習主席「国有企業が重責担え」─新5カ年計画の自立自強路線

 中国の習近平国家主席(共産党総書記)が今年スタートした経済・社会発展の第14次5カ年計画で重点とされている科学技術の「自立自強」について、これまで経済成長をけん引してきた民営企業ではなく、国有企業が重責を担うよう指示していたことが分かった。外部環境に左右されにくい国内大循環主体路線を進めるため、党・政府の管理下にある国有企業の役割をより重視する考えとみられる。

■きっかけはコロナの衝撃

 党理論誌の求是(電子版)は4月30日、習氏が1月11日に幹部養成機関の中央党校で行った演説を詳報した。演説を聴いたのは、第19期党中央委員会第5回総会(5中総会)の精神を学ぶ研修班の始業式に参加した閣僚級幹部たち。始業式と言っても、党最高指導部を構成する習氏ら政治局常務委員7人全員と常務委員級の王岐山国家副主席が出席する格の高い行事だった。
 習氏は昨年10月の5中総会で決まった第14次5カ年計画の基本方針について、「国内大循環を主体として、国内・国際の双循環が相互に促進し合う新たな発展パターンの構築を加速する」という政策は「わが国発展の全局に関係する重大な戦略的任務」だとした上で、次のように語った。
 一、近年、経済グローバル化に逆流が生じ、新型コロナウイルスの感染拡大がその傾向に拍車をかけた。わたしは(昨春)浙江省を視察した時、コロナの衝撃で世界の産業チェーンと供給チェーンが部分的に断ち切られ、わが国の国内経済循環に直接影響を与えていることに気づいた。新情勢に応じて、発展を導く新しい考えを必ず提起せねばならないと感じた。そして、昨年4月に新たな発展パターンの構築を加速する必要があると提起した。
 一、わが国は人口が多く、市場規模が極めて大きい社会主義国家であり、現代化にまい進する歴史の過程で必然的に他国が経験したことがない各種の圧力や厳しい挑戦を受ける。
 一、毛沢東同志は(革命時代の)1936年に「軍事指導者にまず必要なのは、独立して独自に自分の力を組織し使うことだ」と述べた。われわれは自らの足でしっかり立ち、国内大循環をスムーズにして、いかなる毒にも侵されず頑丈で決して壊れない体をつくり上げてこそ、誰もわれわれを打倒することができなくなる。新たな発展パターンの構築加速はすなわち、さまざま暴風暴雨の中でわれわれの生存力、競争力、発展力、持続力を増強し、中華民族の偉大な復興プロセスの遅延や中断がないようにすることなのだ。
 習氏が触れた36年は日中戦争の直前で、共産党は政権を握る国民党と比べて勢力が大きく劣り、苦境にあった。この発言から習氏の現状認識がいかに厳しいかが分かるが、習氏は同時に「(コロナ対応で)各国の指導力と制度の優越性はどうなのか、優劣を判断するのは容易だ」「時と勢いはわれわれの方にある」と自信も示している。

■民営企業への言及なし

 習氏は「新たな発展パターン構築の最も本質的特徴はハイレベルの自立自強である」と説明し、労働コスト上昇や資源・環境問題で中国経済の発展環境が変化した今、「科学技術の重要性は全面的に増大した」「われわれは必ず独自のイノベーションをより強調すべきだ」と指摘した。
 さらに「中央企業などの国有企業は勇気を持って重責を担い、あえて先陣を切って、オリジナル技術の『発祥地』にならなくてはならない」と国有企業に対して大きな期待を表明した。
 中央企業とは中央政府が管理する国有企業。中国移動通信集団や第一汽車集団(自動車)、宝武鋼鉄集団といった巨大企業を指す。
 国有企業よりも市場経済に適合し、イノベーション能力が高い民営企業への言及はなかった。「市場が資源配置の中で決定的役割を果たす」などと市場の重要性に触れておきながら、民営企業を無視するのは奇妙だが、左派(保守派)の習氏にとって、社会主義市場経済の主役は党・政府指導部の支配下にある主要国有企業であり、民営企業はあくまでも脇役なのであろう。
 なお、「新たな発展」に関連して、習氏は以下のような「認識の誤り」を列挙し、関係者に注意を促した。
 一、「国内大循環主体」だけを強調して、対外開放を大幅に縮小するよう主張する。
 一、「国内・国際の双循環」だけを強調して、原材料と市場を海外に依存し過ぎる古い考え方を固守する。
 一、全国統一市場の整備に関心を持たず、地元の小市場のことだけを考える。
 一、何でも自分でやろうとして客観的現実をかえりみず、プロジェクトを行き詰まらせる。
 一、無計画に投資を拡大し、消費を過度に刺激して、さらには資源・環境問題にマイナスとなるプロジェクトを大々的に進める。
 習氏の注意喚起は正論ではあるものの、市場経済化と民営企業の役割拡大なしにこれらの誤りを回避できるのかどうかには不安が残る。

■特区にも習派人脈

 前回紹介した国有企業出身の「70後」(1970年代生まれ)次官級高官の一人、覃偉中広東省副省長(副知事に相当。71年生まれ)は4月24日、同省の深圳市長代理に選出され、中国の代表的な経済特区の行政トップとなった。
 覃氏は中国石油天然ガス集団の元副総経理(副社長)。北京の名門大学である清華大で化学を学んだが、その時の教官が現党中央組織部長の陳希氏だった。組織部長は人事を担当する要職で、陳氏は習派の大幹部である。
 また、5月8日には、国有企業の福建省旅游(観光)発展集団で副総経理や総経理を歴任した雲南省の劉洪建副省長(73年生まれ)を同省党委の常務委員とする人事が発表された。劉氏は省党委の指導部に入り、全国で最も若い省レベル地方党委の常務委員となった。
 中国では官僚の主な出世コースは中央ではなく、地方だ。若いうちに地方の次官級ポスト、特にその中でも格が高い省レベル党委の常務委員になれば、閣僚級以上に昇進できる可能性が非常に高くなる。
 習氏(53年生まれ)も93年に福建省党委の常務委員に昇格して、その6年後には閣僚級の省長(知事に相当)代理に選出。40代のこのような出世が後の政治局常務委入り、総書記就任につながった。(2021年6月3日)

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