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世界一のピッツアイオーロ

久しぶりに広島市西区横川「ピッツアリーヴァ」を訪れた。

程よい間隔で木のテーブルが並べられ、テーブルクロスはなく、素朴な食堂っぽい雰囲気。
そこへ次々と客が訪れ、一気に席が埋まった。

この店は現店主、大岡修平くんのお父さん、大岡隆則さんが始めた店で、最初は奥様(修平くんのお母さん)と一緒にやられていた。
今は完全に引退されたのか、厨房にもフロアにも姿が見えなかった。

僕のこの店の楽しみ方は昔から変わらない。
まず前菜を楽しみ、それからメインのピッツアに移行するというもの。
ピッツアが旨いのは当然として、前菜の盛り付けや組み合わせが素朴で勢いがあり、捏ねくり回したそこらへんの料理よりもずっと旨いのだ。
これは開店当初からずっと変わらない。

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グリーンサラダチーズおろし添え1,100円。
定番中の定番だが、これが鉄板で旨い。
サラダというのは意外と難しくて、野菜の味が弱いとダメだし、ドレッシングが強すぎてもダメだし、食べごたえがなさすぎてもダメ。
一皿でたっぷり二人分は盛られていて、リコッタサラータかな?ミルキーなチーズがたっぷりかかっているのがいい。

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この日は糸島産タチウオのアクアパッツア1,760円があったのでお願いした。
僕はアクアパッツアが大好きなのだ。
底にジャガイモを敷くところがナポリっぽい田舎臭さで、タチウオのエキスを吸って実に旨かった。
ニンニクは使われていないが、シンプルで勢いがあるいいアクアパッツアだった。
火入れは釜で行ったようだ。

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ピッツアはコンドル2,365円を選んだ。
グランドメニューではなく、本日のオススメPIZZAに書いてあったものだ。
まずはこの中からチョイスするのが基本で、食べたいものがなかった時に、グランドメニューから選ぶと良い。
コンドルは、モッツアレラ、自家製サルシッチャ、フィーアリエッリという組み合わせ。
なんだ?そのフィーアリエッリというのは?と思うが、チーマ・ディ・ラーパの一種で、カブの仲間。
僕はカブの葉が大好物なので、ナポリの人たちに親近感が湧いた。
そして味は、頭の芯がクラクラして食べる手が止まらなくなるほど旨かった。
ピッツアはこんなに旨くなるのか!と思った。

少し昔話をしよう。
15年くらい前と思うが、広島市中区三川町に「ピッツアリーヴァチェントロ」という店があった。
本店をお父さんが切り盛りし、2号店のチェントロは修平くんがほぼ一人で切り盛りしていた。

僕はその頃から「ピッツアリーヴァ」のピッツアが好きで、近くで働いていたこともあり、時々顔を出してピッツア談義をしていた。
ピッツアというのは鮨や天ぷらに匹敵する職人技で、上にのった具、チーズ、ソース、生地を1分そこそこで一気に加熱する。
全てを最上の状態 に焼き上げるには、生地の延ばし方、ソースの塗り方、具の配置まで気を抜けない。
どれかが生焼けだとNGだし、焼き過ぎてしまってもNG。

その頃の彼のピッツアで不満だったのは、生地が焼き切れていないこと。
焦げても構わないので最後まで焼き切らないと、真にふっくら、もっちりして歯切れが良い生地にはならないよと指摘していた。
水分が抜けきっていないと口溶けも悪くなる。
修平くんは「焦げたらお客さんが嫌がるんですよ」と言っていた。
そんなの気にするな!と激励し、今日は素晴らしいよ、今日はもう少しだねと言いつつ通った。
今から考えても我ながらクソ面倒くさい客だが、修平くんはいつでも嫌な顔をしなかった。

その後、チェントロは閉店し、修平くんは本店に戻った。
しかし彼は腐らず研鑽を続け、2012年「真のナポリピッツァオリンピック」に出場し、なんと!クラッシック部門で金メダルを獲得したのだ!
この大会は、ブラインドテイスティングで点数をつけるため、虚飾を排した実力が問われる。
そこで並みいるイタリア人を押しのけて、しかも基本となるクラッシック部門で優勝してしまった。
日本で天ぷら職人の世界大会をやったら、エビの部でイタリア人が優勝してしまったのと同じ。
とんでもない快挙だ。

優勝後、友人たちとお祝いのワインを持って食べに行った。
世界一になってしまったんだから、もう僕なんかが口出しはできないねと言うと「そんなことないですよ。また色々言ってください」と彼は言った。

その後、僕の都合で、5年以上ご無沙汰してしまっていた。
今回、久しぶりに席に着くと、窯の前からニコッと笑って手を挙げてくれた。
ピッツアは自ら持ってきて「この菜っ葉が旨くてですね...」と説明してくれる。
超久しぶりなのに数カ月ぶりくらいの爽やかさで「この間、仕込みしながらラジオ聴いてたら声が聞こえてきましたよ」と笑う。

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以前は完全に一人で生地を延ばし、ソースを塗り、具をのせ、窯で焼いていたが「やっと任せられるレベルになったので」ということで、焼きは熟練のスタッフに任せることもあるようだ。
その分、提供が劇的に早くなった。

今の修平くんのピッツアは、その日の窯の状態に合わせて自由自在に操っているようで、焦げがほとんどないのに生地は焼き切れていたりする。
当然だが、僕なんかが口出しできるレベルではない。
きっとこれから20年くらいは、熟練の技で焼き続けてくれるだろう。

ナポリピッツアに限るならば、ナポリにも東京にも行く必要はない。
世界一のピッツアイオーロは僕らの街にいるのだから。

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