外国企業の中国リスク増大─反制裁法、データ安全法を制定

 中国の習近平政権は反外国制裁法とデータ安全法を制定した。バイデン大統領の就任後も対中強硬姿勢を続ける米国などからの制裁・規制に対抗して、自国の国家安全保障や企業保護を強化するためだが、外国企業が国家間の対立に巻き込まれる形で制裁の対象になる可能性があり、中国ビジネスのリスクがさらに増大したと言える。

■「覇権主義に反撃」

 中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は6月7日から10日にかけて会議を開き、閉幕に当たって反外国制裁法、データ安全法などを可決した。前者は即日、後者は9月1日に施行。公式報道によると、全人代の栗戦書常務委員長(国会議長)は閉幕時の演説で特に反外国制裁法に触れ、「習近平法治思想と習近平外交思想を貫徹し、対外関係の立法を加速する重要な措置だ」と強調した。
 栗氏は「覇権主義と強権政治に反撃するため」反外国制裁法を制定したと説明した。国名は挙げなかったが、覇権主義と強権政治は通常、米国を指す。同法にも「中華人民共和国は覇権主義と強権政治に反対する」と明記されており、米国への対抗が主な目的であることが分かる。
 中国政府はこれまで個別の法律・政令に基づいて対外制裁を実施してきたが、そのための包括的法律が初めて制定されたことで、米国などの制裁に対する報復体制が整った。同法の要旨は以下の通り。
 一、外国が国際法や国際関係の基本準則に違反し、各種の口実で、もしくはその国の法律によって、わが国を封じ込め、圧力をかけ、わが国の市民・組織に差別的規制措置を取り、わが国の内政に干渉することに対して、わが国は相応の報復措置を取る権利を有する。
 一、国務院(内閣)の関係部門は、前記の差別的規制措置を直接もしくは間接的に制定、決定、実施した個人、組織を報復対象リストに入れる決定を下すことができる。
 一、国務院の関係部門は①リストに載った個人の配偶者と直系親族②リストに載った組織の高級管理者もしくは実質的支配者③リストに載った個人が高級管理者を務める組織④リストに載った個人・組織が実質的に支配する、もしくは設立に参加、運営する組織─に対する報復措置も決定することができる。
 一、報復対象には①ビザを発給しない、中国本土への入境を認めない、ビザを取り消す、本土以外へ追放する②本土内の動産、不動産、その他の各種財産を差し押さえる、押収する、凍結する③本土内の組織、個人との関係取引、協力などの活動を禁止もしくは制限する④その他の必要な措置を取る─といった措置を一つまたは幾つか取ることを決定できる。
 一、国は反外国制裁工作協調メカニズムを構築し、関係作業を全体的に計画して協調を図ることに責任を負う。
 一、外国の国家、組織もしくは個人がわが国の主権、安全、発展の利益を損ねる行為を実施、補助、支持することに対して必要な報復措置は、この法律の関連規定を参照して執行する。

■企業も主な報復対象に

 全人代法制工作委の責任者は国営通信社・新華社のインタビューに応じ、反外国制裁法制定の背景について、中国の巨大な発展・進歩という現実を受け入れたがらない「幾つかの西側国家と組織」が新疆・チベット・香港・台湾・海洋・新型コロナウイルスといった問題を利用して、中国を非難し、いわゆる制裁で中国の内政に干渉していると主張した。
 責任者はさらに「特定の西側の大国が経済、科学技術、軍事の実力を用いて、こん棒を振り回し、きょうはこの国を制裁、あすはあの国を制裁というありさまだ」と述べ、その「いじめ行為」を批判した。
 国際社会でこのように行動している「西側の大国」は超大国の米国しかない。共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は6月10日の社説ではっきりと米国を名指しして、その対中制裁が緊迫した情勢を招いたことから、中国側は反外国制裁法を制定したと解説した。
 しかし、総合国力で圧倒的な地位にある米国の政府機関が反外国制裁法による報復を恐れて対中制裁を控えるという事態は考えにくい。一方、日米欧などの外国企業に対しては一定の威嚇効果があると思われる。
 前述のように、同法による報復対象は非常に広く、官民を問わない。また、本土内の財産や取引に対する措置を報復手段としていることから、外国政府機関だけでなく、外国企業も主な報復対象になると想定している可能性が高い。
 例えば、米国の対中制裁に対し、中国側が反外国制裁法に基づいて米政府機関への報復措置を取った場合、それに同調した米国などの外国企業も報復対象になる。米政府は痛くもかゆくないが、企業は対中ビジネスにマイナスの影響が生じる。中国市場への依存度が大きい企業にとっては死活問題だ。

■データも国家安保問題

 もう一つのデータ安全法は一見、経済法規のように見えるが、実際には「データの安全を守るには総体的国家安全観を堅持しなくてならない」と強調しており、反外国制裁法と同じ国家安全保障関係の法規である。
 データ安全法によると、国家のデータ安全工作に責任を負うのは「中央国家安全指導機構」。習近平国家主席(党総書記)が率いる党中央国家安全委を指すとみられる。その指導下で公安機関と国家安全機関、国家インターネット情報部門が監督・管理を担う。
 同法の要点は以下の通り。
 一、中華人民共和国の本土以外でデータ処理活動を行い(それによって)国家の安全、公共の利益もしくは市民、組織の合法的権益を損なう行為も、法的責任を追及する。
 一、国はデータ安全審査制度を設け、国家の安全に影響する、または影響する可能性があるデータ処理活動に対して国家安全審査を実施する。
 一、いかなる国家もしくは地区であっても、データやデータ開発利用技術に関係する投資、取引などで中華人民共和国に対し、差別的禁止、制限あるいはその他の類似措置を取れば、中華人民共和国は実際の状況に基づいて対等な形で措置を取ることができる。
 この「措置」の対象は明記されていないが、反外国制裁法などの規定から、外国政府機関だけでなく、それに従った外国企業も含まれると推定できる。(2021年6月15日)


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