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フィリピンへの展開 -ブレードランニングクリニック in Cebu-


2023年12月9, 10日、XiborgはSM care、SM seaside、Quest Hotelの協賛を受け、ブレードランニングクリニックをPADS、SportsPhil、ギソクの図書館と共催し、セブで9名の義足ランナーが誕生した。

ブレードランニングクリニックについて

ブレードランニングクリニックとは、義足ユーザを対象にしたスポーツ用義足(ブレード)を用いた練習会。通常、日常用義足は跳ねる運動には向かないため走ることは困難であり、楽しく走ることはできない。一方スポーツ用のカーボン製ブレードはバネのようにしなり、跳ねる運動を可能にするテクノロジーである。Xiborg社はこれまでのトップアスリート向けのブレードを開発し、国際大会で活躍するトップアスリートたちの支援を行ってきた。一方、ブレードは非常に高価で一般的には購入することは難しい。そのため、Xiborgは安価なエントリー向けのブレードを開発し、ブレードランニングクリニックを通じてパラスポーツの普及活動を行なってきた。

これまでに、ラオス・ブータン・インドなどで各国の事情に合わせて、国外トップアスリートの日本での義足制作、義肢装具士とスポーツ用義足制作ワークショップやランニングクリニックなどを行ってきた。今回、XiborgのマーケティングディレクターManish PandeyとフィリピンのCatherine Joy Lariosaが大学院でクラスメートであることから、今回のイベント開催の話に繋がった。

フィリピンの義足・パラスポーツ事情

フィリピンは1.1億人の開発途上国で、国民皆保険があるものの自己負担率は高く、義肢装具士などは実状自己負担なっている。NGO・NPO・財団などの支援で義足を手に入れる患者が多く、例えばMabuhay Deseret FoundationWalk&Work Foundationのような団体が、日本でも使われている欧米式のモジュール型の義足を海外から輸入して支給されているが、そのような情報を知らない患者も多く松葉杖で生活している切断患者も少なくない。一方で、日本財団は2010年に義肢装具士育成のための学校:THE PHILIPPINE SCHOOL OF PROSTHETICS AND ORTHOTICS: PSPO設立を援助した。

スポーツ自体に関しては、バスケットボールが非常に人気で、先日のワールドカップでもNBAでも活躍するジョーダン・クラークソン選手を中心に大躍進し、日本、レバノンに続いてアジアで3位と大健闘を見せた。パラスポーツに関しては、フィリピンからの2020東京パラリンピック参加選手は5人(メダル獲得はなし)と少なく、パラスポーツに関しての情報も少ない。一方でPADSなどのようなNGOの尽力により、日本では馴染みのないドラゴンボートや障害レースの選手たちが国際舞台で活躍を見せている。

今回のイベントパートナーでもあるPhilippine Accessible Disability Services Inc.(PADS)は、当初聴覚障害を対象にした支援を行なっていたが、活動の幅が広がり今ではさまざまな障害のある選手たちをサポートしている。ドラゴンボートや障害レースは1人1人にはそこまでコストがかからないため、どのような障害であっても取り組みやすいスポーツの1つだ。そこで、活躍した選手たちは国からの報酬でより高価な日常用義足を手に入れることが多いらしい。一方で、スポーツ用義足を使って走る選手が生まれるまでの環境が整っておらず、今回我々の活動に興味を持ってもらい、今回のイベントを共催することになった。

ブレードランニングクリニック in セブ

今回募集したのは下腿義足ユーザのみであったが、蓋を開けてみると大腿義足ユーザ含む20名を超える参加希望者が集まった。その中には日常用義足を持っていなかったり、ソケットが外骨格であったりと、どうしても参加できない人たちも多く、結局今回は該当する6名(+当日参加3名)がイベントに参加した。

イベント会場はフィリピン全土にショッピングモールを展開するSMグループがセブに所有するSM Seaside。ボーリングやスケートリンクもあり、非常に大きなショッピンモールの一角で初日のプログラムが開催された。

初日はオープニングセレモニーを開催。SM Care、SportsPhil、PADSの代表からの挨拶から始まり、Xiborgによりレクチャーの後、義足交換のデモンストレーションが行われた。その後会場のスペースで現地理学療法士による簡単なエクササイズを行った。会場には関係者や関係者やCebu Doctors' Universityの先生方、学生が集まり、パラスポーツや義足について学び合う機会となった。

XiborgマーケティングディレクターManishの挨拶


デモンストレーション


参加者の記念撮影

あらかじめ、参加者の義足情報を写真などで収集しているものの、その場にならないとわからないことも多く、想定しなかったトラブルも多く発生した。例えば、分解してみるとピラミッドのコネクタの下にネジがあり、用意したパーツを取り付けられないことがある。その時は別の手段をその場で考える必要がある。そのプロセスで現地の義肢装具士と一緒に考えながら対応する経験は我々にとっても
大きな学びとなった。

義肢装具士が最初から走ることを想定したソケット作りをしていないとこうなるという例

2日目はモールの屋上Sky Hallの人工芝の上でランニングクリニックの開催。パラスポーツのコーチ、理学療法士によるドリルやエクササイズを行った。日本で我々がパラアスリートと行う練習は義足の使い方や走り方に重きをおくような練習が多いのに対し、こちらのコーチたちは一般的な体の動かし方を学び、その中で義足ならではの工夫を各個人に応じてアドバイスをするスタイルだった。走ることが好きなメンバーで構成される我々のコンテンツよりも、まずは楽しくスポーツをすることが目的である場合はこのアプローチの方がよいのかもしれない。ブレードランニングクリニックではなく、ブレードスポーツクリニックとすべきか。

人工芝の上でのクリニック

今後の展開

このような活動はまだスポンサーに頼らざるを得ないのが実情であるが、今回のイベントには、現地のたくさんの注目を集めた。SMグループはフィリピンで最も成功している企業の1つで彼らのようなビジネスセクターのステークホルダーを巻き込みながら、このようなプログラムを継続的にやっていければと考えている。さらにはトップアスリート育成のプログラムを作り、2026年名古屋で開催されるアジアパラに向けた活動に繋げることができればと考えている。

今回の参加者はPADSなどで既に別のスポーツをやってきたパラアスリートが多かったが、それはPADS周辺のコミュニティーに情報を展開したためである。一方で、1人5歳の男の子が参加してくれたが、彼はたまたま別のNGOの活動で義足を手に入れたばかりだった。彼が他の子供たちと一緒に走っている様子は、日本で我々が見てきた風景と何ら変わらず、走ることの楽しさは障害、国、文化などに関わらず普遍的なものだと再認識できた。これが当たり前になればと切に願う。


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