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言の葉譚<006>「まず隗より始めよ 日本語を味はふ」

外国語を習ふ人が母国語にどれほど熟達してゐるか、若い人なら自分の国の言葉をどれほど理解してゐるかによって、その外国語の習得に途轍とてつもない差が出るものだ。母国語をしっかり操れる人はよく根の張った苗のやうに、言葉の理解が早く、応用がぐんと広い。

「違ひ」と云ふ言葉がある。これが間違ひ、思ひ違ひ、勘違ひ、手違ひ、筋違ひ、行き違い、人違ひなどなど、際限なく派生して日本語のたえなる表現力をかもし出す。違ひでもこれだけ懐が深い。英語はと云へば、違ひの語感で浮かぶのは、difference,discrepancy, discourse辺りで行き詰まる。要は、日本語の表現力は格段に英語より広く深いと云ふこと、これは翻訳を生業にするものが随所で感じるところだ。煎じ詰めれば、同じことを表現するのに日本語は言葉少なに、英語は冗長になるのだ。

言の葉譚では、その辺りの機微を話題を散らしながら探ってゆく。本稿は、外つ国とつくに語に挑む日本人たるもの、まず母国語を知れよ、の切り口で一席・・・。

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