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短編小説#A

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世界観が共通のもの
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2019年10月の記事一覧

今日も雨が降っている

 ふと意識が浮上する。何か夢を見ていたような気もするし、そうでもないような気もする。ただ近頃はしょっちゅうの冷や汗はかいておらず、自然と安堵の息が零れ落ちた。体温で暖まった布団の中でもぞもぞと身じろぎし、目を閉じて二度寝を試みるも、瞼は重たいし頭はぼんやりするのに、何故か一向に睡魔が訪れる気配は無いまま。無駄にじっと天井を眺めているだけの時間が惜しく思えて、シーツに手をついて緩く上半身を起こした。

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一周回って見えた景色は少し違っていた。

 もしもこの叫び声を文字に起こせって編集者さんに言ったら、絶対死ぬほど困ると思う。なんせ後から聞き直している俺自身が思わずヘッドホンを外したくなるほど、聞くに耐えないレベルだ。それまで静まり返っていたコメント欄に物凄い勢いで「あーあ」の一言が流れていく。でもってガタンとコントローラーを置いた音。視聴者は多分絶句しているように感じるんだろうけど、実際はミュートにしてるだけでしてなかったとしたら「お前

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海で生きた日々を偲ぶ

 両親から与えられた道具を携え、初めて見たその世界はあまりに広大で胸が高鳴った。ぐるりと視線を巡らせども視界いっぱいに水面が続き、それが陽の光を浴びて輝く様はひたすらに美しい。僕はただここに来る権利を手に入れただけであり、数多の人の手によって創造されたこの景色の尊さを、きっと真の意味では理解出来ていやしないだろう。それでもウズウズと今にも飛び込みたがる自らの体をその場で足踏みするに留め、準備に取り

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