多数の習派幹部が政治局入りへ─秋の党大会人事で優勢維持

 秋の第20回中国共産党大会で決まる次期指導部人事で、政権主流の習近平国家主席派から多くの幹部が新たに政治局入りする見通しだ。25人の現政治局で約半分を占める習派の一部は退任するが、新人がそれを補って優勢を保つとみられる。

■地方トップからの昇格が最多

香港の有力紙・明報は8月11日の論評で新政治局員の人選を予想した。それによると、過去に政治局入りした幹部(軍人を除く)は主に①地方指導者②上級閣僚の国務委員など副国家級指導者③党中央の部長や閣僚。1987年の第13回党大会以後の人事を分析した結果、平均で①は6.28人、②は1.85人、③は2.57人が党大会で政治局員に昇進してきた。
 ①は省・直轄市・自治区のトップ(党委員会書記)。習氏ら現政治局常務委員7人も、政治学者出身でイデオロギーを担当してきた王滬寧氏以外の全員がこのポストを経験している。
 明報の論評は新政治局員の候補者として、以下の幹部を挙げた。
 ①馬興瑞(新疆ウイグル自治区党委書記)、王蒙徽(湖北省党委書記)、張国清(遼寧省党委書記)、キョウ(龍の下に共)正(上海市長)、王暁暉(四川省党委書記)、李干傑(山東省党委書記)、倪岳峰(河北省党委書記)
 ②李書磊(党中央宣伝部常務副部長)、王小洪(公安相)、江金権(党中央政策研究室主任)
 ③何立峰(国家発展改革委主任・人民政治協商会議=政協=副主席)、肖捷(国務院秘書長・国務委員)、沈躍躍(全国人民代表大会=全人代=常務副委員長)

■公安相の処遇が焦点

人数はやはり①が多いが、習派にとって今回重要なのは②だろう。
 中央宣伝部の李副部長は14歳で北京大に入学して図書館学を学び、「神童」と呼ばれた。各分野の幹部を養成する中央党校勤務が長く、習氏が党中央書記局筆頭書記・国家副主席と同校長を兼ねていた時期に副校長として仕えて、高い評価を得たといわれる。中央宣伝部長・政治局員に昇格する可能性が大きい。
 王公安相は習氏の福建人脈に連なり、治安部門で習氏が最も信頼する側近。過去1年で公安次官として公安省党委書記を兼任、公安相に就任と異例のスピードで昇進した。このため、警察・検察など治安部門全体を統括する党中央政法委書記・政治局員に抜てきされるかどうかが注目されている。既に中央政法委の副書記を兼任している。
 明報は挙げなかったが、党中枢の事務を取り仕切る中央弁公庁の孟祥鋒筆頭副主任もいる。孟氏は党中央規律検査委出身。過去に習氏と特別な接点がないが、習氏の盟友といわれる全人代の栗戦書常務委員長(政治局常務委員)が中央弁公庁主任だった時期に同副主任を務め、別のポストを経て、2020年に筆頭副主任となった。習政権下で党中央官僚として重用されており、政治局か中央書記局、もしくはその両方に入ってもおかしくない。
 中央政策研究室の江主任は、長く同主任を務めた王滬寧政治局常務委員に引き上げられた。ただ、歴代の同主任で政治局入りしたのは王氏だけで、例外的な人事だった。王氏が江沢民元国家主席派の有力幹部だったからである。

■発展改革委主任「当確」

③では、国家発展改革委の何主任が「当確」だろう。国務委員ではないが、政協副主席を兼ねているので、その地位は既に普通の閣僚より上の副国家級。習氏の福建人脈に属し、地方視察に同行することが多い。習氏の経済ブレーンで副首相・政治局員と党中央財経委の弁公室主任(事務局長)を兼務する劉鶴氏の後任になると思われる。
 一方、官房長官に当たる国務院の肖秘書長は財政省出身で、李克強首相の腹心。今春、上海市の極端なロックダウン(都市封鎖)が市民の反発を買って、同市党委の李強書記(政治局員)の更迭説が流れた時、後任に起用されるといううわさが広まった。李首相と同じ共産主義青年団(共青団)出身で前国務院秘書長だった楊晶氏は習派主導の反腐敗闘争で失脚に追い込まれており、肖氏も今回昇進できなければ、李首相は政治力の弱さを露呈することになる。
 全人代の沈副委員長は共青団出身の女性幹部。浙江省出身で、習派の浙江人脈「之江新軍」の一部とかつて同省党委で共に働いたことがある。現政治局員で唯一の女性である孫春蘭副首相は高齢のため引退確実。沈氏はその代わりに政治局入りする可能性がある。
 最高人民法院の周強院長(最高裁長官に相当)も副国家級であり、候補者の中に入れておくべきだろう。胡錦濤前国家主席や李首相と同じく共青団トップ経験者。ただ、習政権では団出身者が冷遇されるケースが多く、微妙なところだ。
 そのほか、党中央外事工作委の弁公室主任で政治局員の楊潔チ(竹カンムリに褫のつくり)も引退する見通しで、王毅外相(国務委員)が後を継ぐのが順当な人事。しかし、10月に69歳と新政治局員としては年齢がかなり高いのがネックだ。

■女性は貴州省書記か

明報が列挙した①の候補者は数が多いものの、この1、2年でようやく地方トップになった幹部が多く、実際に政治局員になる可能性が大きいのは上海市のキョウ市長と新疆自治区の馬書記ぐらいだ。
 上海市長が市党委書記に昇格したケースは多く、同書記は政治局員ポスト。キョウ市長は税関総署出身だが、浙江省の党委・政府指導部で7年働いたことがあり、「之江新軍」の準メンバーと言ってよい。
 新疆の書記も過去20年、政治局員が務めている。馬書記はハルビン工業大の副学長や国家宇宙局長を歴任した技術系のテクノクラート。汪洋政協主席(政治局常務委員)、胡春華副首相(政治局員)と共青団出身者2人が続けて党委書記を務めた広東省に工業・情報化次官から引っ張られ、頭角を現した。汪主席は馬書記の新疆赴任後、現地を視察して新政策を後押ししており、馬書記は共青団派有力者との関係が深いとみられる。
 明報が挙げた幹部以外にも、北京市の陳吉寧市長、黒竜江省党委の許勤書記、湖南省党委の張慶偉書記、貴州省党委の諶貽琴(しん・いきん)書記といった候補者がいる。
 陳市長は習氏の清華大学人脈に属し、北京市党委書記に昇格する可能性がある。許書記は発展改革委出身で、広東省党委書記時代の汪主席に抜てきされた。習氏肝煎りの雄安新区を擁する河北省の省長も務めており、習氏にも行政手腕を認められていると思われる。
旧航空宇宙工業省出身の張書記は60歳だが、第16期(2002~07年)から党中央委員を務め、習氏と同期。中央委員としての先輩は李首相ぐらいしかいない。キャリアは完璧だが、派閥色が薄いことから、なかなか上に進めないのかもしれない。
 諶書記は現在、地方トップで唯一の女性(少数民族のペー族)。貴州省の党委書記・省長だった習派の陳敏爾重慶市党委書記や全人代の栗委員長を要職で支えた経歴が目立ち、この点で前出の沈副委員長より有望だ。ただ、女性の政治局員は1人だけと決まっているわけではなく、諶氏が副首相、沈氏が全人代の筆頭副委員長として、いずれも政治局入りする可能性はある。(2022年8月29日)

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