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和の文化と融合させた新たな呉服の魅力を伝えたい ――屈指の老舗「みそや呉服店」マネージャーにインタビュー

そのルーツは室町時代にさかのぼるという全国でも屈指の老舗「みそや呉服店」(和歌山県橋本市)を訪ねた。マネージャー谷口勝彦さんが、時代の流れとともに変わりつつある「呉服」への思いやお店の歴史について熱く語って下さった。店舗の「別館主屋」「別館上蔵・下蔵」はこの地域では珍しい京風町家の作りになっており、2004年、国の登録有形文化財に登録されたという。「みそや」という名前の通り、1495年の創業当初は味噌を製造し、江戸時代には江戸へ送り販売、1865年(慶応元年)から京都の呉服を仕入れて売っていたそうだ。歴史のある呉服店だが、台風や水害に見舞われがちな和歌山という土地がら、建物全体の嵩上げや屋根や壁の修復・保存も必要で、2017年にも2年がかりの工事が完了させた。取材では京風町家としての作りや、当時使われていた物の数々を見せていただいた。

ばったん床几(ーしょうぎ)1

京風町家でよく見られる「ばったん床几」(手前に引き出すと腰掛けることができるようになり、使用しないときは折りたたむことができる。)


――呉服に対する人々の考えはどのように変わってきたと思われますか。
 「生活スタイルが変わっていくにつれ、人と呉服の関係は変わっていくものだと考えます。戦前はお嫁入りの道具の一つとして親が留めそでや訪問着を用意するという形でした。戦後、人々の暮らしが豊かになって1980年ごろまでは呉服はよく売れていました。しかし、1990年代から呉服に対する意識が変わってきたんですね。その意識変革は都市から地方へと伝わっていきました。まずは予算の問題が出てきます。呉服を全部そろえようとするともちろん相応の値段になります。さらに、昔は入学・卒業式などの式典で多くの人が着ていましたが、そういう方が減り、最近では趣味で着物を着る方が多くなっている。販売する着物の傾向もフォーマルからカジュアルに変わりつつあります。親の世代が子供に呉服をそろえることが少なくなっていることも影響していると思います」

――近年の呉服への意識変革について率直にどうお感じになられますか。
 「それは構わないと考えています。先ほども言った通り、生活スタイルが変われば人と呉服の関係は変わりますし、無理して沢山の人に着てほしいとも思いません。でも、呉服を着る誇りを知ってほしいし、呉服に興味があったら欲しいものを買って着てほしい。以前、ワシントンで開催された「全米桜祭り」に着物姿で妹と参加したことがあるんです。会場では様々な国の方が自分で着物を着付けて歩いていました。そんな中でベンチに座っていると、日本人の着物姿を現地の方が見つけてだんだんと周りに人が集まってきたんですよ。彼らにとって、着物や和の文化というのはうらやましく思われるわけです。でも、日本人は和の文化の誇りをあまり感じていない。着ることにハードルを感じてしまっていたり、呉服の良さの理解に差が生じたりしている。確かに着こなしにはルールもあるけれど、まずは難しいことは考えずに呉服店などに来てほしい。私たちは着付けの手伝いや着物に親しむことのできる企画を考えていくので、どんどん来てほしいですね」

呉服の運搬に使用していた道具1

呉服の運搬に使用していた道具


――着物に親しんでもらうために具体的にどのようなことを考えていますか。
 「まずは着物姿で気軽にお出かけしてもらえるようにしたいですね。「みそや呉服店」でも着物姿で観光地を巡るツアーを企画したり、地元で催された観光ツアーに参加したりしたこともありました。でも、今はコロナでなかなかそういったこともできないのが本当に残念ですね。あとは着物は趣味の世界になってきていますから、弊店で取り扱いのある備前焼や竹細工などの和の伝統工芸・文化と関連して良さを発信していけたらなとも思っています」


――呉服には流行はありますか。
「個人的感覚ですが、一般の着物はだいたい10年周期、振袖はそれより短くて5年周期くらいですかね。振袖は成人式を迎えるお嬢様が一生に一度の晴れ着として着ますよね。そうすると他の子が着ている柄や色味が良いなと思ったり、逆に他の子が着ていない着物が欲しくなる、といったように流行が変わっていくことはありますね。でも基本的に着物というものは伝統がありますし、一概に流行に左右されたり、価値が失われたりすることもないので自分が着たいものを選んでほしいですね」

――男性に対しても呉服を着てほしいという思いはありますか。
「そう思いますが、男性は女性に比べて衣装にお金をかける方が少ないですし、なかなか難しいとは思います。ノーベル文学賞の授賞式で川端康成氏が紋付き袴を身に付けていましたが、あれはいいなと個人的に感じました。女性の場合と同様に少しでも興味を持ってもらいたいですね。まずは入り口を知って、それから核心に入ってほしいと思います」

――大学生に対して何かメッセージはありますか。
「成人式などで着る機会があったりすると思いますが、親御さんから譲ってもらった着物を着てみるなどして呉服への興味を持ってほしいですね。呉服店に行ってみると、着付けの手伝いをしてもらえたり、今の時代に合った新しい呉服が登場していることに気づかされたりすると思います。呉服を含めて日本の和の文化を誇りに感じて下さい」

(清水太陽)

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