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石川県人のソウルフード。

『ランダムに選んだ過去の写真からインスピレーションを受けた小咄、コラム、戯言などを書き留める写真で二言三言。』

金沢時代はこれまでの人生で一番食に恵まれた2年間であった。
なにより北陸ならではの魚の旨さに改めて感心させられたモノである。
魚だけかというとそういうワケでもなく、能登牛をはじめとした肉料理も安くて絶品のモノが多く、妻が許してくれるならばまた改めて金沢に引っ越したいくらいである。

そんな恵まれすぎる食生活の中で唯一なかなか馴染めなかったのがラーメンである。
金沢人、いや石川県人にとってラーメンといえば『8番ラーメン』なのだそうだ。
わたし自身、ラーメンにはなかなか五月蠅いと自負している面もあり、金沢の職場に着任早々、有名なラーメン屋を職場のメンバーに尋ねると必ず最初に出てくるのが『8番ラーメン』であった。

まるで申し合わせたかのように、金沢での自宅マンションから徒歩5分とかからない交差点のところにかなり大きな『8番ラーメン』の店舗もあった。
さっそく鼻を膨らませて8番ラーメンで基本の醤油スープのラーメンを食するのであるが………これといって特徴のないまるで自宅でつくるお土産で売っている生麺のラーメンとなにが違うのだろうか?
というのがわたしにとっての8番ラーメンの第一印象であった。

以降、回りの誰もが8番8番と五月蠅いので、醤油味、味噌味、塩味等々すべてのメニューを食べ尽くしたのであるが、都内激戦区のラーメンを味わい尽くしていた舌には、どうにもこうにも普通すぎてこの魅力に気づかないのである。

これはやはりわたしが余所者であるからだろうか?所詮2年もすればまた都内に戻ってしまう異邦人でしかないからなのであろうか?
と、できるだけ金沢の人になろうと住民票まで移して馴染もうとしてきたのにやはりダメなのか?と心が打ちひしがれていた頃に、フト近所の8番ラーメンに集まるお客さんを見ていて気付かされたのである。

ラーメン屋であるにもかかわらず、ファミレス並みの広さを誇る店内にはお爺ちゃん、お婆ちゃん、お父さん&お母さん、それに子供たちを三世代で8番ラーメンを食べに来る世帯が多いのだ。

8番ラーメン創業時、普通のラーメンに野菜炒めが乗った野菜の旨み、甘味が染みわたった8番ラーメンの魅力にハマったお爺ちゃん&お婆ちゃん世代が、子供が生まれると8番ラーメンに連れて行き、小さい頃から8番舌になる英才教育を今のお父さん&お母さん世代に施すのである。
母親の味というくらい、幼い頃から馴染んだ舌の記憶というモノは強烈な呪縛を施すモノだ。
『8番=美味しいラーメン』という記憶を幼い頃から植え付けられたお父さん&お母さん世代は、もはや抗うことも出来ずに『今日は美味しい8番ラーメンを食べに行きましょ!』と第三世代目に当たる子供たちにさらに英才教育を施すのだ。

こうして、幼い頃から舌の記憶に刻まれた8番ラーメンの味は、3世代、4世代にわたって引き継がれ、石川県民のソウルフードとして盤石の体制を構築したのである。

ちなみにわたしはといえば、2年経った頃には塩ラーメンにバタートッピングが最強!と思えるまでに8番ラーメンの虜になっておりました(笑)

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