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那智勝浦の魅力豊かな農村を体感! 観光学部生によるオンラインキャンプ


和歌山県南東部、那智勝浦町の那智滝に近い山村を舞台に7月18日、19日に観光学部3年K.Fさんが主催するオンラインキャンプが開かれ、筆者も参加した。彼は農業支援サークル「agrico. 」に所属している。このサークルは、県内の中山間地域や過疎地域の農業支援を行っており、特にその地域の皆さんとの交流も主要な活動になっている。


小坂地区とは

舞台となった色川地区小阪は、日本一の落差で知られる全国屈指の観光スポット・那智滝の西側に位置し、その滝から引いた用水で田畑を潤したり、上水道に活用したりするなど、水の恵みを最大限に生かして生活している。しかし、9年前の紀伊半島大水害では犠牲者こそ出なかったものの田畑に土砂が流入するなど、甚大な被害を受けた。一方で、新規定住者の受け入れを40年近く前から積極的に進めており、現在、人口の約5割をその定住者が占めている。近年の農村移住促進のブームに乗ってというのではなく、この地域で住むことの厳しさをも説き、それをしっかり理解した上で移住してもらうという堅実な姿勢で人々を受け入れてきた。そんな地域である。

「斎藤さんとこの畑」で獲れた鹿を食べる

今回のオンラインキャンプの参加者たちには、事前に色川地区産の竹やほうじ茶、紀州備長炭入りの炭塩、地域の畑に侵入し捕獲されたという若いオス鹿の肉が手元に届けられた。午後4時開始で、画面上にはいきなり小阪の棚田が広がる。それを背景に地区の案内と参加者の自己紹介を終えると、早速竹を紙やすりで削って箸作りが始まる。地域おこし協力隊として色川地区に着任し、二週間前に引っ越してきたばかりという神奈川県川崎市出身のRさん(19)は、原付バイクで地区から600キロ近くある地元まで帰ったことや地区の自然の美しさに魅了されたことなどを話し、新天地の暮らしに胸を膨らませていた。そうして話している間に各自が取り組んでいた箸が出来上がり、メインの鹿肉の調理に移る。田畑を荒らすシカやイノシシといった鳥獣を駆除する原裕さん(30)によると、このシカは「斎藤さんとこの畑」で獲れたそうで、若いので脂がのっているという。キャンプに参加した観光学部4年のM.Hさんは、「誰の畑で獲れたかまでわかるということが面白い」とコメントした。

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      (ビーツソースと清姫ししとうを添えた鹿肉)

 こうした鳥獣駆除の方法として銃を使用する印象が強いかもしれないが、今回はワナを仕掛けて獲ったそうだ。調理では、市販の肉にはない薄い膜が肉の表面を覆っており、それを取り除く。炭塩とコショウをすり込んでから袋に入れてオリーブオイルでマリネ(漬けること)し、袋のまま茹でる。臭くて固いと思われがちな鹿肉だが、シンプルな味付けだけで臭みもなく柔らかいものとなり、その美味しさに思わず唸った。色川のほうじ茶葉を入れて焼いたパンとともにいただいたが、茶の芳醇な香りが肉の野性味を引き立たせ、とても美味しかった。今後さらに一般に流通し、この美味しさがより知られるようになれば、需要が大幅に増えるだろう。そうすれば、ハンターとして生活する人が増え、獣害も減っていく。そんな展望さえ見える気がした。

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            (ほうじ茶パン)

「色川人トークリレー」

食事後の「色川人トークリレー」では、「棚田を守ろう会」会長、松木繁明さん(67)の話が特に印象的だった。若い頃に大工をしていた松木さんはその経験を生かして様々な施設を建て、地域に貢献している。また、松木さんが会長をしている「棚田を守ろう会」の活動場所は元々休耕田だった棚田を再整備し、立派な地域資源に仕立て上げたものだという。2022年度には色川地区で棚田サミットも開かれるそうだ。

ナイトツアーで見た野原の「星団」

 お楽しみのナイトツアーでは原裕さんの運転で地区を車で回った。晴れていたら満点の星空が見られるそうだが、その日は生憎の小雨。しかし、そんな真っ暗闇に、まるで星団のようにぼんやりと群れで浮かぶものがある。野生の鹿たちの目だ。普段はなかなか見られない鹿の群れに参加者からは歓声が上がっていた。

 2日目は朝から地域上空にドローンを飛ばし、茶畑や棚田、地域の生活を支えている水場などを見学。小阪の人たちが里山の自然を大切に守りながらもその恵みを享受し、日常の生活を送っている様子を見学した。水と緑あふれる豊かな地域の姿に、これまでのステイホーム期間で溜まっていたストレスが解消された気がした。

地域資源を育むことの重要性 

こうして2日間を通してオンラインではあるものの、小阪という地区について楽しみながら学ぶことができた。鳥獣ハンターの原さんが「交流できる人を増やし、地域に興味を持ってもらうようにすることが重要」と語っていたが、まさにその目的は達成されつつあるのではないか。以前取材させていただいた同じ那智勝浦町にあるゲストハウス「WhyKumano」のオーナー、後呂考哉さん(取材当時31)も言われていたが、地域資源があり、交流に重点を置いているからこそオンライン宿泊でも楽しめるのだろう。

 このように新しい流れに適応しつつしなやかに過ごす人々の存在を、これからも伝えていきたい。

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            (鹿肉のレシピ)


(記者K.Y)


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