見出し画像

「効率化」が目的ではデジタル化は進まない

「繁忙期と閑散期では倍近く受注数が違うから、生産ラインでITを活用した効率化を進めても効果が得られないんだよな…」

先日、製造業の中小企業経営者の方とお話ししたときのことです。

ITシステムの活用によって、生産ラインを効率化しても、繁忙期(約3ヶ月間)は残業時間削減となり効果が生まれますが、閑散期はただでさえ手が空く時間が多いのに、余計に手が空いてしまう、ということです。

年間で考えると費用対効果が得られないんですね。

日本の中小企業製造業でデジタル化が進まない要因の一つはこういう理由なのかと納得しつつ、一方で、どうやったら中小企業のデジタル化が進むのか…と改めて考えるきっかけにもなりました。

デジタル化は手段なので、何のためにデジタル化をするのか、目的に立ち戻って考えてみるのが良さそうです。

業務効率化は目的ではない

自分は、中小企業向けのシステムコンサルティングを行っています。特にバックヤード業務(営業、販売、購買、在庫、会計など)におけるデジタル化を推進しています。

最近だと、義務化された電子帳簿保存法の電子取引への対応についてご相談いただくことが多いのですが、こういった法対応は話しが早いです。

というのも「対応しなければいけないから」です。

費用対効果うんぬん、という話しは不要で、対応必須なので、対応に向けて動き出す経営者の方も多いです。

一方、弊社が得意とするバックヤード業務のデジタル化というと、大概の場合は「業務効率化」を目指して進めることになります。

ここでよくある勘違いは、業務効率化が目的だと捉えてしまうことです。

「業務を効率化するために、xxxシステムを導入して業務フローを見直しましょう!」と提案するコンサル会社やシステム会社が少なくありません。

実際に自分も以前は、業務効率化を目的にしてデジタル化を進めましょう、とお客様へ提案していました。

なぜなら、日本の労働人口は減少していくことが確実なので少ない人数でより多くの業務をこなしていく必要があるからです。また、単純に考えて、今までより少ない時間で業務をこなせるならそのほうがよいと思っていたからです。

では本当に業務効率化が目的なのかというと、「No」だと思っています。

義務効率化は手段であり、目的は成し遂げたいこと

「義務効率化しただけ」では意味がありません。業務効率化した後に、本当に達成すべきゴールがあります。

例えば、以下の2ケースで目的を整理してみます。

・ケース1
経理担当者3人で業務を行っていたところ、業務効率化を実現し、担当者2人で対応できるようになった。
・ケース2
営業事務担当者5人で業務を行っていたところ、業務効率化を実現化し、それぞれの業務時間を月間10時間削減した。

■目的①→コスト(人件費)の削減

ケース1で、経理担当者1人がいなくなると、人件費分のコスト削減となります。

年収400万円だと仮定すると、社会保険料などを踏まえると、会社側が負担するのは約500万円です。(かなりざっくり算出しています)

よって、業務効率化をして、担当者の雇用をやめれば、年間500万円分のコストを削減できます。

ここで注意すべきは「雇用をやめればコスト削減できる」という点です。担当者が業務委託であれば、契約を切るだけでよいのですが、正社員となるとそうはいきません。

正社員の場合、やむを得ない事情(横領やパワハラなど)がない限り、解雇することができないからです。

これは本当によく目にするのですが…「効率化してxxx時間削減すると、xx名分の作業をカットできるから、xx名分の人件費を削減できる」というのはあくまでも机上の計算の話しです。

人を雇い続けている限り、支出は減らないので、数字だけ見ればコスト削減にはなりません。

■目的2→コスト(採用費)の削減

先ほどと同様のケースで、経理担当者1名分の業務効率化を実現した場合、雇用をやめないでも削減できる費用は採用費です。

例えば、営業部門では人が足りず採用しようとしていたところ、経理担当をしていた方を営業部門へ異動してもらえば、採用コストは削減できます。

雇用は続くため、人件費は変わらず発生するので会社として支出は変わりませんが、採用にかけようとした、将来発生するコストを削減することはできます。

■目的3→コスト(残業代)の削減

ケース2のように、担当部門全員の業務が少し効率化される、というケースもあります。むしろこちらの方が現実的には多いと思います。

もし残業が恒久的に続いており、残業代が毎月一定発生している場合は、残業代を削減することができます。

ケース2で営業事務担当者それぞれの業務を月間10時間削減したので、5名×10時間=50時間分の残業代を削減することは可能です。

繰り返しになりますが、これは残業代が常に発生している場合に限ります。

■目的4→事業拡大に備えた体制整備(将来発生する採用費や人件費の削減)

事業拡大していく計画であれば、今後、単純に考えて仕事量が増えるのでバックヤードで処理する量も増えます。

今後に備えて、今のうちから業務効率化をしておくことで、事業拡大後の採用費や人件費を削減することができます。

今のうちから余剰の体力を備えておくようなイメージですね。

■目的5→新たな取り組みの実施

ケース2では、定性的な効果を生み出すこともできます。

業務効率化した結果、営業事務担当者5名は月間10時間分、手が空くことになります。

例えば、空いて時間を使って社内の改善活動を行う、SNSなどを活用した情報発信で広報を行う、新規事業の検討を行う、といった、これまでやりたいけど出来なかった取り組みへ着手することができます。

定性的な効果ではありますが、新たな取り組みの結果、企業価値の拡大・売上拡大といったことへ繋がると思うので、重要だと考えられます。

耳触りの良いフレーズに頼らない

今回は「義務効率化」に絞って目的を整理してみました。

法対応など、必ず対応しなければならない場合を除き、業務効率化する目的は概ね上記のどれかに該当するのではないかと思います。

むしろ、どれにも該当しないのに業務効率化を進めようとしても、経営者はその取り組みに対して首を縦に振らないと思います。

最近は、DX!AI!自動化!といったキャッチフレーズを使ってシステム導入やデジタル化、業務効率化を進めることが多いような気がしたので(自分だけかもしれませんが…)、自戒の念を込めて整理してみました!

当たり前の結論にはなりますが、やっぱり「目的」が大事ですよね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?