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『カンフー・キッド(好小子)』の顏正國について語る

80年代に一世を風靡した台湾映画『カンフー・キッド(好小子)』。
3人の少年がカンフーで活躍するこのアクションコメディ・シリーズは日本版まで制作され、彼らが日本語で主題歌を歌ったり、焼きそばのテレビCMに出演したり、大人気だったことを覚えている人も多いと思います。

その3人の中で私が一番好きだったのが顏正國(ヤン・チャンクオ)。
1974年生まれで4歳から子役を始めた彼は台湾の巨匠監督・侯孝賢の多くの作品に登場。早くから大人顔負けの演技力を示して、『坊やの人形』の一編、萬仁監督の「りんごの味」では1983年台湾金馬獎・子役賞にもノミネートされました。

そんな顏正國を海外にも知られる人気子役スターにしたのが『カンフー・キッド(好小子)』。顏正國と左孝虎(ツオ・シャオフー)、陳崇榮(チン・ゾンロン)を主演にしたこのシリーズは台湾で1986〜89年までの4年間に6作も制作される人気作となりました。なんと彼はシリーズ1作ごとに家を1軒買えるほどのギャラをもらっていたそうで、当時、羽田空港に多くの日本人ファンが集まってくれたことも印象深い思い出だそうです。

でも、当時の彼は子役として成功する一方で小学校の授業にはほとんど出席できず、字すら覚えられなかったとのこと。中学生になって仕事が減っていくと、勉強についていけないだけでなく、映画のイメージで彼を強いと思い込んで因縁をつけてくる先輩たちにも悩まされ、学校から足が遠のき、気づけば不良たちとつるんでドラッグをやり、荒んだ生活を送るようになりました。

そして17歳の頃、侯孝賢監督に声をかけられて、彼がプロデュース、徐小明が監督する映画『天幻城市(少年吔,安啦!)』(92)に主演します。この作品で顏正國が演じたのはまさに当時の彼と同じような不良青年。映画の結末は彼の死で終わりますが、のちに顏正國は、侯孝賢監督はこの役を演じさせることで彼を更生させようとしていたのではないかと語っていました。

なお、『天幻城市(少年吔,安啦!)』は東京国際映画祭のコンペに出品され、台湾金馬獎では美術設計、映画音楽、映画歌曲の3部門でノミネートされました。実は当初、顏正國も主演男優賞にノミネートされたのですが、授賞式の数日前に彼が拳銃所持で逮捕され、その資格は取り消されてしまいました。

その後、彼は侯孝賢監督の『憂鬱な楽園』(96)に出演したりもしましたが、20代になっても荒んだ生活ぶりは変わらず、ついに2001年、ドラッグディーラーを身代金目的で誘拐した一味の一人として逮捕されます。これはかつての子役スターの凋落として台湾で一大ニュースとなりました。

のちに顏正國が語ったところによると、彼自身は犯行に関与していなかったものの、その容疑を晴らすことができずに死刑が求刑され、結局「懲治盜匪條例」の廃止で懲役15年の判決になったとのこと。父親は無実なら諦めないで濡れ衣を晴らそうと言ってくれたそうですが、そのために父親にどれだけのお金と時間と労力の負担をかけてしまうかと考えるとできなかったそうです。

その父親は服役3年目で亡くなり、そこから彼の意識も大きく変わっていきます。そして、11年後の2012年に出所してからは、服役中に一から字を勉強して習得した書法のスキルを役立て、少年鑑別所で書法を教えるなどの公益活動を行い、青少年に向けた公益Web映画『如果』を制作。

また、芸能界にも本格復帰を果たして『角頭 』(15)などの映画に出演、その続編『角頭2:王者再起』(18)では監督も務めました。そして、2022年には侯孝賢監督に捧げるという『天幻城市(少年吔,安啦!)』のアンサー映画『少年吔』を監督・主演しています。

ちなみに、顏正國は逮捕時の妻とは離婚、獄中で文通を続けた女性と出所後に再婚して子供もいるそう。また、その他のカンフー・キッドたちの現在はというと、一番アクションができた左孝虎は映像ディレクター。ぽっちゃりしていた陳崇榮は大人になってからIT系の仕事で成功したそうで、2013年の短編Web映画『人生』に顏正國と一緒に出演したことでファンを喜ばせました。

台湾の娯楽映画の楽しさを教えてくれた『カンフー・キッド(好小子)』はもちろんのこと、『天幻城市(少年吔,安啦!)』も90年代初頭の台湾社会のダークな部分を切り取った痛烈な青春映画として、OSTも含めて私にものすごく大きな影響を与えてくれた作品。『少年吔』もぜひ日本で観られるようになってほしいと思います。


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