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ものすごく暗い色の花束


 彼女はものすごく暗い色の花束を、ほんの少しだけ知っていた彼からもらった。
特に仲良くもないのに、だ。

 彼女はそれを自宅に持ち帰り、しげしげと眺めた。
人生で一度も見たことがないような花ばかりで、グロテスクな形に加えてとてもとても暗い色、例えば駅でたまに見る、鼻血か何かが滴って固まったような黒っぽい赤とか、底の見えないほど深いアマゾンの沼みたいな緑、以前小指のささくれからばい菌が入った時に見た紫っぽい肌の色、などを思い出すような。
見ていると暗い気持ちになる。どよんという感覚と共にそれを見つめていると、香りがかすかにしてくることに気がついた。
その不思議な色に負けず劣らず、今までどこでも嗅いだことのない香り。嗅いでいると体が浮いたような感じで目が回ってきて、しだいに「この匂いは宇宙の匂いかも」なんて思えてくる。今まで2度、流星群を寝ずに観察したことがある程度には宇宙に興味のある彼女は、彼のことがとても気になりはじめてしまうのだった。

 彼女は急激に、「この花の色はどうしても取っておかなければいけない」と思い、白い綿のハンカチを染めるのに使おう、と思いついた。写真でも押し花でもなく、なぜ染料として使おうと閃いたのかは彼女にもわからないようだが、もう夜だったので彼女はギリギリ開いている店までハンカチを買いに走った。
彼女が息を切らし無地のハンカチと共に自宅に戻った頃には花は枯れてしまっていた。あーあ。

(了)


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