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王道を行かない人生はいつだっておもしろい(タイ)

  遺跡が好きで、それが旅行の目的になることもある。タイのブリーラムにパノムルン遺跡があると知り、行ってみたことがある。その遺跡も小粒ながら美しかったが、そこで泊まったゲストハウスのオーナーの方がより印象に残っている。シーズンオフだったのか、客は私ともう一組しかいなかった。そのゲストハウスから遺跡までは距離があったので、オーナーは遺跡まで車を運転して連れて行ってくれた。

 その道すがら二人で話をすることになったのだが、オーナーは穏やかで笑顔を絶やさず気さくに接してくれたため、楽しく過ごすことができた。すっかり打ち解けて、いろいろ話を聞いてみると、その優しい外見とは裏腹に彼は変わった経歴の持ち主だった。タイの最高学府を出て、親は将来は政府高官にでもなってくれたら…と期待していたらしい。卒業して1年ほどは政府関係の仕事をしていたらしいが、「つまらなくなって辞めてしまった」とのこと。その後外資系の会社だったか貿易関係の仕事だったかに就いて、得意の英語を活かして通訳として働いていた。

 そんなある日、彼の運命を変える出会いがある。詳しい経緯は忘れたが、なんとあのCIAにスカウトされ、通訳としてベトナム戦争に駆り出されたのだ。が、それは表向きの仕事で、実際の任務はスパイだった。「ベトナム語は大丈夫だったの?」と聞くと、「若かったし、しゃべってるうちに覚えるもんだろ?」とのこと。スパイって葛藤とかないの??と思うが、本人曰く「ベトナム人の友達もいっぱいできて毎日面白かった」らしい。

 ベトナム戦争終了後は、ご褒美としてたんまりお金をもらって、ヨーロッパの大学に行かせてもらい、奥さんも連れてトータルで3年ほど豪遊してきたそうだ。「いやーあれは楽しかったな、ほんと」と楽しそうな笑顔で話してくれた。裕福な家柄出身とは言え、タイが今よりずっと貧しかった時代に、ヨーロッパを豪遊できたタイ人はどれだけいたんだろう。今はいろんな国からの旅人と会って話すのが楽しいというオーナー。エリートが王道を外れた人生はいつだっておもしろい。

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