米の経済覇権志向?IPEFを警戒─王外相「インド太平洋戦略は必ず失敗」

 米国主導で発足した「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に対し、中国の習近平政権が警戒心をあらわにしている。米国が経済覇権を維持、拡大する手段になるのではないかと疑っているためで、王毅外相はIPEFの土台となったバイデン大統領のインド太平洋戦略について、必然的に失敗すると断言した。

■「NATO化」懸念

バイデン氏がIPEF発足式典や日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」首脳会議などのため東京入りした5月22日、王氏は広州(広東省)でパキスタンのブット外相と会談し、共同記者会見を行った。中国に対抗する日米豪印の動きに合わせて、中国の友好国でインドと対立するパキスタンの外相を招いたとみられる。
 中国外務省の発表によると、王氏はIPEFについて次のように語り、強い懸念を示した。
 一、地域協力を強化するイニシアチブは好ましいが、分裂・対抗のたくらみには反対する。米国(主導)のIPEFはどの類いなのか。評価の基準は、三つのやらなければならないことと三つのやってはならないことだと考える。
 一、まず自由貿易を推進しなければならず、形を変えた保護主義をやってはならない。しかし、米国は大々的に保護主義をやっており、自分が提唱した環太平洋連携協定(TPP)から離脱して、自由貿易と対立する方に行ってしまった。
 一、次に、世界経済の復興に寄与しなければならず、産業チェーンの安定を破壊してはならない。米国は結局、世界経済復興を加速したいのか、それとも、人為的な経済デカップリング(切り離し)、技術封鎖、産業チェーン遮断でサプライチェーンの危機を激化させたいのか。
 一、3番目は、開放・協力を促進しなければならず、地政学的対抗をつくり出してはならないということだ。もしIPEFが米国の地域経済覇権を維持する政治的道具になり、特定の国をわざと排除するのであれば、その道は曲がってしまうだろう。米国は経済問題を政治化、武器化、イデオロギー化して、地域の国々に中米のどちらに付くか選ぶよう脅迫するのか。アジア太平洋を陣営化、NATO(北大西洋条約機構)化、冷戦化しようとする各種の陰謀が目的を達成することはあり得ない。

■「中国包囲が目的」と主張

王氏は米国のインド太平洋戦略自体にも言及。中国の包囲・封鎖を目的とするもので、その本質は「分裂をつくり出す戦略、対抗を扇動する戦略、平和を破壊する戦略」であるとして、「最終的には必然的に失敗する戦略だ」と決めつけた。さらに、米国の特に危険な行動として、「台湾カード」と「南海(南シナ海)カード」を挙げた。
 インド太平洋戦略に対する関係各国の反応については「ますます警戒し、憂慮している」との見方を示し、「アジア太平洋の人民は、覇権主導の衝突・対抗がまだ記憶に新しく、今は国家の安定と生活の幸福を追求している」と主張した。多くの人は、米国が過去にこの地域で覇権国として武力を行使したことを覚えているので、中国と対抗する米国の動きに本音では追随したくないはずだと言いたいようだ。
 王氏の側近といわれる呉江浩外務次官補も5月21日、中国メディアとのインタビューで米国のアジア太平洋における最近の動向をどう見るかと問われ、「緊張をつくり出し、対抗を扇動している。その主な目的は、地域の安定を破壊し(米国の)1極・単独覇権を維持することだ」と答えた。
 中国メディアもIPEFに関連して対米批判を展開している。共産党機関紙・人民日報(海外版)の「微信」(中国版LINE)アカウント「侠客島」は同23日、「米国が打ち出したIPEFは対中の最新ミニギャング」と題する記事で、第2次世界大戦直後のマーシャル・プランなどを例に挙げ、経済で覇権戦略を支えるのは米国の常とう手段なのだと解説。今回のIPEFは「デジタル覇権」の維持も目的にしていると指摘した。
 有力ニュースサイトの観察者網は同日、上海国際問題研究院中国・南アジア研究センターの劉宗義秘書長のIPEFに関する論評を掲載。劉氏は「米国はアジアの国により多くの市場参入の便宜を図らないで、アジアで勢いよく発展する経済一体化プロセスを破壊しようとしている」と主張した。
 中国が自国に関わる米国の対外政策を批判するのは珍しくないが、インド太平洋戦略とIPEFに対しては、その実効性がどれほどなのかまだはっきりしていないのにもかかわらず、非難が特に激しい。米国主導の対中包囲網やデカップリングの進展に対して危機感を強めていることの表れとみられる。(2022年5月30日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?