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最近みたホラー映画の感想2つ

 以下、最近みたホラー作品の感想を述べる。感想だから異論・反論は認める。が、各々自身のサイトなりSNSなりでやって頂きたい。ぼくとあなたは無関係である。では感想を述べる。

1本目『zoom/見えない参加者』

 「インターネット」を怪談に舞台装置や小道具として導入するのは難しい。なぜならインターネットを介した不思議な出来事は、そのまま「SF」作品として理解・回収されてしまうからだ。つまり、インターネットを用いることに成功した怪談は、良質のSFになってしまう。

 たとえば、最近の良質な短編SFでいえば、『ブラックミラー』の「Hated in the Nation」がある。一方、「インターネット」「スマホ」を導入しない怪談は、現代では多少リアリティに欠ける。スマホほど、現代人のリアリティを担保しているものがないからだ。

 では「インターネットを怪談に巧く組み込む」にはどうすれば良いのか。その答えが、映画『zoom/見えない参加者』である。内容も脚本も、いたってシンプルかつ凡庸であるが、良作だった。

 委細は省いていうが、本作は、我々の日常を支える「インターネット」技術の透明性がゆらぐこと、何者かに意図的に歪まされていることを描く。無論、その何者かが超自然的なアレなわけである。日常を支えるテクノロジーの伝達の透明性、その信頼が揺らいだ先で、意図せずして非日常の目撃者/当事者になってしまうことこそ、インターネット技術を用いた「怪談」の本質なのだ。

 ということで、期せずして映画『zoom...』は大変良かった。怪談本の類で、いくつかインターネットを巧く取り込んだものを見ていたが、映像として、ここまで巧いものは少ないんじゃないか。言うなれば、映画『来る』の「継続するブログ更新」以来の恐怖を演出してみせた。したがって、ホラー映画をわりと見慣れており、スプラッタに対して何も思わないぼくでさえ、いくつかの場面でシビれるような描写があった。

 ただし念のため言っておくと、前半はかなり眠い。そして後半の上がり調子が良いのだが、後半もまた撮影条件ゆえにツッコミたくなるような点が多々見える。しかし、それらを措いて、本作は、インターネットと怪談をきちんとつないだ作品として、ぼくには楽しく嬉しい作品だった。異論は認める。


2本目『さんかく窓の外側は夜』

 映画館でみた予告が良かったので、気になっていた。先日たまたま時間も空いていたので迷ったが鑑賞。存外良かったので感想を記す。

 マンガ原作やら小説やら色々展開しているとのことで、きっと原作はおもしろいのだろう。で、前情報なしで視聴。本作品の良いところは、映像表現である。いまどき金をかければ、ほぼ、どんなものでも描けてしまう。したがって、金をかけていない映像は見れば判ってしまう。そういう意味で本作には大作ハリウッドのような金はかけられていない。それは見れば判る。では、何が良かったのか。

 本作の良さは、霊能力とトラウマの関係をある種の青春ムービーの形式に落とし込んだところにある。演技の如何は、ぼくにはよく分からない。ストーリーも予想通りだったところは幾つかあった。しかし、その凡庸さと平坦さこそ、本作の素晴らしさではないのか。

 まず作品全体を通して印象的な点は、ホラー作品に定番の「音の演出」がほとんどなかったことである。多くの人が同意してくれると思うが、ホラー作品をホラー足らしめるもの、それはあの不快で不気味な「音」の演出である。そういう音に頼らずにストーリーで勝負しようとしたあたり、本作の良いところではないだろうか。

 また、呪いの描写が良かった。本作には、あまりスマホが登場しない。その意味で、大規模に感染する呪いを描くわけではない。しかし、その呪いが物理的に具象化する際の表現が良かった。無論、呪われた者の瞳の感じは、よくある表現だ。たとえば、ぼくが大好きな米国ドラマ『SUPERNATURAL』(2005-2020)では、お馴染みの表現である。しかし、本作の表現に、ぼくはある種の日本らしさを見てとった。

 米国性のホラー映画だと、呪いを受けた者は、やはり基本的にモンスターになってしまう。モンスターである以上は物理的に解決できるわけだから、結局、物理で勝つことになる。実は、これと同様に、韓国のホラー映画も、結局、物理になってしまう。Netflix配信『クェダム:禁断の都市怪談』は、この部類に入る。つまりアクション映画とホラー映画は、非日常(物理)に対する心身の応答という意味では、同じ方向にある裏表の存在なのだ。

 たとえば、韓国のアクション映画は、男性俳優の多くに軍隊経験があるので、大変キレのある迫力の作品となる。翻していえば、「軍隊」という理不尽さを埋め込まれた社会における「怒り」の感情が、ホラー映画の具体性に関わっているような気がする。これはアメリカ映画でも同じなのだ。

 では、日本の作品はどうなのか。映画『さんかく窓の外側は夜』に限っていえば、そのような物理的具象化は出て来ない。たしかに呪いや霊は物理的な影響を及ぼすものとして描かれる。しかし、それは米韓のようなかたちではない。

 本作は呪いや霊障をあくまで人間の精神との関係で描こうとしている。つまり「霊能力をトラウマとの関係にしぼって描く」点が本作の良いところなのだ。あと、まだ言語化できないが『さんかく窓の外側は夜』は、今後の新世代の日本ホラーの可能性を感じさせてくれる良作だと思った。ドラマ化したら、そのドラマを見ても良いと思う程度には、何か気になる。いわゆる古き良き心霊探偵ものになるのではないか。あと、女子高生役の女優は、呪い系の顔をしていると思う。

 以上、上記2作品とも映画館でみれて良かった。


おまけ『事故物件 恐い間取り』

 さて、ホラー映画ということで、もう一つ劇場で見たものを思い出したので記しておく。『事故物件 怖い間取り』である。こちらの話もたしか映画館の予告をみて興味をもって視聴した。

 感想としては、最初の「泉の広場の赤い女」の話は素晴らしかった。実は、こちらの話、大阪を扱う怪談では「あの赤い女、オレの彼女かもしれません…w」という話がちょくちょく聞かれていたりもする。個人的には、その出所のほうが研究対象としては面白い。

 冒頭、大阪の話は中々よかった。赤い女も出てきて、お、もしかして意識してる?とわくわくした。が、中盤から後半にいたっては、どうにも役者の顔芸ばかりが目立って、最後は爆笑してしまった。もちろん声は出せないので、声を押し殺して笑った。

 さて、こうして改めて3本並べてみると、前者二つは、勝手な印象だが、新世代のホラー作品なのではないか、という感じがする。後者についていえば、古典的で正統なホラー作品である。

 ということで、明日は『樹海村』の公開日。できれば、また感想を書きたい。ちなみに「犬鳴村」についても書きたいのだが、それは「樹海村」と重ねて論じたい。あと「鮫島事件」は見られなかったので配信を待ちたい。

 以上、最近みたホラー映画の感想について記した。ということで、コロナ禍ではあるが、劇場を助けると思って、皆さんもぜひ映画館に足を運んで、自分の目で確かめて頂きたい。ん、こんな時間なのに…?、誰か来たようだ…。

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