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オマハシステムの実装で、明らかになったウィル訪問看護ステーションの構造

ウィル訪問看護ステーションでは、2018年11月より独自WEBシステムを開発し、全ての利用者に対してオマハシステムを用いて看護展開と訪問看護計画の立案をしてきました。

オマハシステムは、看護過程を「問題ー介入ー評価」で分類し、ケアをデータとして蓄積・分析するためのツールです。またケアの成果も定量的に測定することができます。米国で開発され、世界の多く国や地域で、公衆衛生分野や在宅ケア分野で使われています。

ウィル訪問看護ステーションでは日本の訪問看護事業所ではほぼ初めて(?)オマハシステムを実装して、日常の実務まで落としこみ「ケアの成果を追う」ことを目的にデータを取り始めました。
今回、東京大学大学院地域看護学教室の成瀬先生に顧問としてご協力頂き、明らかになった結果をご報告します。

ウィル訪問看護ステーションのデータ構造

データは以下の通り約3か月間の蓄積から。ただし開始時点でのスタッフの慣れやオペレーションの問題もあって適切なデータにならなかった課題があり、直近のものを使っています。

Problem(以下、問題)は利用者につき平均約2つ立案され、問題ごとのIntervention(以下、介入)は平均26個、つまり一人の利用者に平均約52の介入が立案されていました。

利用者に立案した問題のTOP10は以下。「神経筋骨格」が最も多く立案されていました。また「介護・養育」の問題がTOP3にあることは、在宅ケアにおける特徴のように思います。

介入は、「教育情報提供相談(TGC)」「直接ケアや処置(TP)」「観察(S)」「ケアマネジメント(CM)」の4つに分類されるのですが、最も多いのは「教育情報提供相談(TGC)」でした。

訪問看護師としての大切な役割の一つに、ご本人や家族が望む生活を送れるよう、症状や障害と折り合いつけ、自ら対処ができるようセルフケアが獲得できるための支援がありますが、その介入が最も多い結果となりました。

訪問看護師は医療ケアをすることが仕事なのか?

訪問看護をしてると、「医療的ケアがあるから看護師を頼むよ」「点滴や処置をしてくれるために来るんでしょ?」というお声かけを頂くことも多いのですが、実際のところ直接ケアは6%であり、ウィルの訪問看護実践のほとんどは、症状マネジメントのための観察や、セルフケア能力向上のための指導・相談、そして体制・環境を整えるためのケアマネジメントであることが分かりました。

ここで興味深い背景として、ウィルの利用者数の約6割、訪問件数の約7割は医療保険の利用であり、がん・非がんのターミナル期にある方、重症心身障がい児や医ケア児を主とした小児、人工呼吸器を使っている神経難病の方、重度の精神障害を持つ方など、一般的なステーションよりも、いわゆる医療的依存度が利用者全体において非常に高いと考えられる中で、直接ケアが6%であったことは、訪問看護サービスとはなんぞや?を、市民や多職種の皆さんに考えて頂けるきっかけになると思っています。

更にウィルで頻出している問題とプランの組み合わせがあることが分かりました。看護師が立案しやすい・問題を特定しやすい、というものが頻出してしまっているなどの背景も考えられ、看護師個人によってもパターンがあるかもしれません。


訪問看護の成果が出やすい利用者の問題

もう一つ大きなトピックとして、定量的なケアの成果を測ることができました。

オマハシステムでは問題ごとに「K(Knowledge、知識・理解)」「B(Behaivier、行動・態度)「S(Status、状態)」(以下、KBS)の3軸をリッカート尺度の5点満点で評価します。これを介入当初と、毎月チェックすることでそれらがどのように変化をしているかを追うことができます。

今回は、初回評価から平均86日目の2時点間評価としています。

TOP10の問題ごとKBSの変化(10×3の30側面)を確認すると、17側面で改善が見られました。逆に悪化している10側面がありました。

最も大きい改善が見られたのは「介護養育の”行動”」「処方管理の”状態”」でした。

改善と悪化については色々なことが考えられますが、例えば「認知」においては、認知機能低下に伴う現象について本人(あるいは家族)の”知識理解”が進み、さらに症状に合わせた”対処行動”も獲得ができたが、認知機能そのものの”状態”は不可逆的に進んでいることで悪化、といった解釈などが考えられます。

一方で「腸の機能」では、”知識理解”や”行動”は点数が下がっているが”状態”は改善されていることが見うけられます。看護師が下剤などを医師や薬剤師と調整することで便秘や下痢などの”状態”は改善できても、トラブルについて利用者本人や家族の”理解”や”対処行動”の獲得に寄与できていない?課題があるのかもしれません。

上記のような解釈は一例ですが、このように事業所全体のケアについて示唆を得られる可能性がありました。

また個別的の利用者ごとに、「なぜこの問題の点数が下がっているのか、適切なケアが提供できているのか」「点数が横這いであることは、この利用者ではむしろ評価できることなので、今のプランを維持しよう」など、利用者ごとにケアの振り返りを行うことが可能になりました。

まとめ

今回は3か月程度の短期的なデータのため、長期的に収集しながら、今後必要な作業と明らかにできそうなことなど進め、ウィルのケアの成果測定と看護過程の見える化を目指し、「全ての人に家に帰る選択肢」を実現していきたいと考えています。

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