なパートナー物件とめぐりあって下さい!

次号予告:
【ケーススタディ #4】 T.Y.HARBOR River Lounge
2006年に完成したT.Y.HARBOR前に浮かぶ水上ラウンジ。当初は難しかった「停泊した船舶での営業」がいかにして可能になったか、苦労した2年間のストーリーを初公開!(8月中旬予定)

次々号予告:
【長く愛される飲食店のつくり方 #3】インテリアデザイン
かっこいいだけではない、よい空間のつくり方とは。(8月下旬予定)

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