式包丁を間近に見る〜上京が誇る食の有職文化
大河ドラマの舞台が平安時代ということで…素敵なイベントがあちこちで行われています。古代食好きにはとてもとてもありがたいことです。今回見た式包丁もそのようなイベントの一つ。
式包丁(しきぼうちょう)とは、平安時代から伝わる伝統的な食の儀式です。式包丁は、藤原道長の時代に宮家から伝わり、現在でも生間流、四條流、大草流などの流派が存在します。
9月8日に生間流式包丁家元(万亀楼店主)の式包丁の披露と有職菓子御調達所・老松当主のお話を聞けるイベントに参加しました。京料理の歴史の本を読んで有職料理を知って以来、ぜひ実際の式包丁を見てみたかったのです。これはとてもとても貴重な機会なのですよ!!もし万亀楼で個人で式包丁を見ようとしたら、料金表によれば88000円かかります。参加費は2000円ですが、生間流家元の式包丁を拝見できて、しかも老松の椿餅もいただけて、それぞれのお話も聞ける、なんとも贅沢な企画ですよね。
会場は北野天満宮の文道会館。今年は大河ドラマ「光る君へ」の影響で平安時代と源氏物語に関するイベントが多く開催されていますが、今回のイベントもその一つのようです。会場は満席で、冷房が特別に効いた中、小さなステージが設けられ、畳の上に大きなまな板が用意されました。式包丁に使われる道具はまな板も包丁もまな箸も独特です。
儀式は、長い綺麗な色のリボンがついた鈴を鳴らして始まります。まず鯉が三宝に載せられて恭しく運ばれてきます。まな板を綺麗に拭き清め、包丁とまな箸を定位置に置きます。その後、包丁師が烏帽子、袴、狩衣姿で登場し、右手に包丁刀、左手にまな箸を握り、魚や鳥には直接手を触れずに、めでたい形に切り分けて飾り付けます。この技は、直接見ると迫力があります。大仰な動きを繰り返しながら、鯉の頭と尾部分を切り落として天に向け、身を骨から切り離した後、切り身を細長く紐状にして頭と尾の間に橋のように渡して飾り付けて完成です。繊細な技です。全ては手で直接触れずに行われ、式包丁で作られた魚や鳥を食べることはありません。大切なのは見た目の美しさ、儀式の厳かさ、であり、作品は瑞祥表現を目的として型通り順番に切り分けられ、飾られます。食べられないことから見ても、明らかに一種の神事です。
式包丁はよく考えると、生臭い儀式です。今回は魚でしたが、本来、式包丁で扱うのは魚だけではありません。「三鳥五魚」と言われ、三鳥は「鶴・白鳥・雉」、五魚は「1.鯉、鯛、鮭、鱸、鮒」です。天然記念物は捌けないため、鳥については現代では雉しか扱えません。また、鳥の場合「解剖のようになる」ため、今では技を伝承するために練習はするものの、人前で披露する機会はない、とおっしゃっていました。
式包丁の歴史は長く、『日本書紀』にその由来が記されています。光孝天皇(886年即位)が数々の宮中行事に式包丁を取り入れたという伝説もあります。以来、天皇料理番である高橋家に弟子入りして伝授を受けた中から流派が生まれ、公家や武家の「節会」等で式包丁は受け継がれてきました。現存する流派としては、生間流、四條流、大草流があります。各派、式包丁の作法を記した大部の秘伝書が伝えられていますが、なぜ式包丁が作られたかについては決定的な文献・史料・書物はありません。不思議なことです。
千年以上に渡り、ある一族や宗派が宮中の技芸や知識を世々代々伝えてきたのが、日本の伝統文化です。戦や支配者の変遷、時代の荒波に揉まれつつも、子や孫に伝え続けるのは簡単なことではありません。伝え続けるとは何か?考えさせられます。
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