広島市西区三篠町「桃園」の記録
広島市西区三篠町2-19-13にあった「桃園」が2021年5月31日で閉店した。
シャイなエンドウさん(大将)らしく、閉店当日まで掲示などは一切なく、6月1日になって閉店のお知らせが掲げられた。
この貼り紙を見て、驚いて店内を見ると、エンドウさんと奥様がおられたのでご挨拶したが、穏やかに微笑んでおられ、残念だがこれで良かったのかな?と感じた。
店を続けていただけると嬉しいが、お二人ともご高齢なので、老後を楽しむという選択もある。
後者を選ばれたんだなと感じた。
この店は戦後、広島市中区立町にあった人気店「来々軒」の流れを汲んでいた。
「来々軒」の本店は閉店したが、本店のチーフをされていたヒラタさんが昭和42年に独立したのが「来々軒十日市店」、現在の「桂蘭」で、エンドウさんは「来々軒」から「来々軒十日市店」を経て、独立された。
それが「桃園」だ。
現在地に移転する前から通算して、ちょうど30年営業されたようだ。
ということは平成3年(1991)創業だ。
なお「来々軒牛田店」も現存しており、三代目が切り盛りされている。
つまり、戦後の広島市中国料理界を牽引した「来々軒」を引き継ぐ3店のうち1店が、今回閉店してしまったのだ。
昼の品書きはこちら。
夜は単品が色々あったけれど、僕は結局、夜に訪れなかった。
左上から順に紹介しよう。
中華そば、要はラーメンだ。
すっきりした癖のない醤油味のスープに、柔らかくてモチモチした麺を合わせる。
中国本土の汁麺と同様、麺のコシは弱く、伸びるのも早い。
現代的な麺料理とは異なるが、日本の古い中国料理店では、このような麺を使うことが多い。
中国本土の影響が残っていたためではないかと僕は考えている。
次のチャーシュウ麺は食べたことがない。
要はチャーシュウが増えただけだが、脂身が全くなく、がっしりした噛みごたえで2枚で程よいのだ。
五目そばはラーメンと同じ醤油ベースのスープに炒めた野菜がのる。
野菜はキャベツ主体だ。
チャンポンとの違いは、、、見比べただけではわからない。
味付けが異なっていたのかな?
チャンポン専用麺などは使われておらず、麺は全て共通。
焼そばはこんな感じ。
生麺を茹でてから炒めてあるが、細麺なのでコシはない。
でも中華鍋で煽って作る焼そばって旨いんだよ。
現在ではソース焼そばのほうが一般的だが、元祖は中国料理なのだ。
揚げ焼そばは、麺を素揚げして上に野菜などが入った餡をかけたもの。
これはもう一度食べたかったなぁ。
あんかけ麺!
これは「来々軒」の系譜では重要な料理で、「桂蘭」ではホイ麺と呼ばれている。
未食だが「来々軒牛田店」にも八宝麺という料理があり、同じタイプの料理ではないかと考えている。
生麺を茹で、それを中華鍋に薄く広げ、両面を焼く。
これは煎(ジェン)という技法で、その上に野菜などの餡をかける。
揚げ焼そばとは異なり、タケノコが入っていた。
食べたのは3月初旬なので、この料理のためにタケノコが用意されていたことになる。
続いては焼米粉。
これが好きだった。
ビーフン系には肉と野菜だけでなく玉子が加わる。
その優しい甘さがビーフンと良く合うのだ。
そして、僕が最も愛した汁米粉。
塩もダシも弱めだが、食べているうちに野菜の甘みがスープに移って、食べ終わる頃には大満足。
途中で卓上の辛い調味料を加えても良かった。
最後にもう一度だけ「桃園」の料理が食べられるならば、僕はこの汁米粉を食べたい。
「桂蘭」でかなり近い汁米粉が食べられるが、この店が600円なのに対して900円と1.5倍なのだ。
ここでは昔から天津丼の人気が高かったが、僕は天津麺のほうが旨いと感じていた。
すっきりして甘さがなく、エビと野菜(タケノコ入り)を炒めてから玉子でまとめるためか、エビの香ばしさが引き立っていた。
冷麺も夏季限定ながらファンの多い料理だった。
いつものふにゃふにゃ麺が、水で締められたことによりゴムゴムした食感になって旨かった。
具の下拵えはどれも丁寧で、特にシイタケを少し甘く煮たものがいいアクセントになっていた。
ここからはランチ類になる。
残念ながら焼肉ランチととんかつランチは食べたことがない。
この店で食べる必然性を感じなかったのだ。
なのでまずは酢豚ランチ。
厚めの衣でカリッと揚がった豚肉に強めのケチャップ味。
野菜は添え物で豚肉主体になっており、ルーツである咕咾肉のような仕上がり。
左手の即興オムレツのような玉子が絶妙な半熟と塩加減でいつも旨かった。
そして「桃園」のエッセンスが詰まった中華ランチ。
カリッと揚げたての肉団子、酢豚ランチにも添えられた即興オムレツ。
そして薄味で、軽く餡でまとめた野菜炒め。
右上のスープも薄味だった。
これが旨いと感じられる人であれば、この店の料理を気に入るという、試金石のような料理だった。
ここからはご飯類で、まずは炒飯。
結構ファンが多くて、単品で頼んでいる人もいた。
過不足のない炒飯だが、やはり薄味なので、卓上のウスターソースを少しかけても旨かった。
次の中華丼は間違いなく食べているが、写真が見つからなかった。
なので麻婆丼。
出てきた時点でゴマ油がふわりと香り、豆腐と餡が一体化してスルスルと胃に落ちていく優しい旨さ。
麻婆豆腐ではなく、麻婆丼として旨かった。
優しいだけじゃなく、ボリュームがあるのに最後まで飽きさせない惹きもある料理だった。
最後は店の顔とも言うべき天津丼。
僕は甘めの餡が好みではなかったが、玉子の扱いは相変わらず絶妙で、玉子の中からエビ、キクラゲ、タケノコなどが発掘されるのが楽しかった。
これ以外にも日替りランチの桃園定食は結構食べている。
日替りが魅力だと、どうしても頼んでしまうのだ。
残念だったのは夜に一度も訪れなかったこと。
ご高齢なのでコロナが終われば宴会のお願いをしようと考えていたが、コロナ収束前に閉店されてしまった。
料理も店も、一期一会。
ほとんどの料理はある日突然食べられなくなる。
僕たちは常に、この料理を食べるのは最後かもしれないと心のどこかで覚悟しなければならない。
「桃園」の閉店は、改めて僕にそう教えてくれた。
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