習政権、民営企業支持を強調─左傾懸念の声高まり政策調整か

 中国共産党・政府の高官らが相次いで民営企業の発展を強く支持する姿勢を示した。市場の独占禁止などを口実とする企業に対する各種の規制強化や「共同富裕」キャンペーンで左傾化の行き過ぎを懸念する声が高まったことから、アンチビジネス的な習近平国家主席(共産党総書記)の考えに基づく政策の調整を図っている可能性がある。

■「金持ち殺し」否定

 中国指導部の夏休みが明けたばかりの8月17日、習氏をトップとする党中央財経委員会が「共同富裕」追求に力を入れる方針を打ち出し、同26日に党中央宣伝部が公表した「中国共産党の歴史的使命と行動価値」と題する文書でも共同富裕の重要性が繰り返し指摘された。この文書に関する同日の記者会見で中央財経委弁公室の韓文秀副主任(事務局次長)は次のように語った。
 一、われわれは既に小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的建設を達成した。分配の格差を一歩一歩縮め、断固として両極分化を防ぐ必要がある。
 一、勤労で豊かになる、革新で豊かになることを奨励し、一部の人が先に豊かになることを認める。先に豊かになった人は後から豊かになる人を率い、助ける。「殺富済貧」(金持ちを殺して、貧者を救済する)はやらない。
 一、収入が中ぐらいのレベルの国から高いレベルの国になり、共同富裕を実現するのは一つの動態の中で前へ向かう発展の過程であり、一足飛びというわけにはいかないし、皆が一斉に同じように進むこともできない。
 一、(電子商取引などの)インターネットプラットフォーム企業には国有企業、民営企業もあれば、外資企業もある。混合所有制企業も多い。ネットプラットフォームの整頓・規範化政策は一視同仁だ。対象は法律・規定に違反する行為であり、絶対に民営企業や外資企業ではない。この点は非常に明確である。
 一、公有制経済(国有企業など)と非公有制企業(民営企業など)はいずれも社会主義市場経済の重要な構成要素だ。民営企業と民営企業家は身内であり、身内には深く愛すると同時に厳しく接する。その目的は、非公有制経済の健全な発展と非公有制経済人(民営企業家など)の健全な成長をより促進することである。
 党中央と国務院(内閣)は6月10日、浙江省を「共同富裕モデル区」とする政策文書(5月20日付)を発表しており、8月後半の中央財経委会議などで共同富裕キャンペーンを強化することは同月前半の夏休み前から決まっていたとみられる。
 しかし、韓副主任が強調した民営企業重視の文言は中央財経委会議の公式報道にも「中国共産党の歴史的使命と行動価値」にもなく、記者会見で急きょ補足した形だ。当局者が公の場で「殺富済貧」のような極左的熟語を使うのも異例で、左傾化に対する富裕層などの懸念を打ち消したいという意向が強く表れている。

■習氏側近が異例の力説

 9月6日には習氏の経済ブレーンとして知られる劉鶴副首相(中央財経委弁公室主任=事務局長)が石家荘(河北省)で開かれた中国国際デジタル経済博覧会にオンライン方式で参加し、あいさつの中で民営企業に言及。「必ず民営企業の発展を全力で支持しなけれならない」「民営企業の発展を支持する方針は変わらなかったし、今変わることもなく、将来も変わらない」と述べた。中国高官が民営企業の重要性をこれほど力説するは、最近では珍しい。
 劉氏は、税収の5割以上、国内総生産(GDP)の6割以上、技術革新の7割以上、都市部の雇用の8割以上、企業数の9割以上とされる民営企業の貢献度にも触れた。「56789」は市場重視派がよく引用する言い方である。
 また、市場重視派の李克強首相は同8日、国務院常務会議を開き、北京、上海、重慶、杭州(浙江省)、広州(広東省)、深圳(同)の6都市を営業環境革新試験地区とすることを決定した。
 具体的には、地方当局が不当な手段で地元企業を保護したり、物資調達で他の地区の企業を事実上排除したりすることを禁じるなどして、開放的な市場の整備を進めるという。国有企業は地元の党・政府機関と一体なので、事実上は民営企業への支援を強化する政策と言える。

■人民日報、左派色薄く

 8日付の党機関紙・人民日報は企業に対する監督・管理と発展促進を同様に重視すべきだと主張する評論員論文を1面に掲げた。要旨は以下の通り。
 一、プラットフォーム経済や教育・研修など多くの分野で関係部門が次々と監督・管理措置を打ち出したが、これは公平な競争ができる市場環境の形成を促進し、消費者の権益を保護するための実務的行動であり、社会主義市場経済体制を整備するための有力な措置である。
 一、第18回党大会(2017年)以後、党中央は市場監督・管理体制の改革を行い、独占禁止の監督・管理を強化。一部のプラットフォーム企業の野蛮な成長、無秩序な拡大といった突出した問題に対して、関係部門は法律によって独占や不当競争行為を取り締まった。資本の無秩序な拡大防止は早くも効果を上げ、市場の公平な競争秩序は着実に好転している。
 一、党中央は第18回大会以後、民営企業の発展を助ける一連の改革措置を取り、民営企業の活力をさらに増強した。
 一、非公有制経済のわが国経済・社会発展における地位と役割は変わっていない!いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励、支持し、導く方針・政策は変わっていない!非公有制経済発展のため良好な環境をつくり、さらに多くのチャンスを提供することに力を入れる方針・政策は変わっていない!
 一、民営企業や外国投資企業が発展できる法治環境を整備する。監督・管理政策は一視同仁で、対象は法律・規定に違反する行為であり、絶対に特定の業界もしくは企業ではない。
 一、わが国の長期的経済政策方針は変わっていない。より成熟した社会主義市場経済体制を発展させて、市場の資源配置における決定的役割を十分発揮させる。
 左派色が薄く、市場重視派の考えを全面的に打ち出した内容だ。この論文や一連の高官発言が同じ趣旨であることから、党中央レベルで習氏主導の左傾化路線を修正する何らかの決定があった可能性が大きい。(2021年9月16日)


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