共犯

 今年の思い出としてはなんといってもライブにつきる。音楽・お笑い合わせて32本ものライブに参加した。生涯でこの年間本数は最多であり、今後もこの本数を超えることは多分ないのではないかな…と何となく思っている。社会人2年目には毎月1本絶対にライブ行くキャンペーンを独自に実施していたが、その12本をはるかに凌駕したこの結果は、何でもないのだがどこか自分のなかで自信というか、誇りにもにた何かとなって感慨も一入だ(自分が演奏したわけではないのに…笑)。2020年はそもそもコロナの影響で興行自体がガッツリ減ったこと、2021年は仕事でメンタルが疲弊していたこともあり、2年で3本だった。それもあり、過去2年の反動を取り戻すかのように貪欲に参加した。
 初めてプロの演奏を見に行ったのは高校1年生のこと。ライブハウスという未知の空間に戦々恐々として、友人にすがって震えながらライブに参加していた当時が懐かしい。いまではどこでも独りでいけるようになってしまった。成長(?)を実感するとともに、友達減ったなぁ…と寂しさもうっすらと漂う。

 今年のライブ参加状況で個人的な新しい試みとして、芸人さんのライブに参加したことがある。幼少期からコアなファンではないが「お笑い」は好きではあったが(「お笑い」という表現は「お笑い種」からくる自虐でありあまりポジティブな表現ではない…云々ということを高校のとき現代文の先生から習ったので、何となく使わないようにしているが、他にいい言い換えはないものか。それとも、もう誰も気にしてないのか)、大学時代にラジオを聴くようになったり、周囲の影響で興味の深度が厚くなっていき、社会人になり精神的にキツい時に「笑い」に救ってもらう機会が増えたことで熱心に摂取をするようになっていった。音楽のライブも参加の第一歩が重かったが、今年は気になったライブに行くという精神で動いていたので、長らく興味がありながら参加できずにいた、芸人さんのライブへ赴くこととなった。
 シンクロニシティというフリーのコンビ芸人さんがおり、2021年にお休みしていた。SNSで今年のM-1に向けてライブをするという書き込みを見て、チケットをすぐに取った。これを皮切りに気になったライブを音楽と同様にサクサクと取れるようになり、7本ほど見にいけた。きっかけをくれたシンクロニシティはM-1準決勝まで進み、非常にニースであった。準決勝・敗者復活で披露していたネタも、他の劇場にて生でみることができて(生で見たやつから準決勝・敗者復活へ向けてブラッシュされていて最高だった)、アツかった。
 芸人さんのライブに赴いて感じたことがいくつかあるが、まず圧倒的に女性客が多くて驚いた。自分のような冴えない男や、もう少し年上の腕組みおじさんが見にくるものだと勝手に思っていたが、イメージと真逆の客層が会場にひしめきあっていた。参加したいくつかのライブはさながら女性専用車両かのようであった。綺麗な女性が最前列を埋める光景にいまだに不思議な気持ちになるし、どこの世界にそういった方々が生息しているのだろうと考えてしまう。
 あとは、音楽のライブに比べてチケット代が安すぎると思う。会場の代金や関わる人間の差分かとは思うが、もう少し芸人さんへの還元ということも考慮して値上げしてもいいのではないかななどと思う。
 もう一つ感じたのは、音楽ライブとは異質の緊張感だ。普段、参加しているものは楽器の音色や打楽器の振動ととにボーカルの肉声が届くが、芸人さんのライブは、より生身であり、客と演者の対峙感がより生々しい。弾き語りのライブに近しい感じだが、もっとタイマンチックというか何というか…名状し難いヒリヒリがあった。言語化できるまで、もう少し通わなくては…と思った。

 参加した7本の中で圧倒的だったのが『山里亮太の140』であった。南海キャンディーズの山里さんのトークライブだが、これが凄まじい。圧巻の2時間以上のトークは休憩を挟むことなく、ノンストップで駆け抜けた。登場から割れんばかりの拍手と共に登場するのだが、拍手がすごすぎてなかなか始まらなかったほどだ。言い過ぎかもしれないが、さながらマイケルジャクソンのブカレスト公演の冒頭のようだった。レポ禁ライブなので内容を書くことは憚られるが、山里さんが発する一言一言に爆笑と喝采が沸き起こり、とんでもない熱量であった。正直、発言の内容はなかなに意地悪いというか、有り体に言ってかなり性格がよろしくない。それでも自分を含めた性格の悪い会場の1000人強が手を叩いて喜ぶ様は、感動に満ちていて、「よくないこと」をみんなで共有している状況に何とも言えない高揚感さえ覚えた。
 会場である浅草公会堂のキャパシティは1000人強であり、もっと大きい会場でライブを見たこともあるが、あの地鳴りのような拍手の音量というか熱量は他のどの会場でも味わったことがない。やはり観客の感情というか体重が乗っかっていたのかな…とぼんやりしながら、夜の浅草をふらふらと歩き熱を冷ましてから帰路についた。ライトアップされた浅草寺は美しかった。恐ろしいことに、あの公演はツアーの一部だ。あの奇祭が日本各地で行われていることを思うと震えが止まらないのと同時に、同じことで意地悪い笑い方をした共犯関係のようなお客さんが各地にたくさんいるという嬉しさも心に同居している。

 M-1の決勝でウエストランドの漫才に対して富澤さんが「僕らも共犯ですからね。笑った人みんな共犯ですからね」といっていたのを聞いて、あの日の喝采を思い出していた。

https://music.apple.com/jp/album/%E5%85%B1%E7%8A%AF/182573173?i=182573644

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