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現行の研究者評価制度はチームプレイを阻害しているのではないか

 言いたい事としては、現行の著者評価制度はチームで研究を行うのに適した評価制度となっていないのではという問題提起とその解決方法を探りたい。

現在の研究者評価制度

 現在のアカデミアにおける研究者評価制度に大きな影響を及ぼすのは論文である。しかし単に論文に名前が入っていることが重要ではなく、その順序と扱いが重要になってくる。すでに研究者の方はよく知っているかもしれないが、ある論文にとって最も貢献したものとして筆頭著者、更にそれらの情報の説明責任を持つ責任著者の二人がその論文を作ったものとして多くの恩恵を授かる。実際に、研究者間で話をしたときも、筆頭著者と責任著者以外は評価しないという話も多く聞いている。したがって、現行の評価制度では、おおよそ筆頭著者と責任著者の2人が多くの恩恵を享受できる評価システムとなっている(Co-firstやCo-correspoなどがあるが多くても4人程度だろうが、詳しい調査は行っていない。)このため、現行の評価制度では著者数が4人を超えてくると恩恵を得られない人間が生まれうる。ではこれらの恩恵は具体的にどのようなものがあるかと言うと、

1.キャリアアップ(ポジションの獲得)
2.研究費の獲得

であり、アカデミア研究者の人生を左右すると言っても過言ではない(これらの評価ゲインとしてIFの高い雑誌などがあるが、とりあえず今はそれらは考えない)。このため、論文を作り上げる過程では、4人目以降はほぼボランティアで参加せざるを得ない状況になってくる(短期的メリットが極めて少なくなるが、前に助けてもらったからという次は私がという恩返しを送る長期的にメリットを受ける可能性も任期制度の為厳しい)。しかし現在、一個人が収集・取得できる知識・技術レベルはすでに限界を迎えている(例えばゲノム編集も出来て透過型電子顕微鏡も作れて、走査型プローブ顕微鏡の開発もできて、光学顕微鏡を作れるような人間は少なくとも見たことがない)。さらに、研究の細分化・突出化によって、はたから見ると同じ分野に見えてもそれぞれ全く異なる知識を有している場合も多くある。このため、論文を作成するための知識・技術を集約するためにはチームワークが必要不可欠である(特にハイインパクトのジャーナルを狙うためには)。このような著者問題に関して、著者全員で均一な評価を与えるべきだという話も出ているが、実際にどのようにして均一の評価を実現するのかという方法論に関しては議論がなされていない。

A suggested way to offset this contentious issue is to provide equal value or credit to each author, regardless of the order.

Authorship issues
Chetna Desaiより引用

この評価方法は、著者に加えるだけで等価な評価を受ける場合、ギフトオーサーやゴーストライターが横行する可能性もあると述べている。

問題点 チームワークを本質的に阻害している評価制度

 しかし、先にも簡単に述べたが現行の評価制度は4人以上の人間が集まった場合、必ずAuthorshipの問題が生じ、その恩恵に与る人間に限りが出てくる。このため、だれが筆頭著者になるか、だれが責任著者になるかという問題が生じる。この問題の解決方法として2つの手法が取られている(解決につながっていないが著者選択の主要な取り扱い方も記述する)。

1.事前にAuthorshipを決定する
 熟慮している研究者は著者問題を回避するために、チームを構成する段階で論文に関わるメンバー全員でAuthorshipに関して議論し、だれが筆頭・責任になるかを事前に決定して研究がスタートする。

2.Authorshipを決めずに研究を走らせる。
 こちらのパターンはAuthorshipに関して全く議論せずに研究をチームでスタートし、後々Authorshipを決めるパターンである。主にこちらで多くの揉め事と搾取が行われる。

このような慣例が多くの研究室で存在し、研究に途中から参戦した人間は恩恵は与れないが、研究はしなければならないという状況が実現する。本来これらは単に断ればよいのでは?と思う方(一般の方だろう)がいると思うが、実際にはYes以外には言えない関係が存在し、それは任期付きの研究者とその研究者を雇用するパーマネント(永久職)の研究者の間で生じるうる無言の圧力によって生じる。正直上記の1を実行できる研究者は個人的には信頼をおけるが、実際にはいきなり耳が痛くなるような問題を話合わずに、2でスタートする研究者の方が多いように思う。

問題の解決方法

 執筆者が思う解決方法として、現行でも最も簡単にできる処方は1の選択を行った上で、これまでの慣例を無視して、Co-firstとCo-correspoの人間を予め4人に限らず決定し(4人以上でもOK)、それぞれがしっかりと役割分担を担って研究活動(論文執筆も分担する)を行うことにある。しかし研究を行っていく上で何らか別の技術が必要になる場合が考えられる。この場合は、新規に入る人間に事前にAuthorshipに関して了承を得た上でどのような状態で入るかを事前協議する事が必要になる。また、Co-first・correspoで行う場合は順交換が可能な形もEditor側やauthor contributionで記載することも必要である。以上のように関わる人間に必ず恩恵が与えられる形にすることで、少なくとも恩恵授受は問題なく可能となり、チームで活動する意義が深まる。
 これとは別の問題として、研究遂行上どうしても特定の研究者の比重が多くなることも考えられる。この場合も結局Authorshipの取り決めが十分に参加者に利益が与えられるものであるならば、その業務内容を同程度の技術がある人間に割り振るマネジメントも行う必要がある。これら業務を行うには必ずマネジメントする側の存在が必要(つまりリーダーが必要)になるが、2人以下の著者数であれば互いの協議で、3人以上の著者数であれば3人がある程度のマネジメントを行うことで解決が図られると考えている(奇数の方が最終的な案を多数決で決定できるため方向決定は奇数人とする必要がある)。マネジメント業務自体もequalな寄与に含めればマネジメントによる業務偏りも減らせる。また、ある一人の人間に業務比重が大きくなったとしても、その他のメンバーが問題点を聞き共に解決する意思を示し、行動することが問題点解決において大きな意味を持つ。したがって、仮に直接的な問題解決に寄与がなかったとしても間接的には大きな寄与が確実にある。このため、比重が大きくなっている場合は直接チームメイト(上下関係は考えない)に今の問題点を素直に説明できる事が求められるし、その問題を聞く姿勢もチームメイトには必要である。Authorに入る場合は上記の事柄に関して十分に説明を行っておくことも必要と筆者は考えている。

これらの解決方法で具体的に問題となるのがギフトオーサーシップであるが、これは初期の役割分担が明確に行えていれば基本的には生じない。仮に分担したタスクがこなせていない場合は著者には入れないと明確に提示することで解決が可能となる。この上で、さらにこの問題の予防的手法としては、ミーティングを少なくとも週に一度資料作成等の時間が少ない手法で情報交換を促す事が重要となる。これらがしっかりと出来ていて、どのような点がゴールなのかが明確になっている場合は役割分担とその内容の進行度合いの視覚化はそこまで難しくないと考える。

結論

今回チームワークを発揮するためのオーサーシップ法とその運用方法に関して簡単に論じた。解決方法としてはCo-first、Co-correspoの人数を増やし、順交換可能な形で著者とする。その上で役割分担を明確に担って執筆箇所・研究箇所を明確に文書化(視覚化)し均一化する。その上で情報を共有・進行することでチーム全体の業務改善と、各著者に均一に利益を享受できると考える。もちろん、均一に利益享受は必要ない、自分が一番頑張ったんだから筆頭著者になるべきだと考える人間もいるかも知れない。ただ、そのような考えに至った時点で他者から見るとWin(相手)-lose(自分)の関係が出来上がっている事を忘れてはいけない。この関係がチーム内で許容出来ていないのであれば、研究のスタートに問題があったと言わざる得ない。結局それらは、研究発足時or研究参入時に明確な内容伝達がチーム内で行えていない証拠かつ、軌道修正も出来ていないのであれば日々の情報共有不足が原因であると考えられる。仮にそのような状況に至った場合は責任著者であろう人物との対話が最も本質的な解決につながると筆者は思う。

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