スノードームを返してから

夜寝る前の時間はしんとしていて、テレビを消したらほかにすることがなくなってそのまますとんと夜へ落っこちるみたいな欠落感みたいのも好きで、いつまでもいつまでもしーんとしていたくなる。そうなると、スノードームをひっくり返すみたいに、外の世界のことを思い出す。寝る前、ふとんに入ってからもわたしは外にある自分より、この家よりももっとずっと大きなもののことを考えたくなる。あるいはそれは祈りに寄せて。ずっと遠くのハイウエイ。その上を走るトラック。ドーム会場。象。クレーン車。三分の二が埋まる病院。無人の夜の街はもっと原始的だったころに突然かえってしまうようで、わたしたち、皆で地面に耳をくっつけてその音を聞いているのである。…どくんどくん。「よかった」って思う。よかった。わたしも寂しいけど、おまえたちのとてもおおきな空虚にはかなわない。と、決して言ったりはしないけと、妙な連帯感をこちらから持つ。こちらからもわたしは、声をきこう。なぜか分からないけどその大きなからだそのものが傾くこと、電灯のさす金属の光や、白い壁影の部分を見ていると、そう思った。かなしいだろう。見えてしまうことは、いつも悲しくて、それからいやになるくらい正しいだろう。どうして、わたしは理科室の模型を見ると落ち着きをなくしていたのかその時わかったように思う。だからわたしは、その時わたしがいうべき言葉や相手を持たなかったことのせいで、わたしが描いていた「だれか」をそのとき考え、その誰かがいうべきことだとわたしが考えたことを、いまも、この先も、ずっと背負うことになる…わたしはそこでやっとかっこたるものを思い出すように、清浄化される世界に祈るため、たったそれだけの意味ない存在の、けれどたしかな知覚を理解するのである。…わたしはそのどくんどくんという胎動に耳を当てながら、言うべきことを反芻しながら目を閉じる。今は町の、かなしい、大きな動物たちのために。見えているものすべてが心の中に火を灯す役割をする。そしてわたしは、わたしの役割を考える。

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ポエム、詩、短歌などを作ります。 最近歴史に興味があります。