字書きだって特殊装丁にチャレンジできるよ!という話

同人誌ってどうやればいいのかわかんないよ!という小説書きさんでも、特殊装丁含め色々遊べるんだよ!ということを主張すべくこれまで発行した26冊の装丁・印刷会社さんをまとめたいと思います。イラスト書けなくたって装丁はこだわることができるんだ!という主張も兼ねて、誰かの力になれますように。

初めに

まず、装丁について色々な方法があると思いますが、私はデザインをするときはAdobeのillustratorを使用しています。そもそも発端は学校の授業で使うことがあって、色々図形をこねくり回しているうちに「なんか自分でもデザイン作ってみたいな〜あ!同人誌出すか!」みたいな感じだったので、illustatorとの出会いがなければ同人誌作ってなかったかもしれません。そこからやがて京極夏彦氏が使用しているInDesignに出会い(詳しくはこちら)同人誌に狂っていくわけですが・・・

 WordとかPowerPointとかでもやろうと思えばできること(実際同じように装丁拘っている字書きの友人はWordを駆使していました)だとは思いますが、個人的にはやっぱりイラレが便利だなーと思うので是非、学生は特にクリエイティブクラウドで安く買えます!

初心者の頃の装丁

初めから特殊装丁にチャレンジするのはなかなかハードルが高いと思いますし、私も初めはシンプルなところからやっていたのでどんな歴史で装丁沼に落ちていったかの変遷を見ていただければと思います。

まずはこちら

画像1●印刷会社:サングループ ●装丁:A5/アートポスト180kg/クリアPP

本当に一番シンプルな装丁だと思います。まだマットPPも何かわかっていなかった時代ですね。黒一色にクリアPPだと結構擦れた汚れが目立つな、という学びもありました。やっぱり作ってみなくちゃわかんないね。でもはじめて自分の書いた小説が本になったの、嬉しかったなあ。左から3冊めの本は、「カプはわからないんですけど表紙可愛いので買ってもいいですか?」と聞かれて手に取っていただけた本でもあります。びっくりしたけど嬉しかった。そんな出会いもあるのが即売会ですよね。

そして、次に表紙の紙を変える、ということを学びました。

画像2

印刷所はHOPE21とSTARBOOKSとさまざまではありますが、こちらはすべてPP加工なしの表紙の紙を変更しています。紙を変えたらかわいんじゃない!?みたいなそういう単純なあれです。あとキラキラの紙が好き。

右からミランダスノーホワイト×2、シャインフェイスゴールド×2、シェルルックツインスノー×3です。サイズは文庫・B6・A5です。

ミランダは結構キラキラの粒が大きくて可愛いんですが、硬めで捲りにくいので文庫サイズがちょうど良いと思います。シャインフェイスゴールドは光を当てるとうっすらゴールドに輝くので、薄めのカラーの方が綺麗に出ます。シェルルックツインスノーは一番使い勝手が良く、うっすらと輝くもののそこまで硬くないので大きめのサイズでも問題なく使えます。

キラキラ系の紙を使用する場合、PP加工をするとキラキラ感が失われてしまうのが難点ですが、ミランダはやっぱり硬いし脆いので、使い勝手でいくとシェルルックツインスノーがおすすめ。

特殊な事例ですが、こちらはミランダにクリアPPを施しています。

画像3

画像4

●印刷会社:HOPE21 ●装丁:A5/ミランダスノーホワイト/クリアPP/遊び紙(TS-1赤)

ミランダはもともと少し凹凸のある紙なので、クリアPPをすることで凹凸を活かしつつ滑らかになります。燃えているような質感が欲しくてそんな感じにしました。ぬらぬら具合がいい感じでした。

これも最近作った本ですが、珍しくキラキラ以外にしようと思って質感のある紙を選びました。丈夫だし可愛くて気に入っています。

画像9

●印刷会社:HOPE21 ●装丁:A5/オリジナル・エンボス・サンバ・シルク

PPなくても触り心地が良くてくすんだ色合いともマッチしていてなかなかよかったんじゃないかと思っています。黒一色でも反射せず、マットPPと違って傷もつきにくいし目立たないのでリピートするかもしれません。

箔押しチャレンジ

初心者時代にやっていたのは「表紙の紙変更」や「遊び紙の追加」だったのですが、やっぱり真っ先に憧れたのは箔押しでした。

画像5

●印刷会社:HOPE21 ●装丁:文庫/ミランダスノーホワイト/箔押し(金艶あり)

初めての箔押しが上手くいった時は嬉しかったな・・・この辺から装丁沼への道がはじまっていきます。下のはは最近作った本ですが、やっぱりいつになっても箔押しは好き。艶ありはわかりやすく箔!って感じですが、上品な感じになるので艶なしにもしてみたい。実は箔押しそんなにやってないので、また色々試したいです。

画像6

●印刷会社:STARBOOKS ●装丁:B6/OKマットポスト_180K/箔押し(ジャングルセレクトシルバー/マットPP

箔押しをするときにはマットPPをかけた方がよりキラキラが目立っていいなーと個人的には思います。STARBOOKSさんは箔押しの種類が半端ないので、HP見てるだけで楽しいです。

本物っぽい本が作りたい

字書きなら誰もが憧れるんじゃないかと思うんですが、色々紙変えを楽しんだ後、いわゆる本物っぽい本を作りたくて頑張るフェーズに入ってました。特殊加工!というよりはいかに本物っぽくするかに重点を置いてましたね。

画像7

画像8

●印刷会社:ポプルス ●装丁:表紙(色上質最厚口)/カバー(コート110k)/カバー付き/帯付き/遊び紙(星くずしトレーシング)

一番右はマットPPで、それ以外はすべてクリアPPです。左の5冊はシリーズものだったこともあり、表紙の色上質最厚口と遊び紙ははそれぞれに合わせた色を選択していました。このシリーズは表紙のデザインとカバーのデザイン(イラストだけ絵師さんにお願いしていました)と帯のデザインをすべて自力でやってたので本当に・・・きつかった・・・その後に作った右から二番目の本はすべて絵師さんにお任せし、やはり絵師さんにお願いするのは大事だなと悟りました。クオリティも含め。(当たり前)

でもこれだけ本物感あるものを作るとやり切ったなーとは思います。スペースに来てくださる方に「リアル店舗」「書店の特集コーナー」「本棚に入れて違和感ない」と言っていただけたのも嬉しかったです。

特殊加工の沼へ

そんなわけで本物っぽい本を作り終えた私は、いよいよ特殊装丁沼へとはまっていくわけですが、何よりもプリントオンさんとの出会いが大きかったです。少部数でもさまざまな特殊装丁をすることができるので、字書きでも挑戦しやすかったというのもあります。装丁の詳細を記載しますが、データの作成法などは是非プリントオンさんのホームページをご覧ください。

画像10

画像11

●印刷会社:プリントオン ●装丁:ミランダスノーホワイト/窓貼り加工/フルカラー口絵

窓貼り加工は表紙をカッティングし、そこにフィルムを貼ることができる加工です。フルカラー口絵を載せることでフィルムから口絵を覗かせることができ、自カプの生活の様子を覗き見することができる仕様。

窓枠的加工は本当に大好きでいつかやりたかったので、夢が叶って幸せでした。

そして!R18的加工としてやりたい放題やったのがこちら

画像12

●印刷会社:プリントオン ●装丁:コートカード紙180kg/サーマルインク/マットPP/香り付き遊び紙(いちご)

サーマルインクは、熱を加えることで透明になるインクのことです。つまりですね。乳首を隠すように書かれているハートの部分を指で擦ると・・・

画像13

透けるんだな〜!

ちなみにこれ、作中で乳首にいちご味のチョコレートを塗るっていう描写があるんですけど、乳首だけは攻めに綺麗にしてもらえないんですね。だから読み終わったら最後に読者のあなたが綺麗にしてあげてね♡っていう仕様でした。読み終わる頃には遊び紙のいちごの匂いもしてるっていうあれ。変態じゃん。でも楽しかった。むしろサーマルインクの他の用途が思い浮かばないので誰かいい感じのを思いついたら教えてください。

そしてそして、ここまで色々特殊加工をしていた私は、ある時「それだけ分厚い本書けるなら小口焼きとか小口染めをやってみたら良いのでは」と装丁に詳しい方にアドバイスをいただきまして。

多分二年くらいかな。作りたいなーと思い続け、ついに。

ついに!

画像14

●印刷会社:プリントオン ●装丁:コートカード紙180kg/箔押し(金艶あり)/ベルベッドPP/スピン製本(ゴールド)/小口焼き加工/クリアケース(白印刷)

叶いました、夢。

実際、かなり絵師さんやプリントオンさんとはやり取りを繰り返す中で作り上げたので、ほんとにさまざまな方にお世話になった一冊です。色々な同人誌を手に取る中で、先輩方に装丁について教えていただいたり、実際に触ってベルベッドPPの滑らかさに感動したり、白印刷の技術を教えていただいたり(ここで習ったことがこの後実践できました)、多くの方に助けていただいたなと感じています。

ベルベッドPPは箔との相性があまり良くなく、剥がれ落ちる可能性もあったのですが、結果そこまでではなかったので(実際やってみた方にも聞いたりしてました)よかったです。小口焼きは細かすぎると潰れちゃったり、直線が縦に入るとずれが生じたときに目立つらしいのですが、そのあたりについても印刷会社さんにアドバイスをいただきつつ、絵師さんにラフを何パターンも作っていただいたり・・・と、本当に装丁だけでかなり話し合いをした気がします。

加えてクリアケースについては、上下の部分は「ノリ」による縫合が目立ってしまうため、何かしらデザインを入れなくてはならない・・・でも色はつけたくない・・・という我儘を聞いていただき、縫合が目立ちにくいように透け感を残しつつデザインをお願いしました。

画像18

底のところ、白じゃないところはうっすら透けてるんです。こうすることで縫合が目立たず、かつケース単体としてもデザイン性を損なわず、本を入れたときにタイトルとの被りも美しいという素晴らしい仕様でした。絵師さんに感謝。

そんなわけで夢が叶った私、更なる特殊装丁にチャレンジするべく、色々な印刷会社のホームページを見まくりました。

そして!夢、その2

エンボス加工

画像15

●印刷会社:アクシス出版 ●装丁:シェルルックツインスノー/エンボス加工

凹凸を見やすくするためにあえてちょっと暗めに写真撮ってみました。キラキラのシェルルックに、エンボス加工のみでタイトルを表現するという試みでした。本が分厚いこともあってPP付けるか迷いましたが、シェルルックは付けなくてもしっかり強いのと、エンボスの質感が失われたくないなと思いアクシスさんとも相談して作りました。思惑通り、ぼんやりタイトルが浮かんでいい感じに滲んだ感じを演出できたなと思ってます。

やっぱり特殊装丁って実際どんな風になるかがわからないワクワク感があるのがいいなと思います。段ボールを開けてうっすらタイトルが見えたとき、本当に嬉しかったな。

そして最後。

やってみたかったホログラム紙×白印刷

画像16

●印刷会社:プリントオン ●装丁:ジュエルペーパーローズピンク/マットPP/4色フルカラー+白印刷

Twitterでは動画を公開しました。

偏光ペーパーなので、傾けると色味が変わる特性を活かして、夕焼けの空を窓からのぞいている風にしました(マジで窓が好きすぎるな)結構細かくデータ作ってて、窓の向こうの雲のところも一部分は黒70%にしたり50%にしたり、自然と空っぽくなるように四苦八苦しながらデータを作ってました。締め切りギリギリすぎて試し刷りとかする余裕なかったんですがなんとか理想通りになってよかったです。

実は白印刷との出会いって結構前で、とある作家さんの本を手に取ったときに結構広範囲でキラキラしてたので、「これって箔押しですか?」って聞いたんですね。そこで「メタル紙に白印刷をすると一部分だけ光らせることができるんですよー」と教わり、当時は「そうなんですね!(????)」という感じだったのですが・・・

クリアケースを作った際に、クリアはそのままだと透けてしまうけど、白を乗せると透けないこと、同じことがメタル紙やホログラム紙でできることを絵師さんに教えていただいて、いつか自分でチャレンジしたいなと思ってました。

ジュエルペーパーって二種類あって、アクアマリンは水色ベースにピンクの偏光、ローズピンクはピンクベースに緑の偏光なんですが、空を表現するならアクアマリンがいいかな、ということで手探りで、プリントオンさんに相談しつつ(本当に相談しまくってるし電話で話しまくっている)なんとか形にすることができました。本当にお世話になりました。

終わりに

字書きにとって本を作るハードルって「表紙どうしよう」だと思います。イラスト表紙じゃないと手に取ってもらえないんじゃないか、絵師さんの友達いないし誰にも頼めないし・・・でも、誰だって初めはそうだと思うんです。

私も初めはそうでした。だからソフト買って色々勉強して、本屋さん行っていい感じの装丁みたりとか、デザインの本読んだりとか、あとは素敵な同人誌を見つけたら「どんな風に作ったんですか!」って結構聞いてました。あとは何より、同人誌を通じて知り合えた方に装丁について色々と教えていただけたのが大きかったな、と思います。

絵師さんと一緒に作る本も楽しいし、自分でデザインするのも楽しいです。その楽しさって、違う種類のものだと思うんですね。一緒に作り上げる楽しさと、自分で一つの世界観を作る楽しさ。だから私は、どっちの本も宝物だし、全部我が子のように大事に思ってます。

でもやっぱり、illustratorとの出会いがマジで大きいなと思うので、ちょっと高いかもしれませんけど、Adobeに課金すると世界は広がると思います。字書きって無料ソフト使いがちだけど、そもそも絵師さんってものすごいソフトや道具にお金かかってるじゃないですか(以前お話聞いてびっくり仰天した)お金と時間をかけて練習して培ったデザインやイラストの技術に対して「いいなー、私は絵を描けないし、表紙描いてよ!描いてくれる人いないんなら本出すの無理だわ!」っていうのは、なんかちょっともったいないと思ったんですよね。あと私の場合、単純に同ジャンルで絵を描いてくれる友達がいなかった(笑)

描いてくださる方がいるのってとっても幸せだと思うけど、イラスト表紙じゃなくても本は作れるし、特殊装丁だってできるんだよ〜!だから字書きだって装丁を楽しもうよ〜!と思っています。好きな本作れるのってマジで楽しいので。

色々十分やり切ったな、とは思ってますので、最後はハードカバー本とか作ってみたいなーと思ってます。夢は、きっといつか叶う。

画像17

とはいえ、本出しすぎじゃね?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?