真実はどこにあるでしょう?

 わたしの気になる彼は周囲からよくまるで猫みたいだと表現される。それは何か頼まれたときに決まって「気が向いたらやるよ」と返すことだったり、ゲームとかドラマとか流行りに飛びついては誰より詳しく、他は何も目に入らない様子で熱中するのに一番飽きるのも早いことだったりする。それと特にお金持ちではないらしいのに、どこか品があるというかさり気ない仕草がきれいなところも、とても目を惹いた。かといって近寄り難くもなく、一番目立つ存在ではないけど、いないと物足りないと思う、そんな不思議な存在感がある。多分わたしのように、彼が気になっている女の子は学校中にいるだろう。そして彼は多分に漏れず、高い場所が好きだ。今屋上の扉の上の段に腰を下ろし、足を揺らしながら彼は頭を逸らし、青い空を見上げている。寒空に彼の吐き出す息が白く染まってすぐ溶けていった。眠そうに瞳が細くなる。

「なんだか、背中にゆらゆら揺れる尻尾が見えるみたい」

 言い終わってから自分がそう口にしたことに気付いた。思っただけのつもりだったのに。彼は真上を見るのをやめ、ゆっくりと隣に座るわたしに振り返る。隣、といってもこれがもし電車だったら間に三人くらい入れそうな距離が空いている。端と端程遠くない、でも近くもないとても微妙な隙間。——わたしと彼の心の距離も多分こんな感じ。

「それ、よく言われるけどさ、俺的には全然ピンとこないんだよなあ……。まあ例え話自体よく解らないことが多いから、俺の感覚がズレてるんだろう多分」

 言って彼は縁を掴む両手に力を入れて猫が伸びをするときの格好をする。こういうの違和感があるはずなのに、ごく自然に思うのが不思議だ。吊り目がちの瞳は太陽を浴びて宝石みたいに輝く。一拍置いて小声で呟いたけど、よく聞き取れなかった。本当に隣にいたら聞こえていたと思う。残念に思い、聞き返すか迷っていると昼休憩終了を告げるチャイムが鳴り始めた。途端に緩んだ空気が一変して、彼は目を開けて立ち上がり、購買のパンの袋を丸めたものを拾った。——そして、飛び降りて前に立つと言う。

「実は俺、化け猫なんだ……なんてな。ほら早く教室に戻るぞ?」

 おどけるように言った彼が近付いて、手を差し伸べてくる。わたしはドキドキを悟られないようにと祈りながらその手を取って下へと降りた。扉をくぐりながら知る。もし本当に化け猫でもいいと思うくらいわたしは彼が好きなんだと。

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