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オマハシステムの記述統計を発表しました@2019年在宅看護学会

2019年12月7-8日に行われた第9回在宅看護学会学術集会で2本のポスター発表を行いました。うち1本を㈳オマハシステムジャパンとして発表し、それを本記事として公開します。

ウィルとしての発表については以前公開した以下の記事が中心ですのでご参照ください。

本発表では、複数のステーションの横断的な集計を基に、主疾患となる疾患群別にオマハシステムで立案される問題、介入、成果の傾向を見ました。

引用元:片山陽子, 岩本大希, 酒井昌子, 藤野泰平, 吉江悟. (2019.12.7-8). オマハシステムの実装で明らかにした訪問看護利用者の疾患群別にみた問題・介入・成果の関連. 第9回日本在宅看護学会学術集会, 東京.

調査協力事業所は、調査趣旨を理解し調査協力に同意を得た3事業所のうち同意を得た326人であり、そのうち疾患群区分が可能な267名を分析対象としました。調査期間2018年10月から6か月間。分析方法は、①記述統計量を算出、②疾患群別(がん等疾患等の5群)に、問題分類(主な問題を1項目抽出)・介入実施の有無(教育指導相談TGC、直接的ケアTP、ケアマネジメントCM、観察Sの4カテゴリに区分し複数回答)・成果(問題別に知識K/行動B/状態Sの3項目5水準で評価、成果は介入前後の評価から算出)の関連を検証しました。

疾患群における問題および介入の傾向と、二時点間の変化(成果)

~がん疾患群の結果と考察~

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がん疾患群の問題順位は1位「疼痛」でした。がん疾患においては全人的な”痛み”が対象者の生活に影響を及ぼすことが多いため、筆者含め想像通りでしょうか。2位以降については「口腔衛生」「会話と言語」の順でした。訪問看護が介入する場合は既に悪液質移行した後の終末期に近い場面が多く想定されます。がんにおける前悪液質~悪液質において栄養は重要なポイントであることや、またがん終末期の場合は口腔トラブル(口腔乾燥、口腔内感染、口腔内痛、口臭など、またそれらから生じるコミュニケーション困難)は多く、またがん終末期患者の約8割は何らかの口腔トラブルを生じると言われていることもあり、これらのトラブルに適切に対応しQOLの維持に重要なことが背景にあると考えられます。一方でがんの部位によりこれらの生理的な問題名の頻出も変わる可能性があるため、今後は疾患群の中の分類を更に細かく見ていくことも必要かもしれません。

介入分類では「教育指導相談TGC」次いで「観察S」が最も多く、「直接的ケアTP」が最も少ない介入立案となりました。がんを抱えている方への介入は、症状コントロールや、本人・家族の望む生活の実現、不安への対処、意思決定支援などが中心であることが背景にあると考えます。

成果においては、「行動B」が0.5ポイントの改善が見られました。介入により、本人・家族の行動や態度に前向きな変化があったことが認められました。

~臓器不全疾患群の結果と考察~

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臓器不全群は主に高血圧症や腎、肝、代謝、肺などの疾患による生活習慣病や高齢者に多い慢性期疾患を中心にした群です。これらの対象者は主に複数の疾患名を抱えていますが、主治医の指示書を基にした主たる疾患により分類しています。

問題分類について、上記背景からも「循環」やADLの変化に伴う「神経・筋・骨格」の問題名が高位に来ることは想像がしやすいかと思います。3位の「認知」も、おそらくこの群には高齢者が多いと考えると自然な順位にあると考えられます。

介入分類については「教育指導相談TGC」が多いことはその他の群と変わりないですが、「ケアマネジメントCM」が他の群より最も選択が多いことは特徴と考えます。生活習慣病や慢性期疾患においては、生活そのものを支える多職種・インフォーマル社会資源の協働が特に重要という示唆だと考えます。

成果については、「行動B」が0.5ポイント向上が見られ、対象者や家族の行動や態度に最も前向きな変化があったことが示されています。また、「知識K」「状態S」においても改善が示されました。

~難病・認知症疾患群の結果と考察~

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この群では診断名として認知症を持つ方の群でもあるからか「認知」が17%と1位でした。そのほか神経難病などを持つ方の群でもあることから「皮膚」の問題やリスクを持つ方も多かったようです。3位は同率で「腸の機能」「神経・筋・骨格」で、これも排便コントロールに支援が必要だったり、ADL維持向上や廃用予防が必要な方も多かったことが想像できます。

介入分類のバランスを見るとがん疾患群におけるバランスに近似しているようにも見え「教育指導相談TGC」が最も多い立案となっていました。

成果では「知識K」「行動B」が同じく0.4ポイントの改善を認めました。「状態S」も0.1ポイントの改善がありました。

~小児群の結果と考察~

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小児群では疾患ではなく年齢による群としてまとめています。問題名は「成長発達」「呼吸」が同率で21.4%を占め、これまでの他の群の1位よりも大きい比率であり、小児群においてこの2つの問題が比較的頻発していることが分かります。次いで「介護・養育」が2位にきていることから養育者・家族への支援が求められていると考えられます。「神経・筋・骨格」は特に重症心身障害児とされる児においては発達の上で理学療法も重要であることが背景にあると考えられます。

介入分類では「観察S」が最も多いことが特徴的でした。医療デバイスも多いことから「直接的ケアT」が高くなりそうですが、それはあまり他群と差はなく、症状マネジメント等のための観察介入が多い結果になりました。

成果では他群と同様に「行動B」が0.4ポイント「状態S」が0.2ポイント改善が示されましたが、一方で「知識K」は0.2ポイント悪化となりました。本人の発語が難しい場合が多いことも背景にすると、養育者や家族の知識理解が主な評価と推察し、この結果を受けて小児群においての今後のケアプランのバランスは「教育指導相談TGC」の介入がより一層重要であるかもしれません。

~精神疾患群の結果と考察~

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この群では圧倒的に「メンタルヘルス」の立案が多く69%と他群に比べ集中していることが分かりました。「社会とのつながり」「他者との関係」がランクインしていることで、精神疾患をもつ方がリカバリーし社会に復帰(あるいは参加)するにあたり重要な焦点であると考えられます。一方で疾患群の特性的に薬物治療を継続していることが多いと考えられ、「処方薬剤の管理」がランクインしていることもイメージと相違ないように思います。

介入分類では「教育指導相談TGC」が最も多く、「直接的ケアTP」が最も低い結果でした。本人と目標を考えたり相談に乗ったり、内服支援をする介入が多いことが想定されます。

成果では「状態S」が0.2ポイントの改善がありました。「知識K」「行動B」は同点のままですが、悪化なく維持できていることが分かりました。

~全体を通して~

オマハシステムを利用することで、疾患群別に訪問看護師が対象者・世帯の焦点を当てている問題の傾向や、主な介入、そして成果の傾向が分かりました。

訪問看護師はどの群においても「教育指導相談TGC」の介入を立案していることが多く、「観察S」「ケアマネジメントCM」が次いで行っていること、「直接ケアTP」は最も少ない立案数の傾向にあることだと分かりました。

また成果では、どの群でも対象者の「行動B」に改善の変化を及ぼしており、訪問看護師は対象者の行動変容やセルフケアを高め、健康行動への影響を及ぼす存在である可能性が考えられました。

在宅看護学会の訪問看護の質評価に関するパネルディスカッションでもオマハシステムについて指標の一つとして紹介され、本研究でもオマハシステムを利用し疾患群別に分析したことによって問題・介入・成果の傾向が明らかになりました。しかし本研究は複数疾患を有する対象の主疾患を区分した分析であり限界と課題があります。今後は各疾患群の更なる適切な分類分けや背景となる基礎情報との結合、成果の変化のパターンから、より良いケアプランや質評価が導き出されることを引き続き期待したいと考えます。

㈳オマハシステムジャパンからお知らせ

㈳オマハシステムジャパンでは、年に複数回のセミナーワークショップを行っており、次回は2月22日(土)@東京女子医科大学病院で行いますので気軽にご参加ください。お申込みは以下の画像ファイルを出力しご記載の上、FAXかPDFでお申し込みください。

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ウィル訪問看護ステーションでは、すべての事業所・全ての利用者へオマハシステムを用い看護展開し、看護の成果を追い続けています。オマハシステムの実際に関心がある方は、ウィル訪問看護ステーションでいつでも見学・研修をお待ちしています。


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