フェスアプリのデザイン - 海外のフェス編
だいぶ時間がたってしまった...Coachellaが終わってフェスシーズンって感じですね。ワイ、今年はGlastonburyとOpen'er。楽しみ。Osmoなんとかをゲットし、TwitterとInstagramに色々のせたい。
下書きを開いたら、あけおめ〜みたいなこと書いてあった。時空が歪んでいる 。さて、前回の記事はこちら。
今回は海外フェスのアプリをリサーチ。まずは貯めてきたスクショを貼りつつ機能とそのデザインをレビュー。何を考えてデザインするべきか考えていきます。長いで。
ウォークスルーのデザイン
アプリの特徴や使い方を見せるウォークスルー。日本のフェスアプリでは見なかったと記憶しているが、海外フェスではよく用いられている。いくつかピックアップする。カッコ内はオーガナイザー。
👇TRNSMT 2018(DF Concerts / Live Naiton系列)
イギリス・TRNSMTのアプリを作ったのはカナダのGreencopperという会社だ。詳細は後述するが、Greencopperは多くのフェスアプリを制作しており、そのアプリたちは小さな違いはあれど、ほぼ同じ作りになっている。
TRNSMTのアプリは、フレンドとのスケジュールをシェア、ウェブサイトとマイスケジュールと同期するためのFacebookログイン、位置情報へのアクセス許可、一般情報とスケジュールリマインダーという2種類の通知の許可、開催期間外の通知の許可、ニュースレターの購読の5ステップが用意されている。
👇Reading Festival 2018(Festival Republic / Live Nation系列)
👇Coachella 2019(Goldenvoice)
同じくGreencopper製のイギリス・Reading Festivalでは "Want more info?" がなく、4ステップに。アメリカのCoachellaでは "Want more info?" "Just for Fans" がなく、"Sticker Pack" が用意されているが、作りは同じ。
👇Wonderfruit 2018(Scratch First)
Greencopper製ではないアプリも見てみる。タイのWonderfruitは、立ち上げると通知許可のアラートが表示され、ウォークスルーに続く。内容はアプリの機能を説明するシンプルなものだ。いらんやろ...。中身わかりやすく作ろうや。
👇Rocking the Daisies 2018(Steyn Entertainment)
南アフリカのRocking the Daisiesは、Appmiral製。Appmiral社についても、Greencopperと合わせて後述する。Appmiral製のアプリはお気に入りのアーティストを登録するのが特徴的。
もちろんこういったウォークスルーなしで位置情報と通知の許可アラートを表示してスタート、というアプリもある。
まあ昨今はあれですよ、日本のアプリがふわっとしがちなプライバシーポリシーをちゃんとユーザーに伝えないとだよ。
ホームとメニューのデザイン
左はアメリカ・Bonnaroo、右はCoachella。
ホーム(立ち上げ時に表示される画面、ということにする)はラインナップ、メニューはドロワーを採用したものが多い。項目名を見ただけでは、それが何なのかわからず辛い。ドロワーを何度も開くという行為は会場で使ってみるとかなりのストレスがある。
Greencopper製はすべてドロワー。フェスによって項目は異なるが、開催が近づくにつれ項目が増えていきがち。Bonnarooは2018までGreencopper製だったと記憶しているが、2019は違う制作会社に変わったように見受けられる。LiveNation内(あるいはC3 Presents内)で作っているのかも。
いずれにせよ、美しいとも、使いやすいとも言えないのでは。ちなみにAndroidも同じ作り。
👇Clockenflap 2018(Magnetic Asia)
香港のClockenflapはスプリングボードがホームになっている。スワイプで前の画面に戻れないので発狂しそうになる。この数でまとめられるのならタブバーで良いだろう。
👇Pukkelpop 2018(Chokri Mahassine)
ベルギーのPukkelpopは、Rocking the Daisiesと同じくAppmiral製。これまで見てきたアプリの中では最も整理されているように感じる。サンキュー、タブバー。アプリを立ち上げた際に表示される画面は "Newsfeed" という名前になっている。開催中は様々なコンテンツが表示されるようだ。
同じくAppmiral製のフェスアプリたち。Androidではタブバー(Bottom Navigation)ではなくドロワーを採用している。
前回も書いたことだが、ホームのデザインは難しい。ユーザーが求めているものはタイミングによって異なるからだ。開催前ならラインナップやニュース、開催直前はタイムテーブルやグッズで、開催中はマイタイムテーブルかもしれない。そう考えるとスプリングボードやメニューリストをホームにするのは悪いアイデアではないかもしれないが、考えることを放棄しているようにも思える。
フェスアプリは機能(と画面)が多くなりがちだ。だからと言ってドロワーに詰め込むのはよろしくない。実際に会場で使ってみるとよく分かる。マップやタイムテーブルを閲覧するために2回も3回もタップするのはかなりしんどい。ユーザーにとって何が大事なのか丁寧に考えたい。
マップのデザイン
Google Mapsに会場のエリアマップを重ねて表示するマップ "Interactive Maps" を用意していることが多い。ピンをタップするとスポット情報が表示される。画像だけのパターンもある。
左からCoachella、Governors Ball、Pukklepop、DWP。
フェスによってはパーキングエリアマップなど複数のマップが用意されている。通信状況が悪いと肝心の画像が表示されず困ることも。
👇Google I/O
フェスアプリではないが、同じイベント用アプリのGoogle I/O 18も参考になりそうだ。パット見ごちゃついているが、マップを縮小するとスポット名は消える。スポットをタップすると詳細が表示される。ナビゲーションバーのピンボタンをタップするとマップの中央に戻るが、これは現在地が開催エリアから離れている場合、現在地ボタンを押すとマップに戻れなくなるためだ。
そしてこちらが2019のもの。ナビゲーションバーからピンボタンは消え、Floating Action Buttonでカテゴリを選択できるようになった。マップの範囲は狭まり、会場マップ外へは移動しないようになっている。
👇WWDC
ついでAppleのWWDC 2018も置いておく。こちらはスポットの詳細はない。
まあマップに関してはGoogle MapsやApple Maps、Facebook Localなどを参考にしたほうが良いかもしれない。
👇Disney Resort
ついでにDisney Resort。こちらもGoogle Mapsに重ねたものっぽい。
タイムテーブルのデザイン
日本のフェスは一般的に縦軸が時間、横軸がステージ。海外ではそうではないケースも見られた。
また海外では "Timetable" ではなく "Schedule" と表記される。微妙にニュアンスが異なるのだろうか。
左からDWP、Innings Festival、Clokenflap、Hangoutのスケジュール。
日付の切り替えは、日本のフェスアプリ同様タブを用意しているものが多い。
使ってみるとわかるが、DWPやClockenflapのタイムテーブルは時間とステージに関係がわかりにくく、ストレスがたまる。このストレスはやばい。
いわゆるマイタイムテーブル(お気に入りしたアーティストのみ表示)は、ナビゲーションバーにフィルタボタンを置くケースが多い。DWPのようにワンタップで絞り込めるものもあるが、フィルタの中からさらに絞り込むツータップのケースが多い。この機能はnice to haveな気がする。そもそもソートしなくとも、お気に入りがわかりやすいデザインを検討したい。
またマイタイムテーブルはフェスアプリから唯一(?)シェアされるコンテンツだ。URLなのか画像なのか、画像ならどう収めるのか、考える必要がある。
👇Rock Werchter(Herman Schueremans / Live Naiton系列)
先ほどもあげたベルギーのRock WerchterはPukkelpop、Rocking the Daisiesと同じくAppmiral製。日本のタイムテーブルに最も近い縦軸に時間のデザイン。日付の切り替えは中から選ぶ必要がある。
一覧性には欠け、スクロールしたらわかるが爆裂スーパー使いにくい。
ここでもGoogle I/O 19を見てみる。ワンカラムでスッキリしている。お気に入りの絞り込みはナビゲーションバーのスイッチで。これはちょっとパクりたい。フィルタはFloating Action Buttonをタップすると表示される。
要素の多いタイムテーブル画面は綺麗にまとめるのは難しい。Jフェス、ROCK IN JAPAN FESTIVALは一つの最適解っぽい。
また画面上部に指が届きにくい昨今のスマホ事情も考慮しないといけない。フェスでは片手がビールやビールやビールでふさがっていることも多い。あっち押したりこっち押したりするのはしんどい。
通知のデザイン
海外フェスのプッシュ通知は友達のように話かけてくる。
お気に入りしたアーティストの出演時間を通知するのはもちろん、ラインナップやチケットに関するお知らせ、今日は暑いから水を飲もう、お腹空いた? フードラインナップはこちら、UBER使えまっせ、などなど。
確かに、天候に関することや、予期せぬ規制や変更、お客さんへのケアといったコミュニケーションは、よりよりフェス体験に貢献するだろう(あんまりされても困るが)。よく入場規制(という概念?)が起きる日本のフェスは、混雑状況を通知してくれるとありがたい。
フェスアプリを作る会社、サービス
👉 Eventbase Technology, Inc.
イベントアプリのデザイン・開発を手がけるアメリカの会社。SXSW、ロンドン五輪、マイクロソフトやアドビのカンファレンスと幅広い分野でイベントアプリを提供している。
👉 Patron Technology, Inc
イベントに関係するプラットフォームを制作している会社。ShowClix, PatronManager, Ticketleap, Greencopper, SeatAdvisor, Thuziというブランドをもち、Greencopperがフェスアプリを手がけている。
Greencopperは2009年に創業され、2018年にPatronに買収されたフェスアプリに特化した会社(たぶん)。Coachella, Reading, Hurricaneなどのフェスアプリを手がけている。Goldenvoice, Live Nation, FKP Scopio, Danny Wimmer Presentsとクライアントは幅広い。
またGreencopperはgolive.fmというパッケージ化されたフェスアプリ制作ツールを提供している。
👉 Appmiral
ベルギー。フェスアプリ制作ツールAppmiralを提供している。3つのプランがあり、提供される機能が異なる。スポンサーのコンテンツをアプリ内に表示することができる。ヨーロッパを中心に使用されており、2017年は33のフェスで使用されている。
👉 ALOOMPA
アメリカ・テネシー。Outside Lands Music Festival(運営元はSuperfly。BonarooもAC Entertainmentとともに運営)などのフェスアプリを手がけている。同社のプロフィールによれば、世界で初めてフェスアプリ(Bonnaroo)を作ったそうだ。
👉 CANTINA
アメリカ・ボストン。Newport Folk Festivalのアプリほか。
👉AppMajik
フェスアプリ制作ツールを開発している。オーストラリア。Laneway Festival、Beyond the Valley、Falls Festivalといったオーストラリアで開催されるフェスに使用されている。
👉Code-Troopers
フランスの開発会社。Pitchfork Music Festival Parisのアプリを制作している。
まだあるがこのあたりにしておく。市場が広いだけあって、フェスに特化したデベロッパーもいる。Patron Technologyはイベントに関するテクノロジーをすべて手の内に収めたいらしい。日本にもこうようなイベントテック企業はあるのだろうか? 株式会社SKIYAKIがそういう感じなのかな。
海外フェスならでは機能
海外フェスは積極的にデジタルへ投資してきた。Coachellaのライブストリーミングはその最たる例だが、それ以外にも、ウェブサイトでアカウントを作成しマイタイムテーブルを作る、メーリングリスト、リストバンドをかざすだけで決済できるといった細かな施策が見られる。
スマートフォンアプリは日本より早い時期からリリースされていた。それだけにアプリの機能は充実している。ウェブサイトと連携したアカウント作成、リストバンド認証(番号を入力してアクティベートする)、インタラクティブマップ、Spotify連携、SNS連携(タイムテーブルで友達のお気に入りがわかる、マップで友達の位置がわかる)などが特徴的だ。
最近ではARも見かけるようになった。左はCoachella、右はPukkelpop。
会場でARにするとスポット情報やスポンサードコンテンツ、フレンドの場所が表示されるというものらしい。使うかどうかは置いておいて、キャッチーではある。
また機能というほどではないが、スポンサードコンテンツにも注目したい。Reading Festival 2018のアプリのローンチスクリーンおよびメニューにはRelentless(エナジードリンク)のロゴが表示されていた。さらにメニューには ”FESTIVAL INSPO from PRIMARK”(PRIMARKはアイルランドのアパレルブランド)という項目があり、タップするとPRIMARKの広告コンテンツが表示される。Governors Ball 2019のアプリはPowered by Bud Lightと表記されている。
基本的にはフェスのメインスポンサーが多いが、アプリのみで露出するというケースもありそうだ。予算の限られる小規模のフェスはアプリの制作費を捻出することは難しいが、アプリスポンサーは助けになるかもしれない。上述のPRIMARKの広告コンテンツは取ってつけたような感じだったが、フェス体験を充実させることを意識し丁寧に考えれば良いものにできそうだ。
Pitchfork WeeklyとLEXUS、PauseとSONOSなど音楽関係のアプリにスポンサーをつけるというのは、過去にも事例がある。小規模のフェスでは助けになるだろう。
↓過去に書いたブログ
海外フェスのアプリは早くからリリースされてきたが、そのデザインのクオリティが高いかというと決してそうではないように思える。
海外のユーザーと自分(日本のユーザー)とでは受け取り方が違うのかもしれないが、それを差し引いてもぶっちゃけイマイチだと思う。
フェスアプリとはなにか
さて。前回のnoteで「そもそもフェスにアプリが必要か」と書いた。改めて、そのことを考える。
僕は大半のフェスに必要だと思っている。
フェスには魅力になるハードルとそうでないハードルがある。魅力になるハードルはコンセプトと共存し、拡張する。あるいはコンセプトそのものである。例えばフジロックは都心から遠い自然の中で開催される。チケット代も高く、宿は争奪戦。天候も変わりやすい。Burning Manは何も用意されておらず、参加者の主体性とコミュニケーションが求められる。これらは魅力になるハードルと言える。
Kendrick Lamar後の嵐でテントが飛んでったという彼もきっと苗場に戻ってくるだろう。
だが、例えばウェブサイトがなかったらどうだろう。バック・トゥ・ショウワがコンセプトならそれくらい尖ってて良いが、普通はしんどい。アプリもあって当たり前の存在になると思う。わしは電子マネーが使えないのもしんどい身体になってしまってのう。祭の魅力というのはある種のマゾヒズムだと思うだが、日常で鞭打たれても痛いだけだ。意味がわからんぞ。
アプリを使ったからと言ってチケットがさばけるわけではない。最初はうまくいかないこともあるだろう。しかも金がだいぶかかる。でもこれはフェスとオーディエンスとのコミュニケーションで、長い目で見たブランディングでもある。そういった積み重ねが今のCoachellaではなかろうか。
まぁ実際ユーザーとしてはあると便利だ。パンフもたなくて良いし、なんども保存したPDFを見ることもなくなる。マイタイムテーブルと通知、マップはよく使う。ストレスが減って、楽しむ余白ができる。
開催期間外をデザインできるか
もっとも重要なことは開催期間外のデザインだと考えている。フェスは開催されていない期間のほうが長い。その期間をどうデザインするか。フェスそのもの、開催地域、音楽への関心を保ってもらうか。もはやアプリだけの話ではないのだが。
オーディエンスにとってフェスはフェス文脈の上にあるのではない。音楽、アウトドア、ローカル、様々の文脈が集まっている。ライブはフェスだけではないし、ローカルはフェスが終わったらなくなるわけではない。コンテンツはたくさんある。
現時点での答えはないし、考えて実行するのも大変だろう。もちろんユーザーがそれを望んでいなかった、ということもあり得る。それでもみんながもっとハッピーになれる方法を一つでも増やしたい。結果的に継続しなかったからYEBISU MUSIC WEEKENDをやったときに一番興味があったのはそこだった。
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フェスアプリ制作サービスはじめました
でね。なぜフェスアプリについてあれやこれやと書いているのか、というとこれ。
Spincoaster社と音楽フェスのためのアプリ制作サービスをはじめました。せっかくなのでこのようにオープンにやっていきます。同じ失敗しないように、みんなのストレスが減るように。ウェブでもお手伝いできるので連絡くれよな。
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海外フェスガイドブックを書いた友達がトークイベントするらしいで。
また一歩、天国に近づくのです...💃