好きな人に彼女ができた

いつから好きになったのか、もうよく覚えていない。
たぶん一緒に定食屋で食べたチキン南蛮が美味しかったからだ。

思い出しただけで、頑張れるような1日がある。
例えば、一緒に河川敷を散歩した日とか、バイト終わりにコンビニでお酒を買って公園のベンチで飲んだ日とか、飲み会の帰りに歌いながら歩いて帰った日とか、そういう好きな人との思い出が、心の大事なところにあって、ちょっと頑張れる。そういう日にいつも生かされている。
日常の中で、ゆっくりと、でも確実に好きになったのだと思う。

一緒に居ることができるのならば、友達でもいいと思っていたけれど、悲しいかな人間の性。時々欲が出てしまう。触れたいと思ってしまう。まあそんなことは出来るはずもなく、現状維持をしていた。

そんな好きな人に、突然彼女ができた。
「おめでとう、良かったね」だなんて、思ってもないことを言ってしまった。上手に笑うことができていただろうか。

これはもう諦めなきゃいけないなと思いながら、好きな人と友達と3人でとんかつ屋に行った。
そこのとんかつ屋は、カウンター席のみで、いつも長蛇の列ができている。
やっと中に入って、出てきたとんかつ定食はかなりボリューミー。最後の二切れがなかなか入らない。隣の2人はもう食べ終わっていて、苦しいけれどはやく食べ終わらなきゃと焦っていた時、好きな人が「一切れちょうだい」と言ってきた。「食べてくれるの?」と聞いたら、「やった〜」と言ってパクッと一口で食べた。「おいしい」と笑ってる顔を見て、ああ、好きだなと思った。これが私がこの人を好きだということの全てのような気がした。すごく嬉しいのに、すごく悲しかった。この人にはもう彼女がいて、それは私じゃなかったのだ、と。残りの一切れを私はバレないように少し泣いて、食べ終えた。

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