「戦狼外交」見直し促す?─前駐米大使らが冷静な対応提言

 中国の外務省OBや識者から、冷静で柔軟な外交姿勢を求める提言が相次いでいる。いずれも、強硬姿勢を誇示する習近平国家主席の「戦狼外交」見直しを促すかのような内容で、このような意見が実際に対外政策に反映されていくかどうかが注目される。

■「人格面でも勝利を」

 外務次官や駐日大使、駐米大使を歴任した崔天凱氏は昨年12月20日、中国国際問題研究院などが北京で開いた外交シンポジウムで「中米関係に関する幾つかの考え」と題する講演を行った。
 崔氏は約8年も駐米大使を務め、昨年6月に退任。現役時代は、近年増えた居丈高な戦狼外交官とは異なる冷静沈着な言動で知られた。引退後の動静がはっきりしなかったこともあって、「米国に亡命したのではないか」といううわさが流れたが、今回のシンポ出席で帰国していたことが確認された。
 同研究院が公表した講演録によると、崔氏は米国について「社会制度、イデオロギー、文化的伝統、人種が全て異なる大国の台頭を心から願って受け入れることはあり得ない」とした上で、必ず中国に対して圧力、封じ込め、包囲といった行動に出てくると指摘。ただ、同時に、自国の主権、安全、発展の利益を守る闘争においては「原則として、準備のない戦い、見込みのない戦い、やけになった戦い、消耗する戦いをしてはならない」と強調した。
 崔氏はさらに、外交の相手には「極端に利己的で、良識のない者」もいるが、自分たちには共産党に属する人間として理想や信念があり、「実際の闘争で彼らに勝つだけでなく、人格の面でも彼らを打ち破らねばならない」と述べ、粗野な言動を避けるよう戒めた。
 講演では、外交政策に関する習氏の過去の発言や習氏を称賛した先の歴史決議にも触れて、政治的配慮を見せているものの、その趣旨は、外務省スポークスマンの趙立堅氏らのような習氏好みの好戦的スタンスとは対照的だ。

■対外政策で「戦線縮小」主張

 清華大学の戦略・安全保障研究センター主任で国際関係学部教授の達巍氏も1月1日に有力ニュースサイト澎湃新聞が伝えたインタビューで、対米関係を早期に安定させるべきだと主張して、以下のように語った。
 達氏はかつて国家安全省系の研究機関や外務省と関係が深い大学に勤務したことがあり、今も主要大学の外交・安保専門家として政権ブレーンの役割を担っているとみられる。
 一、新型コロナウイルスの感染が広がり始めてから、中国の学界では(1)コロナ禍は国家間の力関係を変化させて、中国の国力は増大し、米国など西側強国の力は低下した(2)コロナ禍で世界は分裂が進み、それが中米関係の「対抗」といった形で表れた─という見方が主流になった。しかし、コロナ禍が3年目に入った今、そのような見方を修正する必要があるかどうか考えてみる価値はある。
 一、コロナ禍が続けば、人類が協力し合う契機になるのではないか。コロナ禍が政治化され、米国のトランプ前政権が(発生源として中国を非難するなど)異常な行動を取ったため、コロナ対策で中米など各国間の協力がうまく進まなかったが、変異株が次々と出現したことから、新型コロナは全人類の課題であるとの認識が広まった。
 一、われわれは、開放的かつ寛容、安定的な国際秩序の維持に努める必要がある。このような秩序が変わらなければ、中国は平和的発展・台頭を実現できる。そのためには、他の大国との関係が激しい対抗、さらには軍事的衝突に至るという事態は避けなくてはならない。また、現存する経済面の国際分業・協力は国際秩序の核心であり、そこから外れてはならない。
 一、バイデン米政権の対中政策は(中国のライバル視という)トランプ前政権の主な「遺産」を継承した。ただ、対中政策をトランプ前政権後期の対抗から競争に変えようとしている点は異なる。
 一、(米国の盟友である国々との関係について)一部の国を除いて、大多数の国は中米のどちらにつくかを選びたくない。これらの「中間国家」もしくは米国の盟友をどうするか。できるだけ友人を増やし、ライバルを減らして(対外的な)戦線を縮小することだ。「鶏を殺して猿に見せる」という考えをしてはならない。国際関係の駆け引きでは、実際に鶏を殺す(国を滅ぼす)ことは難しいので、見せしめにすることができないだけでなく、鶏は猿の方へ行ってしまう。つまり、中米間の矛盾から本来利害関係があまりない第三者に当たり散らすのは、多くの状況下で賢明ではない。
 戦線縮小論は明らかに、世界中で敵を増やしている戦狼外交に対するアンチテーゼだ。鶏と猿の比喩は、新型コロナの起源問題を提起したオーストラリアなどに対する習政権の過度な強硬姿勢に苦言を呈したものだろう。

■日米中安保対話を提案

 北京大学国際戦略研究院の張沱生理事が昨年12月29日発表した論文「危機管理強化が中米、中日安全保障関係の最重要任務である」も、「米国=大国、日本=非大国」という習路線にとらわれずに米中関係と日中関係を並列させて論じ、日米との対話促進を訴えた点が目新しい。
 張氏は、米中間および日中間の危機管理に力を入れなければ、軍事的な危機や衝突を引き起こす恐れがあると警告。日中は二国間だけでなく、日米中3カ国の安保対話実現を共に目指すことを検討すべきだと主張した。
 張氏は人民解放軍出身。軍事学院教官や国防大学戦略研究所研究員を歴任し、英国駐在武官の経験もある。
 一方、12月16日には、対外強硬派のジャーナリストとして戦狼外交を絶賛してきた党機関紙・人民日報系の有力紙・環球時報編集長、胡錫進氏(61)が退任を発表した。胡氏は60歳の定年を過ぎてからも「引退する気はない」と公言していたので、意外な発表だった。
 胡氏が中国の記者としては珍しく、長年にわたって個人的見解を自由に公表できたのは、政権上層部に後ろ盾があったからだと思われる。しかし、対外挑発的な発言で国際的に有名になった胡氏をいつまでも要職に就けておくことに対し、政権内部で異論が出たことから、事実上解任された可能性がある。(2022年1月31日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?