目には目を、歯には歯を

 その一言はいつものように、散々もったいぶった上で吐き出された。これはとっておきの秘密だ、他の奴には内緒という前振り後に。いつも通りアタシも何々と目を輝かせてソイツを見返した。

「実はオレ、お前のこと好きなんだよね」

 そう耳打ちされてアタシはへぇと頷いた。

「おいこら、へぇって何だよ、へぇって!」
「もう、その手の嘘には乗りませーん」

 アタシは言いながら嫌々と頭を振り、耳を塞いで聞こえないフリをした。おまけにアタシの前の席にこっちを向いて座るソイツに向けて、ベーと舌を出す。すると途端にソイツは焦った表情を浮かべた。

「ちげーよ、マジなんだって! 聞こえてんのに無視すんじゃねー!」
「うるさい、黙って」

 一蹴しても尚、ソイツは延々と喚く。しまいには身体ごとアタシに向き直ると、両肩を掴んで揺さぶってくるので、仕方なしに腕を下ろして、話を聞く体勢に戻った。アタシは唇を尖らせて言ってやる。

「罰ゲームだか何だか知らないけどさ、悪趣味だしやめときなよ。そういうジョーダンは」

 高校生にもなってコイツは、地元一の悪ガキの称号を欲しいままにしていた小学校時代と何も変わっていない。肩に虫がついてるの一言に始まり、先生がお前のこと呼んでたとか、テストは実は明日だとか。次の年号は何とかだ、と言われたことは記憶に新しい。まさかねと思いつつも口車に乗せられて鵜呑みにしたアタシはSNSにその情報を書き込んで、リアフレは勿論、フォロー外からの何かよく分からない人にまで思いっきりバカにされたのだった。その時はさすがにアタシもブチキレ、キャッチャーにと勧誘されたこともあるデカケツを蹴飛ばし、確か三日くらい購買のパンをパシらせた。それ以来コイツの冗談にいちいち驚いて信じるのはやめにしたのだ。

「冗談じゃねーって、オレは本気でなぁ……!」

 ……あー、うっすら目に涙が浮かんだ気がする。人には偉そうなのに案外小心者なのだコイツは。そろそろやめとかないとと、アタシは引き際を見極める。

「実はアタシもアンタが好き。……ねぇ、驚いた?」

 ああいう嫌な冗談は言わないことくらい知ってる。だからこれで嫌われても仕方ないような性格の悪い返しだけど、今まで一杯騙されたから許してほしい。そんな願いを込めて見返す。

「驚いたわ、クソが」

 そう悪態をつき泣き笑いを浮かべるコイツに、アタシはしてやったりと笑いながら公衆の面前でキスをかましてやった。

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