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塚原公園女装狩り事件

岡山市の北区にある塚原公園は木々に囲まれた静かな公園で犬の散歩にくるお年寄りやらテニスをしにくる若者がちらほら散見される至って普通の公園だ。
しかし夜になると女を装う女装者が集まるというまことしやかな噂があった。

「なぁメガネ!!本当に今夜女装さんはくるのかなぁ?」

鼻息を荒くしながら興奮したノッポが聞いてくる。

「幕サイに女装さんが書き込んでたから多分来ると思うよ!」

僕は釣りの可能性も否定できなかったがノッポがあまりに興奮しているもんだからそう答えるしかなかった…。

大手女装掲示板サイト『女装幕府』略して幕サイは女装子さんが事前に出没を予告したりする時に使う女装専用の掲示板サイトだ。

中でもこの塚原公園は岡山では王島の盛り、通称『王盛り』と二分する県下有数の女装スポット。
偽の書き込みの釣りもたくさんあれど女装子さんが来る可能性は高かった。

隣にいるノッポはあだ名で背が高いからノッポ、僕はメガネをかけているからメガネというハンドルネームで幕サイに「女装さん来ませんか是非会いたいです。」と連日書き込みをしていた。

そう…僕とノッポは女性や3度の飯よりも女装子さんが大好きな無類の変わり者なのだ。

        ♂♀

夜も0時を回った頃、1台の車が公園の駐車場に入って来た。
白色のSUVで一瞬しか見えなかったが、女装のようなシュルエット。
僕は胸が高まった…

隣にいるノッポもSUVに目が釘づけだ!

後は女装さんの争奪戦になる。いち早く女装さんに声をかけなければ他の純男に横取りされてしまう。
深夜の公園に集まる女装と純男が出会ったらすることは何もお話しだけじゃないってことだ。

もちろん僕やノッポはお話し以上を期待してないわけじゃない。

ただその先にまだ踏み込んだことがない未発展純男なのだ!

「今夜はイケそうな気がするぅううー」
興奮のボルテージがMAXに達したノッポが叫びながら車から降りようとしている。

目がもうキマッた人のその目だった。

他の待機している純男たちも女装さんが車から降りて散歩し始めるのを股間を膨らませながら待ってるに違いない!

はやる気持ちを押し殺してノッポが車から降りるのを静止する。

「なんだよメガネ、先に車から降りて待ってないと先を超されちまう。」

「気持ちはわかるが、先に車から降りてうろうろしてたら怖がって女装さんが降りてこないかもしれないだろ。」

僕は力いっぱい腹から声を出してノッポを怒鳴りつけた!

「もしあの車に乗ってるのが塚原公園で1番人気の女子高生女装ミニスカルーズのピピちゃんだったらどうすんだよ!!」

僕のダメ押しの一言で我に返ったノッポが神を崇めるような目をしながら

「ぴッ、、ピピちゃん!ミニスカルーズのあのピピーッちゃん!」

「そうだぞ!お前が車から降りてうろうろしてたら怖がってピピちゃんが帰ってしまったら、お前責任取れんのか?」

幻影旅団の団長ばりに僕はノッポに向かって叫ぶ。

首をぶんぶん横に振るノッポを尻目に僕は続ける。

「もしかしたらルー王盛りちゃんかもなー」

ノッポの顔が火照りだして真っ赤になる。

ルー王盛りちゃんとは普段は王島の盛りに出没する有名な可愛い女装さんだがこのあいだ早朝にピピちゃんや他の女装さんたちと塚原公園に来ていたのをツブヤイッターというSNSで確認している。

このメガネ抜け目がないぜ!我ながら自画自賛する。

とその時、女装さんが乗ってると思われるSUVのドアがバンッと閉まる音がした。

ついに女装さんが動き出した。

「ノッポ…30秒数えたら俺たちもいくぞ!」

ノッポは首を何度も縦に振る。

そうだ30秒だ。それ以上だと他の純男が先に動き出す可能性や女装さんを見失う危険もある。
僕は小さな声でいち…にぃ…とカウントをはじめた。

29…30…

僕は30数えるとノッポに目で合図を送り2人で車を降りる。
どうやら他の純男たちは車から降りていない。
そして女装さんが向かった先はしっかり確認済みだ!後は勇気を出して声をかけるだけや!


         ♂♀

僕とノッポは女装さんが向かった先、つまり塚原公園のトイレに今まさに向かっていた。
緊張で足が竦む…。
4月だというのに少し冷たい風がTシャツにはりついた汗をより冷たく感じさせる。
緊張と弛緩を繰り返しながら僕は大きく息を吸いトイレまでの道を一歩ずつ確かに歩いていた。

トイレまで後少しのところで爆音の音楽が聴こえる。
僕とノッポはびっくりしてその場に立ちつくしその音を聴いている。
昔聴いたことがあるメロディー、、しばらく思考して『みかん』という2人組のシンガーソングライターの春色という曲だと思い出す。

さっきの女装さんが流しているのだろうか…

するとポップな曲調からは的外れな歌詞を歌う歌声が聴こえてくる。

その歌声を聴いた瞬間、僕とノッポは戦慄する。

「駐車場の純男はアクビをしながら♪
今日も女装さんを待っている♪
何も変わらない幕サイの書き込み♪

みんな女装が来るって浮かれ気分なのに♪
君は一人さえない顔してるネ
そうだこれは釣り書き込みだー♪」

これは!!
俺ちゃんだ!
女装専用掲示板『女装幕府』通称幕サイで有名な女装ハンター俺ちゃん

一見見た目は女装だが女装を狙って夜な夜な現れる危険人物だ。


「はってんさせろ!!!」

大きな声が公園中に響き渡る。



「アーーーーーッ」

女装さんの断末魔が聞こえたと思うと宙に舞ったウィッグが僕の足元にはらりと落ちる。

入り口には下着姿のさっきまで女装していたであろう人物の哀れな下着女装が倒れていた。

「あれは鎌屋マン!」

ノッポが近づいていく。

「だめだノッポ」

今日は退け!

僕たちは塚原公園をそっと後にした。
この公園は危険すぎる…。

あの日聞いた鎌屋マンの断末魔を思い出す度に僕はぶるっと身震いするのだった。


                    終

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