「幽霊は存在するのか」に対するいくつかの考察
「なあ、幽霊っていると思う?」
『いや、私はそういうのはあまり信じてないね。なぜなら一体どれくらいの人間がこの地球上で死んでると思っているんだ?いや人間だけじゃない。動物霊っていうのもあるじゃないか。もしこの世界に幽霊が存在したとしたら、とっくにこの地球には幽霊まみれで所狭しの寿司詰め状態になってるはずだ。』
「いや、そりゃどうだろう。別に全部が全部幽霊になる訳ではないんじゃないの。よく言う強い恨みをもって死んだ人が霊として現世をさまよって…みたいなのが定番じゃんか。」
『そうは言ったって強い恨みをもって死んだ人間がどれだけいると思っている?昔から人類は戦争やら飢饉やら疫病やらで、安らぎの中死んでいった幸福な人の方が少数派だったと思うけれど。』
「そのために昔は宗教が盛んだったじゃないの?今より簡単に人の命が失われたかもしれないけれど、人を苦しみから救ってくれる神の存在を信じていたからこそ、死後の希望を持って死んでいったんじゃないのかなって。」
『なんだ、次は「神は存在しているのか?」かい?』
「いや、そっちはもっとややこしいから一旦おいておく」
『あとさ、昔から気になってたんだけれど、髪の長い白い服を着た女の霊が多すぎないか?ちょっと昔の話だと兵隊の霊とか落ち武者の霊とか話に聞いたことあるけど、やっぱメインは髪の長い白い服を着た女の霊じゃないか。逆に巨漢で150㎏超えの肥満の霊とかケバいギャルの霊の話を聞いたことがない。人類がホモサピエンスになってから何10万年くらい経ってる訳だけど、何故多く見積もってもここ1000年くらいの直近の人類の幽霊ばっかになる?この多様性の無さが幽霊の存在の脆弱性じゃないか?』
「それは怪談話だろ。観客のために伝わりやすく怖くするために作られたものなんだから時代とともに移り変わっていくのは当たり前だ。怖い話と幽霊が存在するかどうかは関係ないぞ。」
『それは確かにそうだ。では心霊スポットはどうだ。日本全国津々浦々心霊スポットと呼ばれるところはいくつもあるが、例えば心霊スポットで有名な八甲田山に霊感はあるけど日本の文化に縁も所縁もない人、そうだな、霊感のあるレバノン人とケニア人とキリバス人とエルサルバドル人を連れっていったら、本当に全員が旧日本兵の霊を見ると思うかね?』
「なぜそんなマイナーな国ばかりを……いやまあ、それは見えるとは限らないけど、おそらくその気配を感じることは出来ると思うかな。見え方って人それぞれだし。日本人はそう知っているからそれが軍人の霊だって認識出来るけど、知らなかったら認識出来ないかも知れない。霊って視覚を使って見てる訳じゃないから。感じるんだよ。第六感だよ。」
『ついに出たな。その非科学論法。それが始まったらもう水掛け論だぞ。
年末のオカルト番組と一緒だぞ。それになんだ、知らなかったら見えないって。それはもはや人の頭の中にしか存在しないってことなんじゃないか。』
「まあそれは半分正解だよ。人間の脳味噌の中に松果体っていう部分があるの知ってるか?そこは第三の眼とも言われていて、これが目覚めることで第六感が目覚めるとされているんだ。仏教でチャクラと呼ばれていたり、古代エジプトではホルスの目として描かれて」
『もういい沢山だ。オカルトマニアの戯言に付き合わされて時間を無駄にした。帰る。』
「どこに帰るっていうんだ…。というか、そんなに言うならお前は心霊スポットに行っても何でもないのか?例えば1万円あげるから誰もいない廃病院で一泊出来るか?深夜の墓場で墓石蹴り倒してションベンぶっかけられるのか?」
『今度は極論か……。いや、それは話が違うだろ。廃病院は不衛生だし危ない。墓石に至ってはもうただの犯罪じゃないか。』
「なんだよやっぱ怖いんじゃん。」
『怖いとか以前の話だよ。その理屈だと幽霊肯定派がもしこの世に幽霊がいないと完全に証明されたら、深夜の墓場で墓石蹴り倒してションベンぶっかけたりするのかよ。私はそいつが怖いよ。
『それにな。怪談話の時、奇しくもお前が同じことを言ったけど、何も【怖い】のと【幽霊が存在する】のは同一じゃないと思うんだ。
例えば、暗闇や人気のない場所が怖いのは人間の本能だ。敵が潜んでいるかも知れない。足場が悪いかも知れない。誰にも助けてもらえないかも知れない。そうやって危機回避能力が高い種類の人間だけが生存競争で有利に生き残ってきた訳だ。
『だけど人間はなまじ賢いからその本能を理性や理屈で捻じ曲げてしまう。本能が恐怖するものになんだか分からない理屈をつけて現実すら歪めて見てしまう。人間はそうやってあらゆる危険や災害に空想の理屈をつけてきたじゃないか。金縛りがその最たる例だ、金縛りのメカニズムはもうすでに解明されているけれど怖い。それは金縛りが怖いものだと刷り込まれているから。でも面白いことに、日本人には幽霊が見えるが、アメリカ人には宇宙人が見えるらしいぞ。
『それが幽霊の正体だ。本当に見える奴がいたそれは病気だ。それで金儲けをしようとしている奴がいたら詐欺師だ。
小さい頃からみんな歌ってたじゃないか、お化けなんて嘘さって。』
「……そんなの言われなくたった分かってる。本当は分かってるんだ。
だけど、どうしても俺は幽霊の存在を信じたい。」
「だってこんなに楽しくお話出来るのに」
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