(詩)とうめいになりたい。

帰り道、コンビニの店員さんがいつもと違う人でほっとした。僕はこんなに、紛れ込みたいんだなあと思った。例えば、皆が同じ顔になる。毎回、違う店へ行く。そうして、僕は日々を自分の手で切り取っていく。現実は地続きだから。人と会うと、前の自分を思い出すから。僕は、透明になりたい。電気のスイッチを押すみたいに、僕を辞めてしまいたい。何かに自分の身体を隠してしまいたい。どうして皆はそう考えないんだろう。サイクルをどうして自由にやらないんだろう。僕は僕の身体をちゃんと隠してしまいたくなる。「おい、◯◯」って言われない僕、「ねえ、◯◯そういえばさあ」とか全部それが自分のからだを通り抜けて行くだけ。もう僕を見ないでくれ。そしゃくしないでくれ。きめつけないでくれ。声をかけないでくれ。目を合わせたくない。顔を見たくない。人の声、ききたくない。何ももたらさない。こころはもう、なににも反応したくない。つかれている。僕は違うところへ行く。隠れるために。僕は、隠れることの喜びを知る。手も足ももう、目に見えなくなってきた。皆、なにを話してるのかわかるのに、僕は全部他人事みたいに思った。それで、そこでは毎日自分で新しくなることを選べる。死んだ後、生き返るみたいに、あるいはそういう儀式めいて、生誕おめでとうみたいな、お帰りのようなあいさつだってしてくれる。あー、よかった、って思う。これは普通のだれにでもあるサイクル。僕はこもっていたけど、然るべくしてまた、生まれ変わりました………でも、現実はそうじゃない。飽き飽きするくらい昨日のまんまの僕が、また同じ道を、皆に識別される形のまま、つまらなそうに歩いている。僕は、とうめいになってしまいたい。人の目に映る僕…世の中にたったひとり存在することは絶望と変わらない。そうだ、多分僕を苦しめているのは記憶なんだろう。それが僕を僕であれと縛り付ける。皆が僕を僕としてみる。僕はその間に立たされて身動きとれず、今、すぐ、人をかきわけてはやく、どこかに紛れ込んでしまいたいと願う。僕は逃げるんじゃない。いぬ、猫がそうするのを許されるように、森の中で何かが特定できないみたいに、ただ、もっと、誰にも、僕にさえもう認識できないくらい、透明になりたいだけなのだ。

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ポエム、詩、短歌などを作ります。 最近歴史に興味があります。