台湾野党の国民党議員に異例の批判─「隠れ独立派」と政協機関紙

 中国の公式メディアが台湾の最大野党・国民党の立法委員(国会議員)を「隠れ独立派」と非難したことが、台湾側の反発を招いている。反中的な民進党政権と対立する国民党の政治家を中国側が名指しで攻撃するのは異例。台湾独立(台独)に反対する国民党内にすら中国離れの傾向が目立っていることに対し、習近平政権はいら立ちを募らせているようだ。

■「米日など国際反中勢力と結託」

 中国人民政治協商会議(政協)の機関紙・人民政協報は2月12日、中国本土と台湾の統一問題について「統一促進は必ず同時に島内の二つの勢力と闘争を展開しなければならない」と題する同紙記者の論文を掲載した。ここで言う「島」は台湾を指す。
 政協は議会形式の政治諮問機関だが、本質的には共産党以外の政党・団体などを取り込む工作を担う同党指導下の統一戦線組織で、台湾は工作の主要対象。同紙は党の統一戦線政策を伝える新聞なので、この論文は中国側の台湾政治に対する最新の見解として注目された。論文の要旨は以下の通り。
 一、独立に反対し、統一を促すことは現在、大陸(本土)の対台湾工作の主要任務だ。そのためには、団結できる力を全て団結するが、その対象は祖国統一を支持する台湾同胞でなければならない。
 一、祖国を破壊し、分裂させようとする者は、島内で二つの勢力があるとされる。一つは、「台湾独立」を最終目標とする民進党内の反動派で、「明独」(明白な独立派)といわれる。もう一つは、表面上「一つの中国」の旗を掲げながら、実質的には米国、日本などの国際反中勢力と結託し、「反共」と称して実際には「反中」である国民党内の少数の頑固派だ。彼らは民進党内反動派と手を結んで(台湾海峡)両岸の平和を脅かし、両岸交流を破壊して、「暗独」(隠れ独立派)と呼ばれている。この明暗二つの勢力に対しては、必ず断固たる闘争を行わねばならない。
 一、大陸から見て、「明独」は識別しやすいが、「暗独」は分かりにくい。両岸関係を破壊するという点では「暗独」の破壊力が「明独」よりも大きい。
 一、国民党陣営が全て良いわけではなく、民進党陣営が全て悪いわけでもない。国民党陣営には、林為洲、陳以信(いずれも立法委員)のように公然と国際反中勢力と結託して、こそこそと民進党と合流し、李登輝(元総統)の「二国論」路線を継承する者が存在する。民進党陣営には、「台独」を支持しない中間派も多く、これらの人々は取り込んでもよい。
 論文は特に陳氏について、最近訪米した際に台湾当局駐米代表の段取りで米連邦議会の対中強硬派議員に会ったことも批判した。
 陳氏は49歳と比較的若いが、馬英九前総統の報道官を経験。林氏は60歳で、かつては民進党の立法委員だった。
 国民党全体に関して、論文は「民族の大義を背負っていた連戦(元副総統)らが党権力の中心を離れてから、国家と民族の大義に関して方向を見失っている」と懸念を表明。その一方で、民族の大義を重んじる政党として引き続き団結の対象とするよう呼び掛けるなど、評価がややあいまいだ。

■「中華民国支持は反中ではない」

 台湾の中央通信社電によると、陳氏は15日、人民政協報からの批判について「わたしは中華民国を最も支持している。中華民国支持は絶対に反中ではない。わたしが最も反対しているのは台独だ」と強調。対米関係と対中関係のバランスを取ることが台湾海峡の平和と安定につながるのであり、中国側はこれを「反中」と見なしてはならないと主張した。
 林氏も「中華民国は主権独立国家だ。もし中華民国と称することも台独であるならば、台湾の大部分の人は台独ということになる」と反論した。
 国民党の朱立倫主席は16日、問題の論文に対して遺憾の意を表明し、「全く同意することはできない」とコメント。「国民党の核心的使命は中華民国の主権と憲政体系を守ることだ」と述べた。
 中国本土で結成された国民党の正式名称は今も「中国国民党」。民進党と違って、党名に国名が入っている。この「中国」は中華民国を指すので、国民党員が中華民国のために尽くすのは当然のことである。
 一方、蔡英文政権の蘇貞昌行政院長(首相)は15日、「非常に不当だ」と論文を強く批判。「中国は台湾をのみ込もうとして、あれこれ口を出し、でたらめな批判をする」とした上で、国民党に対し、中国に迎合しないよう促した。
 この問題は台湾側の反響が大きかったため、中国国務院(内閣)台湾事務弁公室の報道官が23日開いた定例記者会見でも取り上げられた。報道官は、習近平氏が昨年9月、国民党主席に当選した朱氏に共産党総書記として送ったメッセージで、「台独反対」が国共共通の政治的基礎であると強調した事実を指摘したが、国民党の現状に対しては論評せず、「島内の責任ある政党」が中国側と共に台独に反対するよう望むと語った。台湾のどの政党が「責任ある政党」なのかは説明しなかった。
 先の北京冬季五輪を機に訪中した台湾政界要人は、極めて親中的な洪秀柱元国民党主席と親中派の小政党である新党の呉成典主席だけ。民進党はもちろん、国民党の現首脳も北京に行かなかった。
 国民党は2020年1月の総統選で大敗した後、対中融和路線の見直しを一時検討したり、立法院(国会)に対米国交回復を求める決議案を提出したりと政治的に迷走し、党勢がいまだに振るわない。人民政協報の論文は中国離れの動きに対するけん制とみられるが、圧力をかけ過ぎれば、かえって国民党内の反中感情を高めて、同党親中派の足を引っ張ることになりかねない。
 中国共産党にとって、真の敵は「一つの中国」を否定して「台湾共和国」の建国を目指す勢力。「中華民国」を擁護する勢力は「一つの中国」支持派なので、本来は味方と見なすべき存在だ。中華人民共和国による台湾併合を受け入れないことを理由にそのような勢力まで敵に回せば、中国の国家統一政策は完全に行き詰まるだろう。(2022年2月28日)

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