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中学時代のこころの棘

小学生の頃、いつも隣には彼が居た。

黄色い帽子をかぶって、集団登校するときも。

それどころか、集合場所に行く前に、かならず彼の家によって、一緒に行った。

クラスも一緒。

帰るのも一緒。

ところが、小学校を卒業する時に、彼の両親が離婚して、

遠くの中学校へ転校していった。

普通に一緒に行くと思っていた中学校に彼の姿は無かった。


でも1年経つと、彼の居ない日常が自分の日常に変わり、普通に部活を楽しむ僕が居た。


中学2年に進級し、下駄箱の前に張り出されたクラス名簿を見て、驚いた。

彼が同じクラスになっていた。

同姓同名かとも思ったが、教室へ行くと、彼は居た。

小学生の頃の快活なイメージからすっかり変わって、近づきにくい表情の彼が居た。

数日後、

「あいつ、前の中学で、夜窓ガラス割って、火をつけたらしい」

などと真偽不明の噂が広まっていた。


ある日の放課後、クラスのやんちゃ坊主数人が集まって、彼の悪口を言っていた。

僕は、黒板を掃除していた。

彼への悪口がピークに達し、大声で笑ったり、替え歌に彼の名前を入れて大声で歌ったりし始めた。

さすがに気分が悪くなり、彼らがいる教室の後ろへ歩んでいったその時、

彼が教室に入ってきた。

明らかに、僕の立ち位置は、悪口雑言を繰り広げるメンバーの一人といった状況。

彼は、メンバー全員をゆっくりと見渡して、

最後に僕の方をじっと見て、

僕の視線が下に下がったのを確認して教室から出ていった。


それから何日経っても、僕は彼に話しかけられなかった。

「注意をしようと思ったんだ」と言っても分かってもらえる気がしなかった。

通学路の長い坂道で彼の姿を良く見かけた。

1年間、同じクラスだったのに。

家もこんなに近いのに。

僕は彼から隠れるように過ごした。


中学3年に進級したとき、彼はまた転校していった。

胸が締め付けられるような痛みと、ほっとする感覚が湧き出てきて、僕を戸惑わせた。



そして、20年以上経ってから、小学校の同窓会に彼が来た。

中学校の時の暗い表情などすっかり消えた彼は、小学生の頃のままだった。

あれほど僕を悩ませていた中学時代のエピソードも、普通に話せた。

「あぁ、あったねぇ〜!ええって、ええって。オレもどう接したらええかわからんかった。」

そこからは、小学生の時に好きだった子の話や、バンドの話。

大人になってからの恋愛や仕事の話。

朝まで話し続けた。

中学2年のあの時、僕がすぐに謝っていたらどうなっていたんだろう。。。

今よりもっと仲良くなれたのか?

それとも逆に、言い訳が言い訳のように聞こえて、一生ギクシャクした関係になったのか?

全くわからないけれど。

僕が関わることが、彼にとって良い人生になる一助となったのか、どうなのか。


明るく笑う彼の笑顔と、真夏なのに長袖の白シャツを着て、それでも隠しきれていない手首まである彼のタトゥーをぼんやり見ながら考えた。