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行政と「戦わずに」協働できないものかしら。「告示」「通知」について知っておきたいこと。

JX通信社 公共担当/WiseVineアドバイザーの藤井です。いわゆるGovTech・CivicTech業界にここ数年おりますが、最近、行政とベンチャー企業の間で、いくつか大きな出来事がありました。

ずっと「裁判の時に不利になったら怖いから」と、電子署名(のうち、自分で法務局でもらった会社の公的電子証明書などを使うのではなく、簡易にサービサーの署名を使う方式)を契約書に使えなかった企業に対して、「大丈夫だと思います」と法務省・総務省・経済産業省が連名でQ&A(事実上通知に相当すると思われるけど、連名というところに前例がなくてこういう形になったのだろうと推察)を発出した件。これは長年のロビイングの成果と思われ、非常にエポックメイキングでした。電子署名界隈盛り上がってますね。もう一つが、

渋谷区にLINEで住民票の手配ができるBotサービスを提供しているBotExpressが、そんなeKYCじゃだめ、電子証明書(つまりマイナンバーカード、厳密にはマイナンバーカードに搭載されているJPKI)を使いなさい、という総務省に対して提訴した、という事案。

基本的に、行政に対して「なんでダメなんですか」と聞いても、行政は常にこれまでに積み重ねてきた判断をもとに「正しく」動いていますので、「今のところそれはダメということになってるんですが」という回答しかできません。何かルールを変えたり、これまでにない判断が必要な場合には、適切な検討体を作って、法律や省令に触れる点があればその変更案を作成して場合によっては国会にかけ、やっと「いいですよ」と言える組織です。そういうものです。

この変化の激しい時代にそれで対応し切れるのかという議論はここでは避けますが、そういうものだという前提で、「必死にロビイングして、いい感じに判断をゲットした」人たちと、「真正面から訴える一点突破」に訴えた人が出てきたので、印象深かったのでした。

前提として、法律以外にも国が出しているルールや決まりはいろんなレベルがある

行政に関わる界隈にいないとなかなかピンときませんが、我々を取り巻く国のルールには、法律以外にも色々なものがあります。

憲法>法律>政令・施行令>省令・施行規則あたりまでは、業務で関わる方には聞き覚えがあるかもしれません。例えば電波法でも、具体的にこの周波数はこういう技術的ルールで、と言った細かいことは、法律で全部決めているのではなく、電波法施行規則として総務省が決めて、総務大臣が出しています。

これに対して、「告示」はもっと細かいことだけど、大臣が決める、法的拘束力のあるものです。総務省だけでこんなにたくさん出てる。

さらに、「通知」は「お知らせ」レベルのもので、これには法的拘束力はないとされているのですが、実は行政向けのビジネスをする者にとってはインパクトのある大きい物がたくさんあります。

総務省のサイトに「主な通知・通達」のページがありますが、省令や告示と違い、全然網羅されていません。消防庁案件なんかほとんど載ってない。どういう通達が出たのかをトラッキングするのは、行政関係のサービスを設計している人間にとっては日常業務の一環だったりします。(WiseVineでもこれを全部取りまとめられないか四苦八苦したことがありましたが、結局難しかった。ちなみに農林水産省はとってもきれいに整理されています。ほんとに。)

特に総務省の通知・通達は地方自治体向けに発出されることが多く、「この事業はこういう感じにやってほしいと思っています」という「お気持ち」的な言い回しで「助言」しているものの、事実上、その後の補助金の審査の基準となっている場合が多く、それを汲み取って事業を組み立てるのが自治体の基本的な業務スタイルです。今回、Bot Expressが怒っているのも、この「通達」による"技術的助言"で、自分たちのサービスが封じられた、ということに対するものです。

何か明確な基準が欲しい地方自治体と、安全な方向に倒さざるをえない霞ヶ関のバランス感覚

地方自治体は1700以上あるわけで、さらに一部事務組合や広域連合なども加えると、もっとたくさんあります。これらひとつひとつがバラバラの法律解釈で仕事をしていると、大変なことになります。ふるさと納税はその典型例だったように思われます。

一方、「基準を出してくれ」とみんなで霞ヶ関にお願いすると、いらないところまで細かく決めまくった資料が「助言」として発出され、それに囚われることになります。私も前職で、「防災行政無線の代替または補完となるサービス」とは何を指すのか、自分たちの作っているものはそれに相当するのか、安心して自治体に導入を働きかけて良いのか、というところをずっと仕事としてアピールし続けてきました。そんなこといちいち法律で決めるわけではないですし、決めるベきでもないのですが、やはり自治体ごとにまちまちの判断で動くわけにはいかないし、せっかく国の補助金を入れて導入したサービスが「使い物にならなかった」では洒落にならないので、しっかり国として助言を出すわけです。

ノーアクションレター制度

一方、ここまで複雑怪奇に前例が蓄積されると、「省令・告示まで加味して適法かどうか」を確認することには大変な手間がかかるようになります。特にFinTech分野ではそれが顕著ですし、かといって公の場でそれを確認すると、ビジネスモデルがモロバレになってしまう恐れもあります。また、適法かどうか事前証明できないと、出資を集める際にも不利です。というわけで、「ノーアクションレター制度」というものがあります。こっそり「これ、OKですか?」と省庁に確認して、「うん、とりあえずこれ始めたとしても文句言わないよ」というお手紙をもらえる制度です。

(ノーアクションレター制度のページは各省庁にありますが、ここでは金融庁を例にあげます)この仕組みを使って、個人向け融資の新しいサービスを作る前に、事前チェックを受けて、出資を確定した上で、サービス開始までそれを秘匿する、というやり方をした企業の例もあります。

こういう風に、色々な制度が作られ、産業の発展を阻害することのないように行政のみなさんも苦心してくださっているのですが、とにかく省庁というのは人がめちゃくちゃ足りていなくて、1つのテーマに対して取り組んでいる人が、本当に数人、ともすれば1人か2人というのがごく普通の光景です。そこを訴訟という形で力づくに変化させようとすると、裁判中は何も物事が進まなくなるし、国としては「何も悪いことはしていない」という前提に立ちますので(特にBot Expressの件は、それをOKにしてしまうとマイナンバー制度って何のためにあるんだっけ?みたいな矛盾を孕んでいるので、どうしても総務省としては「はいいいですよー」とはいえないと思う)、あまりいいやり方じゃないんじゃないかなぁ、と界隈では心配の声が聞こえます。

BotExpressの件は渋谷区も良いサービスだと思って導入しているようなので、国家戦略特区を作る、というやり方もあったと思うのですが、特区も何かコンサルビジネスを装った口利き屋さんのようなものが横行しているのではないかという疑念をもたれたりもしていましたので(政権が長期化するとすぐそういう感じになっちゃうのはどうしてなんだろう)、今回は政権交代の流れの中で、早く結論を得たかった事業者側の焦りからこうなったのかなぁ、と感じます。

戦うのではなく、協働していきたい

綺麗事を言うようですが、私はJX通信社としても、WiseVineとしても、行政官の皆さんのお役に立ち、かつ国家の財政支出を最適化できるようなサービスを作って持続可能性のある地方の未来に貢献したい、という思いで、仕事をしています。

例えばJX通信社のAIを用いた防災情報サービス「FASTALERT」は、地方自治体に導入いただこうとした場合に、従来のハードウェアを用いた防災情報システムに比べて圧倒的に廉価ではあるものの、クラウドサービス特有の料金体系と諸々の地方財政措置がうまく噛み合わず、自治体にとっては自己負担の割合が若干高いと見えることがあります。(日本の自治体にSaaSを売るのは難しい、とよく言われるのはこういう財政制度上の事情と、議会議決を毎年経る単年度会計主義によるものです)こうした「時代の変化に応じた地方財政の運用ルールの柔軟化」は、さまざまな業界で必要とされていることなので、時間をかけて取り組んでいきたいと思っています。

というわけで、とても読者を選びそうな話題でした。

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自分の仕事(地方自治、防災、AI)について知ってほしい思いで書いているので全部無料にしているのですが、まれに投げ銭してくださる方がいて、支払い下限に達しないのが悲しいので、よかったらコーヒー代おごってください。