#END展 の広告が駅に出ているのが感慨深かった
JX通信社/WiseVine 藤井です。10年ほど前に、駅のホームから事故で転落し、意識不明になったことがあります(記憶は残っていません)。
6月8日まで、死生観をテーマにした展示会「END展」が二子玉川ライズで開催されています。私自身、上記の通り若い頃に死の淵を見たことがあることと、独身で40歳に近づき、このまま単身で死ぬとしたら、犬を看取ってからにしたいな…などと、不安を感じる年頃になってきたこともあり、他人事とは思えず鑑賞してきました。
東急の全面的なバックアップ
本展は2021年11月に六本木のANB Tokyoで開催された「END展 死×テクノロジー×未来=?」の拡大版として開催されていて、東急グループのセカンドライフ・終活支援会社「東急ラヴィエール」が主催に入ることで、無料展になっています。Hiraqlというライフプランニングツール(と銘打っているが、ストレートに言えば「イベント申し込み機能付きエンディングノート」だと思う)への会員登録をもって申込となる動線になっていて、同社としてもスムーズな認知拡大、意義ある会員獲得につながっているのだろうと思います。
何より驚いたのは、東急の駅構内での告知が大量に出たことで、しかも主催者から直接教えていただきましたが、一時的とはいえ駅ホームの柱サイネージにも出ていたらしい。
直感的には、5月病なんて言葉があるような季節に、「死」というキーワードを大量に駅に出すというのは、とんでもなく勇気がいることだと思います。東急という企業が、文化事業であったりライフプランニング分野に如何に深い理解を込めて取り組んでいるか、を感じます。
実際、かなりインパクトがあったようで、週末に明るい気持ちで見に行くような内容ではないうえに、事前登録が必要(当日受付枠もあるそうです)にも関わらず、幅広い年代のお客さんがひっきりなしに入場していまいた。
展示内容について少し思うこと
展示内容は参加型になっていて、一つ一つの問いに対して、関連した漫画のコマや、アンケート結果などを見て、自分なりの意見を投票していく、というスタイルでした。歩みをすすめるごとに自分なりの考えがまとまってきたところで、終盤には #10分遺言 のインスタレーションがあり、具体的に自分がどう、死と向き合うのか、考えさせられる展開になっています。
私、日本マンガ学会の購読会員でして、漫画の「コマ」を、全体から切り離して独立した絵のように展示する手法については、ちょっと思うところもあるのですが(実際、作品としての意味や背景をうまく伝えきれていない展示もあった印象。どちらかといえば、その作品を読んだ経験のある人に対して、シーンを想起させるためのフックとしての役割になっていた気もする)、コジコジのような謎の生命体から動物、切れば血の出る人間まで、幅広いキャラクターが死について語るシーンを集めることで、漫画に関する展示としても、「漫画における死の表現とはなにか」を考えるような副次的な問いかけもありました。
漫画やアニメ、ゲームの表現では、各国の表現規制に対応する形で一時期、流血表現を強く制限したり、「緑色の血ならOKだよね」とか、不思議なよじれが生じてきた時代もありましたが、最近は視聴年齢の制限が比較的標準的なVODの隆盛に伴って、鬼滅の刃や進撃の巨人のように、はっきりと血が流れる作品が再度増えてきた印象もあります(鬼滅の刃の映画版、視聴年齢に制限がつく国もあるんですよ)。このあたり、定量的な調査している研究者いるのかな…。
最後に自分が死ぬまでにやりたいこと、死についてのエピソードを投稿するボードがあったのですが、やはりこの展示会に足を運ぶ人にはそれぞれ何らかの思いがあるようで、かなり濃密な内容が書き込まれていました。
品川駅のサイネージの「今日の仕事は楽しみですか」炎上事案のようにならず、しっかりとコンセプトを伝えた上で、この展示会が遂行できたのは、しっかりとしたキュレーションと発信があってこそのことだったとかな…と感じました。
日本は宗教的な基盤の薄さもあって、こういったテーマについて考えたり、語り合うための社会的な受け皿が足りないのだろうなと思います。アートがその受け皿の一つとして期待される役割は高いものがあるので、こういった取り組みが今後も東急の支援で続くことに、期待したいと思います。