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「写ルンですAPS」f=24mm, F16,L39マウントレンズの製作

おつかれさまです.
巷では,富士フィルムの「写ルンです」というレンズ付きフィルムが,独特なやさしい写りでブームになっているらしい.そういえば家の物置の奥に,期限切れの「写ルンです」があるのを思い出した.しかも通常版が焦点距離32mmなのに対し,これはAPS版なので焦点距離24mmである.APS-Cセンサーサイズのカメラに装着しても35mm換算して36mmで広角レンズとして使える.さっそく,ミラーレス一眼で使える「写ルンです」を製作してみた.

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「写ルンですデート1000」というAPSフィルムが入ったレンズ付きカメラです.2009年8月で期限切れになってます.

パーツの設計と発注

ネット情報を見ると,ボディキャップに穴を開ける方法が,最も安価なようだが,見栄えがするものを作りたい.ここでは製作が容易なネジマウントであるライカL39マウントのレンズを製作し,これをマウントアダプターを介してカメラに装着する方法にした.

こちらの記事を参考にさせていただきました.ただしこちらの記事のLマウントと,ライカL39マウントは別物ですので混乱しないでくださいね.

L39マウントから各カメラには,直接変換するマウントアダプターを利用しても良いが,今回は比較的安価なL39→Mマウントのマウントアダプターを利用して,Mマウントを経由した.なぜそんなことをするのかというと,私のMマウント→Nikon 1マウントのマウントアダプターには,タンポポチップが装着されているので,Mマウントを経由すると,絞り優先自動露出やフォーカスエイドが利用できるからである.

さて,分解して取り出した「写ルンです」のレンズをL39マウントにする部品が必要だが,これは先人が設計した図面を,3Dプリンタで出力するサービスを利用した.

材質はPA12(MJF)という樹脂のナチュラル色にしました.発注して5日後に到着しました.REIKOR 32mmという名称がつけられています.

だが通常の写ルンです用に設計されたこのパーツには,どうもAPS版「写ルンです」のレンズはぴったりはまらないようだ.よく考えれば,焦点距離がまったく違うのでこれは当然のことなのだが,注文する時はそこまで気がまわらなかった.仕方がないので,これは通常版の「写ルンです」に利用し,新規に図面を起こすことにした.

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「写ルンです」通常版のレンズを入手し,f=32mmのMマウントレンズにしました.左がライカM→フジXマウントアダプター,右がL39→ライカMマウントアダプター上に作ったREIKOR 32mmです.フィルター枠をはめ込んで接着してあります.これて完成品のイメージがつかめました.

使った3DCADはDesign Spark Mechanicalというフリーソフトを利用した.これは商用利用もフリーで,ライセンスを気にしたくて良いので本当にありがたい.使い始めてみると,今回の課題くらいなら,週末の2日間くらいあれば,無理なく習得できるくらいの難易度だった.

こちらのセミナー動画を見ながら習得しました.

設計上注意したのは,フォーカスが合うレンズの位置を調整できるよう,スペーサーを複数枚挿入できるようにした点と,頑張ってL39マウントの1/26inch(=0.98mm)ピッチのネジを切り,できるだけ接着剤を使わなくても組み立てられるようにした点である.

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断面図はこんな感じです.焦点距離が短いので,レンズホルダーがボディ側に寄っています.0.8mm厚のスペーサー3個と,レンズを固定する外径20mm,厚さ1mmのトップカバーも同時に造形しました.

ライカL39マウントのフランジバックが28.8mmなのに対して,焦点距離が24mmなので,レンズの中心がマウント面に対して4.8mmカメラ側にないといけないことになる.上の断面図で見ると,フランジ面からレンズユニットの底面までの距離が9.5mmに設計しているのがわかる.レンズの中心からレンズユニットの底面までの距離が3.9mmだとすると,0.8mmのスペーサーを入れて底面から4.7mmとなり,フランジ面からはちょうど9.5-4.7=4.8mmの位置にレンズの中心が来ることになる.

それと,φ52mmのフィルターリングが装着できるようにした.金属製のフィルターリングをはめれば,レンズの着脱がやりやすくなるし,レンズキャップやクローズアップレンズを装着できるようになるというメリットもある.ここで使用するφ52mmのフィルターは,針金ではなくネジが切られたリングでガラスフィルターを固定するタイプを選ぼう.おそらく,リサイクルショップでジャンクが100円で売られていることだろう.

「写ルンです」の分解

こちらを参考にして分解した.この記事を見て「写ルンです」を分解し,ケガなどをされても,当方は責任を負わない.自己責任で行ってほしい.

感電に注意してくださいとあるので,まずはゴム手袋をして作業にとりかかった.

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包装から取り出しました.巻かれているシールをはがします.

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プラスチックの爪を持ち上げて,フロントのパネルを外します.

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単3電池を外します.絶縁ドライバ(グリップがプラスチック製のもの)で,フラッシュ付近のパターンに触れ,溜まっている電気を放電させます.

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バチっという音とともにスパークが起きました.ドライバーに放電の跡が残りました.こんなのに感電したらただじゃすみません.十分に気をつけてください

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回路基板を外して,プラスチックだけにします.ここからは,素手でも大丈夫でしょう.

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レンズユニットだけ取り出しました.ひとまず「写ルンです」の分解は完了です.

組み立てと塗装

設計した図面(拡張子がstlのファイル)をDMM.makeにオンラインで送って3Dプリントを発注した.待つこと約1週間ほどで,モノになって宅配便で送られてきた.早速仮組みして寸法に間違いがないかチェックした.問題なさそうである.

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組み立てるとこんな感じです.

造形する樹脂をMJFのPA12GBにして,色をナチュラルに指定すると,造形物は灰色だった.このままでも悪くはないが,ラッカースプレーで黒に塗装した.表面がザラザラしているので,塗装のノリは良さそうである.

あとは組み立てて,調整するだけである.パンフォーカスレンズなので,無限遠からなるべく近くまでピントが合う位置に調整する.調整には,中央のφ13mmの溝に挿入したレンズの前後に,0.8mm厚のスペーサーを入れた.調整が終われば,レンズを押さえるトップカバーに,両面テープを貼ってレンズを固定する.

外装に使うフィルター枠は,もちろんガラスのフィルター自体は不要なので,外しておく.製作した本体をフィルター枠にはめ込んで.ネジを切ったリングを締めれば固定される.

まとめ

製作にかかった費用は以下のとおりである.

レンズ                                             廃物利用なので 0円
3Dプリント費用                   DMM.make(送料込み)で 1900円
レンズフィルター(φ52mm)                     リサイクルショップで 100円
L39 to ライカMマウントアダプター                              Amazonで 1050円

というわけで,それほどお安いわけではないし,3Dプリントには10日間程度の時間がかかる.ご承知のとおり,ほぼ同等のものはすでに市販されているので,手っ取り早くレンズを試してみたい方にはこちらをお勧めする.

おそらく数十円のプラスチックレンズのために,こんなにコストをかけて馬鹿げていると思われるかもしれないが,実のところ3Dプリントサービスというのを利用してみたかったというのが本音である.以前から中華製の数万円の3Dプリンタを導入しようかと企んでいたのだが,満足できるものができるか不安で踏み切れていない.反面,今回利用した3Dプリントサービスは,仕上がりがすばらしく大変満足である.納期があと少し早ければさらに良いと思うのだがどうだろうか.

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FUJIFILM X-E2に装着した「写ルンですAPS」ベースドのパンケーキ広角レンズ.

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Mマウントのマウントアダプターで,Nikon 1 V1にも装着できました.
焦点距離は35mm換算で65mmになります.

APS版の「写ルンです」は既にディスコンになっているが,期限切れのものがオークションやフリマサイトにはまだ流通しているようである.他にもレンズ付きフィルムのレンズを使って個性的なレンズを作りたくなった.

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FUJIFILM X-E2, 「写ルンですAPS」24mm F16;
SS1/20, ISO3200, Film simulation "Classic Chrome"

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